461話 守るべき者と戦う相手!
「ロスナイとか言う弟に確認した方が良いだろう。もしかしたら、意図的に贈ったとも考えられる」
「お前は、何を証拠に疑うのだ」
「あくまで可能性の話だ」
魔族に肩入れをして、人族を疑う俺の発言はフリーゼにとって不快でしかないようだ。
「どこで手に入れたかも、俺的には興味がある」
俺は気にせずに話を続ける。
「確かに、魔集石は人族が簡単に入手出来るものでもありません。見た目的には只の石ですからね」
ターセルが俺を助けるかのように話してくれた。
「確かにそうですね。可能性という事だけ考えれば、ロスナイが私を殺害する動機は幾らでもあるのも事実です」
「この領地を欲しているという事か?」
「多分、それが一番の理由かと思います」
ダンガロイが言葉を選びながらも、自分が殺害される可能性を口にする。
俺的には、そこまで欲しがる領地でも無いと思えるのだが……。
「私が死ねば、ロスナイはピッツバーグ家の当主になりますから」
ダンガロイは寂しそうな表情で話す。
詳しい事は分からないので後で、ターセルか誰かに聞く事にする。
その後、フリーゼとルーカスの話は平行線に終わる。
姉とはいえ、ルーカスは国王なのだから、もっと強引に押し通しても良いとも感じたが、人が良いルーカスには出来ないのだろう。
フリーゼは守るべき者と、戦う相手が誰なのかが明確になっている事がよく分かった。
相手は違えど、俺も同じ様な考えだからその部分に関しては共感出来る。
たまたま、俺の周りには魔族に対して、ここまで極端な考えを持つ者が居なかっただけで、この世界にはフリーゼのような考えを持つ者が多い事のだろうと感じる。
とりあえず、第一級極秘事項なので他言無用という事だけは伝えていた。
フリーゼにしてみれば、人族から魔王が誕生した事は認めたくは無いので、誰かに話すような事はしないと思うが……。
護衛のカーディフとセドナは、第一級極秘事項を言い付けられた事が初めてのようで、緊張しているのが分かる。
「誰かに話したら死刑らしいぞ」と言うと、セドナは唾を飲み込む。
軽い冗談のつもりだったが、第一級極秘事項というのは、それ程の重要な事だと改めて思う。
「俺から報告したい事があるが、良いか?」
話が終わったと思った俺は、ルーカスに奴隷制度に反対していた貴族達の報告を、この場でする事を提案する。
ダンガロイの弟であるロスナイが絡んでいるので、俺はこの場が良いと判断した。
「報告? なんじゃ、言ってみろ」
「王妃や、王女達には席を外して貰った方が良いな」
俺は話終えると、イースの顔を見る。
イースは何も言わずに、ユキノとヤヨイを連れて隣の部屋に移動をした。
俺はシロを護衛に付けて、カルアやターセルにはこの場に残って貰った。
「まずは、これを見てくれ」
俺はクロがまとめた報告書を机の上に置く。
俺のスキル【複製】を使い原本を含めて三部あるので、最初はルーカスとダンガロイに、フリーゼが読んでいた。
三人共が読み進むにつれて、表情が変わっていく。
写真を付けている為、口頭での説明無しでも内容は十分に理解出来る。
全員が報告書を読み終えると、クロに補足説明をして貰う。
ルーカスは思っていた以上に、事の重大さに頭を抱えていた。
フリーゼは怒りが爆発するかのように、説明しているクロを見ている。
クロに怒っている訳でなく、報告書にある貴族達が怒りの矛先なのは分かっていた。
ダンガロイは実弟が、このような事に関与している事で、心を痛めているように思えた。
「奴隷商人と癒着がある貴族を調べていたら、俺の思っていた以上に非道い有様だ」
俺は当初の目的を皆に話す。
「後は、国の問題だ。冒険者である俺は、これ以上の協力はするつもりは無い」
俺は、ルーカスの協力者という言葉を敢えて使う。
「確かにそうだ。国王として、このような悪行を見逃す訳にはいかぬ」
ルーカスが国王らしい発言をする。
すぐに暗部を使い、追加調査をすると言っていた。
しかし、暗部ってどういう組織なのかが、個人的に気になる。
国王直属なので、表だって行動が出来ない。
組織名からも気付かれない様に行動するのであれば、それなりの実力者だろう。
ルーカスに聞けば、教えてくれるのだろうか?
簡単に教えてくれるのであれば、暗部の意味も無いがルーカスの口の軽さも知っているので、少しは期待して今度、聞く事にする。
「それと、二ヶ月後の国王の生誕祭で、各領主が王都に集まるだろう。その前に怪しい領主は贈り物の調整という名目で、タルイに集まるらしいぞ」
クロから聞いた情報を、ルーカス達に伝える。
国王の生誕祭なる行事がある事自体、俺は知らなかった。
贈り物の調整というのが、よく分からない。
他の貴族よりも、ルーカスへの印象を良くする為に競い合っている印象だが、この世界では違うようだ。
それと俺とユキノの行事も、その時にすれば経費も掛からないと思うのだが……。
この世界の感覚では、一緒に祭事を行うという感覚が無いのだろうか?
「そこで一網打尽に出来るという訳か……義兄上、この事はロスナイ殿には黙っていて貰えます様に頼みます」
「勿論です。弟とはいえ、私には領主として、この領地を守る義務があります」
「何卒、頼みますぞ」
ルーカスは、ダンガロイを信用しているのか口約束だけのようだ。
「タクトよ。この報告書は貰っても良いか?」
「一部は俺が保管したいので、残り二部は好きにしてくれ」
念の為、一部は自分で保管する。
クロが苦労して作成した物を、簡単に渡すつもりは無かった。




