452話 アルミラージ討伐!
「ここが、アルミラージの住処か」
雨風を凌ぐかのように、大きな入口が俺達の目の前にある。
「じゃあ、入るか」
俺の言葉で、洞窟に入っていく。
発光石が少しある為、うっすらだが周囲が見える。
「少し、暗いな」
俺は【光球】で周囲を照らす。
「シロも適当な魔法で辺りを照らしてくれ」
「はい、御主人様」
シロは両手でフリーゼに触ると、フリーゼの身体が光り始めた。
「これは!」
驚くフリーゼ。
「私の考えた新しい魔法です」
「何! エターナルキャットは新しい魔法を作り出す事が可能なのか」
「はい。御主人様のお陰です」
シロは笑顔で答える。
その後、カーディフとセドナも同様に魔法を掛ける。
「クロさんは、必要無いですよね」
「勿論だ」
シロはクロに一応、確認を取っていた。
辺りが明るくなり、十数メートル進むと、地面に骨が幾つか転がっている。
その中には、人骨らしきものもあった。
寒さを逃れる為に、この洞窟を見つけたがアルミラージか他の魔獣に食べられたのだろう。
「そろそろだな」
【魔力探知地図】で魔獣の位置は把握している。
向こうも俺達が洞窟に入って来たのは感付いていたようで、少しずつ俺達に向かって来ていた。
俺は【風刃】を撃ち込む。
数メートル先で、悲鳴が聞こえるが気にせずに進んでいく。
アルミラージがどのような攻撃をしてくるのか気になるので、【風刃】による攻撃を止める。
「どうしたのだ?」
俺が攻撃を止めた事に疑問を持ったフリーゼが話し掛ける。
「アルミラージの攻撃を見てみたいので、攻撃を止めただけだ」
「お主は、戦闘狂か?」
「いや、違うぞ」
俺はフリーゼに回答するが、フリーゼは疑っているようだった。
暗闇の奥から、こちらに向かってくる気配を感じる。
光が届く所まで来ると、数十匹のアルミラージが姿を現す。
「思っていたよりも小さいな」
二メートル程の身体かと思っていたが、一メートル強程の大きさだ。
額から出ている一本角は立派に見える。
アルミラージは体勢を低くして攻撃態勢になる。
次の瞬間、一気に俺の方に向かって数匹のアルミラージが跳んできた。
脚力を生かした攻撃だと思いながら、避けると後ろにフリーゼ達が居るので、先頭で跳んできたアルミラージの角を掴み上下左右に振り回す。
俺の掴んだアルミラージに別のアルミラージが刺さり、それに次のアルミラージが刺さる。
すぐに、振り回す事が出来なくなり、俺達の進路を塞いでしまった。
仕方ないのでアルミラージの死体を【解体】して、【アイテムボックス】に仕舞う。
死体を片付けると、既にアルミラージ達は奥に逃げて行ったのか、その場には居なかった。
「逃げ足が早いな」
兎は危機を察知する能力が高いと聞いた事があったが、アルミラージも同じなのだろうか?
洞窟を進んでいくと先程、俺が【風刃】で倒したアルミラージの死体があるので片付けておく。
「思ったよりも数は少ないな」
逃げて行ったアルミラージは散り散りに隠れている。
「全滅させていいのか?」
フリーゼに尋ねる。
「勿論だ」
当たり前だと言わんばかりに、フリーゼが答える。
此処にアルミラージが居なくなったら、別の魔獣が住み着く恐れもある。
それが良い事なのか悪い事なのかは、今の段階では判断出来ない。
俺は何も言わずに、アルミラージへの攻撃を続けた。
「これで終わりだな」
俺は最後のアルミラージを倒した。
「クロ。悪いが、死体の回収頼めるか?」
「分かりました。暫く御待ち下さい」
そう言うと影の中に潜った。
「これで、良いんだな」
「いとも簡単に討伐したな」
「そうだな、それ程強い相手では無いからな」
「アルミラージが強くないとはな……。カーディフにセドナは、今の発言をどう捉える」
俺の答えに対して、フリーゼはカーディフとセドナに意見を求めた。
「そうですね。私でもこの短時間での討伐は無理です。そもそも、単独討伐で全滅出来るかは自信ありません」
カーディフが先に答えると、セドナが続いて答える。
「私では到底無理です。まだ、フリーゼ様をお守りするのに実力不足な事を痛感致しました」
セドナは自信を無くしていた。
「セドナ。気にする事は無い、お前は十分に強い」
自信喪失しているセドナを、フリーゼが鼓舞する。
「お前の強さが異常だから、セドナが自信を無くしただろう」
フリーゼが冗談気味に話す。
「まぁ、俺は常識外れが長所だから、俺と比べると損をするぞ」
自分でも何を言っているのか分からないが、とりあえずセドナを励ます言葉を掛けた。
「長所が常識外れとは面白いですね」
セドナが笑う。
「ところで、アルミラージの素材も高いのか?」
「そうだな、角は使用用途が多いし、皮も衣類や敷物に使われるので需要は高いな」
「そうか……」
俺は考えるふりをして【全知全能】に、この洞窟で俺が討伐したアルミラージの数を聞いていた。
「今回の討伐で、八十三体のアルミラージを討伐したので、領主に三十体、ホラド村に三十体、残りの二十三体を俺で良いか?」
俺の提案を聞いたフリーゼは、何も言わずに俺を見ていた。
「分け前が少ないのか? それなら俺は三体で良いぞ」
「いや、何を言っている。私が御前達に報酬を払う事はあっても、討伐した魔獣の分け前を貰う事等あり得んだろう」
「そうか、一応同行しているし、ホラド村は被害に遭っていたので救済措置が必要かと思っただけだ。別に報酬が出るのか?」
「当たり前だ。魔獣討伐を無料で依頼する程、馬鹿では無い」
「しかし、屋敷での話ぶりではてっきり無料だと思っていたぞ」
「それは、物のはずみだ。依頼に見合った報酬は支払う」
フリーゼはツンデレ気質があるようだ。
「それなら、アルミラージの素材は六十体分をホラド村に寄付すれば良いって事か」
「……何をどう解釈したら、そうなるんだ? 討伐したお前が全て持ち帰って良いんだぞ」
「そうだけど、俺よりホラド村の方が必要そうだからな。俺はいつでも討伐出来るから、そんなに多くは必要ない」
フリーゼは絶句していた。
「実際、二十三体でも多いから、十体だけ貰っていく」
「……お前がそれで良いなら、私は問題無い。それより、魔獣の討伐した数や、あっという間に分け前の数を導き出すのは凄いの」
「はぁ、それはどうも」
討伐した数の事よりも、分け前の数を出した事を驚かれたのに、俺は驚く。
この世界に算数や数学といった知識が乏しいのは知っていたが、今回の件で改めて、この世界の学力が低い事を思い知らされた。
「主、戻りました」
「おぉ、ありがとうな」
クロに礼を言う。
「じゃあ、本命のイエティ討伐に行くが良いか?」
「勿論だ」
フリーゼは嬉しそうに答えた。




