442話 意味ある厳しさ!
カーディフと、魔法攻撃無しの対決する事になる。
「タクト殿、宜しく御願い致します」
「こちらこそ」
特訓場と呼ばれる場所に移動する間に、カーディフから礼儀正しく挨拶をされた。
「タクト殿は、武器は何を使用されるのですか?」
「素手だ」
「素手? という事は、職業は格闘家ですか?」
「いや、無職だ。訳有って、職に就けないでいる」
「……そうですか」
本当に毎回、無職と言うのが悲しくなって来る。
「無職だと!」
俺と、カーディフの会話を聞いていたフリーゼが叫ぶ。
「無職の男に、第一王女であるユキノを嫁がせるつもりなのか!」
フリーゼの怒りはよく分かる。
可愛い姪を、無職の男に嫁がせたくは無いだろう……。
「姉上、タクトは無職ですが無職だからこそ、職に縛られずに色々な事が出来るのです」
一応、ルーカスがフォローをしてくれる。
フリーゼは、無職の俺が強い事に納得は出来ていない様子だ。
一般常識からすれば、当たり前の反応だ。
「伯母様。タクト様は、職等の縛られない素晴らしい御方なのです」
ユキノが、笑顔でフリーゼに話し掛ける。
フリーゼも、ユキノの顔を見たら、それ以上は何も言わないでいた。
その後の会話から、領主の名は『ダンガロイ』と言うらしい。
おおらかで笑顔が似合う貴族と言う印象だ。
フリーゼとは対照的な印象を受ける。
「その隣の獅子人が、カーディフの後任か?」
カーディフの隣で、少し下がって歩いている獅子人について質問をする。
「はい、そうです」
カーディフは、俺の問いに答えると後任の獅子人に目線を送る。
「セドナと申します。以後、お見知りおきを」
セドナは俺に一礼するので、俺も軽く頭を下げる。
「実力は、カーディフと同じ位なのか?」
「そんな、カーディフ様の足元にも及びません」
セドナは、カーディフと比べられる事が、とんでもない事かのように焦っている。
その様子から、カーディフとセドナの間には、良い師弟関係が築けている事が分かる。
「着きましたよ」
カーディフが、先にある扉を見ながら俺に教えてくれた。
しかし、訓練場や練習場でなく、特訓場という名称なのがとても気になる。
俺は念の為、【魔法反射(二倍)】を【オートスキル】から外しておく。
フリーゼ自ら扉を開ける。
特訓場と言う名の通り、衛兵達が上官からのシゴキを受けていた。
怒号が飛び、失神している者には水を掛けられて、強制的に目を覚まされて、すぐに訓練に戻されていた。
パワハラだという第一印象だった。
「訓練がもう少しで終わるので、待っててくれ」
フリーゼは、俺達にそう言うと特訓している衛兵達の所まで、歩いて行った。
衛兵達はフリーゼの姿を見つけると、急に機敏な動きになる。
フリーゼに気が付かなかった衛兵は、周りから取り残された為、サボっては居ないが目に付く存在になる。
「そこ! 動きが遅い。連帯責任として特訓場十周」
「はい!」
衛兵達は大声で返事をして、今までしていた訓練を止めて、号令を掛けながら走り始めた。
……恐怖支配の軍隊なのか?
衛兵の中には屈強な者も居る。
フリーゼは地位を利用して、衛兵達を特訓させているのかと思うと、良い気持ちがしなかった。
衛兵達が走り終わるのを黙って見続ける。
「よし、今日の特訓はここまで」
「有難う御座いました!」
フリーゼが終了の合図をすると、気力体力共に途切れたのか、その場で倒れ込む者も居た。
隊長らしき男性がフリーゼの所に来て、今日の特訓の報告をしていた。
フリーゼは報告を聞きながら歩き、倒れこんでいる衛兵達に声を掛けていた。
声を掛けられた衛兵達は、俺の予想に反して笑顔で会話をしていた。
決して作り笑いでは無く、心の底から出る笑顔なのが分かる。
「フリーゼ様は、厳しいですがそれ以上に、優しい御方です」
俺の隣で、カーディフが俺の気持ちを読んだかのように話し掛けてきた。
「戦地に赴く事になれば、信用出来るのは自分の強さになります」
「戦地って、そんなに戦いがある訳でも無いだろう?」
「この地域は、寒冷地域の為、魔獣達が食料を奪う為に、村を襲ったりする事が多いのです」
確かに、冬前には食料を確保する為に動物も、必死になって食料を確保する。
大型動物や魔獣では、村人では対処出来ない事は理解出来る。
「フリーゼ様は、誰一人として死なせたくないのです」
自分以外の者は『使い捨て』と思っている貴族とは、違うらしい。
ルーカスと同じように、共感出来る部分があるのだと思った。
「待たせたな」
フリーゼは俺達の方を向く。
その顔は、本当に嬉しそうだ。




