430話 二つ目の頼み!
部屋に着くと、トレディアから再度、クラーケン討伐の礼と解体した礼を言われる。
クラーケンの身がまだ多数残っている事を伝えると、漁の餌は足りているという理由から廃棄だと言う。
俺が貰ってもいいかと聞くと、使い道が無いので好きにして良いと言うので、遠慮なく頂く事にした。
カルアと目線が遭うが、眉間にしわを寄せていた。
「今回のクラーケン討伐の報酬になる。どうか、受取って欲しい」
そう言うと、大臣が金貨の入った袋を持ってくる。
断ろうとする俺に、ルーカスが受取るように言う。
オーフェン帝国からの行為を無下にするなと言う事なのだろう。
ルーカスの顔を立てて、受取る事にする。
議題は自然と俺の事になる。
ステータスを閲覧した際に、ユニークスキルが無い事は分かっている。
しかし、【アイテムボックス】を習得していたり、自由に空を飛んでみたり、一瞬で移動した事が不思議だったようだ。
「悪いが、ユニークスキルは見えない様にしている」
「それは、見せる事が出来ないという事か?」
「見せたくないと言うのが本音だ。どこからか情報が漏れて、厄介事に巻き込まれる事は避けたい」
トレディアに向かい、正直に思っていた事を話す。
「……そういう事なら、無理強いも出来ぬな」
残念そうな表情だ。
物分りの良い皇帝で助かった。
無理にでも見せろと言ってくるのであれば、俺としても権力に屈するつもりは無いので、反抗するつもりでいた。
「トレディア殿。申し訳ないが、私もタクトのステータスは、全て知らされておらぬのです」
「私もそうですが、そちらのコルサ殿のユニークスキルでも、全てを覗き見する事は出来ないかと思います」
ルーカスとターセルが、俺を助けるように発言をしてくれた。
既にコルサから、俺のステータス詳細まで覗けない事を聞かされているトレディアは、驚きもせず納得していた。
トレディアも、俺に対してこれ以上の詮索は出来ないと判断をしたようだ。
俺がルーカスの親族になる事も、多少は関係しているだろう。
「残っている俺の、もうひとつの頼みだがいいか?」
「そうだったな。なんだ?」
「二つ目の頼みを言う前に、追加で頼みたい事がある」
「何だ、申してみよ」
「オーフェン帝国内での、ガルプツー討伐許可が欲しい」
俺自身、ガルプツーの事を後回しにしていた為、被害が大きくなっている。
今回は、ロキにも被害が出ている。
今迄、後手に回っていたのが原因だ。
こちらから、仕掛ける必要があるがオーフェン帝国内で勝手に動けば、エルドラード王国に迷惑が掛かる。
だからと言って、オーフェン帝国の冒険者ギルドに登録して活動をすれば、エルドラード王国内で問題が発生した時に、即座の対応が困難だ。
これから、エルドラード王国とオーフェン帝国の会談の際に、俺の行動が自由に出来るのであれば、選択の幅は広がる筈だ。
「……それは、エルドラード王国側と話をする必要がある。会談が終わるまで結論を待ってもらえるか」
「あぁ、それで構わない。二つ目の頼みを言ってもいいか?」
「申してみよ」
「オーフェン帝国にある『魔穴』に入る許可を貰いたい」
「魔穴だと! 入って戻ってきた者が居ない場所だと、知って申しておるのか」
「勿論だ。個人的に、その魔穴にどうしても用事がある。クラーケン討伐が思っていたよりも早く終わったので、出来れば今から向かいたい」
「この城から、魔穴のある島までは船で一週間は要するぞ」
「俺は空を飛ぶ事が出来るのは、知っているだろう」
「……確かにそうだが、あそこには『バジリスク』が多数生息しておると報告があるのだぞ」
魔穴に入って戻ってきた者が居ないのに、バジリスクが生息している報告があるのは矛盾しているが、魔穴にバジリスクが居る事は【全知全能】で知っているので、間違った情報でも無い。
「それで、魔穴で何をするつもりなのだ?」
「バジリスクを数体討伐するつもりだ」
俺の答えると、トレディアは言葉を失っていた。
今日の会談は、俺が居なくても国同士の最終調整なので問題無い事を伝えて、夜までには戻ってくる事を約束する。
バジリスクを討伐する理由は、生体実験施設の戦いで、俺とアルを庇って石化したクンゼを元に戻す為だ。
石化されている間は、身体の機能が停止している冬眠のような状態で死んでいる訳ではない。
石化攻撃を持つバジリスクの猛毒な血をクンゼの体全体に垂らせば、石化は解除出来るらしい。
しかし、猛毒な血の為、すぐにその対応をしないと石化が解けたとしても、命を落とす危険がある。
かなり難易度が高いが、俺であれば可能だ。
「分かった。許可を出そう」
トレディアは、コルサに冒険者ギルドへ連絡するように指示を出していた。
バジリスクは、オーフェン帝国内にある島にしか生息していないので、勝手に島に上陸して討伐する事も考えていた。
他の魔獣等も生息してるが、島の王として君臨しているのは間違いないだろう。
気になる事といえば、その島にしか生息していないのであれば、バジリスクの亜種であるバジリスクロードが、その島の王だと予想出来る。
普通のバジリスクでも、バジリスクロードでも効果は同じらしいが、討伐が始まれば間違いなくバジリスクロードと対決する気がしている。
ユキノとイースの警護もあるので、シロを呼び戻す為に連絡をすると、ババ抜きの真っ最中だった。
村の子供達も交えて、数字を教えながら楽しんでいるそうだ。
アルとネロも、ババ抜きのルールを把握したが、運と心理戦になる為か、子供に負けては悔しがっているそうだ。
しかし、二人共が「ババ抜きなら俺に勝てる」と思っているらしく、子供達相手に何度も対戦している。
シロが抜けても問題無い事が確認出来たので、タイミングを見てこちらに戻って貰い、イースとユキノの警護を頼む。
俺はオーフェン帝国から許可が出たらすぐに、バジリスクが居る島に向かう事にした。




