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429話 低姿勢!

「クラーケンを、こんなに簡単に討伐するとは……」


 飛行艇を降りてもトレディアは同じ言葉を繰り返して、

 トレディアは、信じられない様子だ。

 それはスタリオンも四獣曹も同じのようだ。


「クラーケンの(コア)は、誰に預ければ良い?」

「……とりあえず、そこに置いて貰えるか」

「クラーケンの死体はどうする?」

「死体とは?」

「クラーケンの死体を【アイテムボックス】に仕舞ってある」

「……ここに出せるか?」

「勿論だが、少し狭いがいいのか?」

「構わん。出してくれ」


 控えめに少しと言ったが、この広場では明らかに狭すぎる。

 しかし、皇帝の命令であれば逆らうつもりも無いので、出した後に後悔するだろうと思いながらも、俺は言われた通りに、クラーケンの死体を広場に出す。

 広場から飛び出し、体の一部は城の外壁に凭れている。

 触手である足に至っては、城壁から飛び出してしまっている。

 クラーケンを間近で見た。トレディア達は唖然としていた。

 いきなり、城に巨大な物体が現れた事で、城内は大騒ぎとなる。

 俺は関係無いと、思いながらその様子を見ていた。


「タクトよ、本当に申し訳なかった」


 ルーカスが俺の【アイテムボックス】の事を喋った事について、謝罪をして来た。

 隣のイースも頭を下げている。


「終わった事だし、もういい」


 今は怒ってもいないし、仕方が無いと諦めた気分なので、どうでも良い事だった。


「まぁ、他の重要な事には十分気を付けてくれ。俺だけでなく他にも色々と影響するからな」

「分かった。今一度、肝に銘ずる」


 ルーカスは、自分の失態を俺以上に悔いていた。


「クラーケンを空で倒すとは、奇想天外ですね」


 ターセルが場を和ませるように、話し掛けて来た。


「海で戦えば波が起きて、港町に被害が出るからな」

「流石ですね。ただ討伐するだけでなく、周りの被害も考えた上で最善の方法を選択されるとは」

「港町が被害に遭えば、美味い物が食べれないからな」

「確かにそうですね」


 ターセルと二人で話している間も、オーフェン帝国の者達は大騒ぎしながらクラーケンの解体をしている。

 一声掛けてくれれば、俺が一瞬で解体をしてあげるのに。


「ところで、クラーケンは食べれるのか?」

「あんなグニョグニョした生き物、食べるわけ無いでしょう」


 俺の質問にカルアが、眉間にしわを寄せた顔で答える。


「イカやタコは食べないのか?」

「食べるわけ無いじゃない。あんなのは殺して海に戻すのが常識よ」


 軟体生物を食べる習慣は、この世界には無いようだ。


「……タクト。あなた、まさか食べる気なの?」

「あぁ、勿論だ。美味いかどうかは別だがな」


 俺の言葉に、他の者達からは白い目で見られる。

 絶対に食べたくないという意思表示なのだろう。


「食べもしないのに、なんで解体しているんだ?」

「あれは研究用や、漁に使う為の餌だと思いますよ」


 ターセルが、クラーケンの死体の使い道を教えてくれる。

 クラーケンの死体で何を研究しているのか興味があったが、オーフェン帝国の国家機密かも知れないので、それ以上は興味の無い振りをする。


「すいません」


 四獣曹のポルテが、俺達の所に走ってきた。


「どうされましたか?」


 一番近くに居たターセルが答える。


「大変申し上げ辛いのですが、解体作業を手伝って頂けないかと思いまして……」

「それは、トレディア皇帝からの依頼ですか?」

「いえ、私の独断ですが、駄目でしょうか」


 今のままだと、何時間も解体作業に時間を要する。

 まだ、昼前だが今から陽が昇れば、腐敗するのも時間の問題だ。

 誰も俺達に助けを求めない中で、恥を忍んで俺達に頼んできたポルテは、咄嗟の状況判断に優れているのだろう。


「俺がするが、問題無いか?」


 一応、ルーカスに確認をする。


「あぁ、手伝ってやってくれ」

「有難う御座います」


 ポルテはルーカスに頭を下げて、礼を言う。


「とりあえず邪魔なんで、クラーケンの死体から人払いをしてくれ」

「えっ?」

「解体するのに邪魔だから、人払いして欲しいんだが……」

「タクト殿、お一人でされるのですか?」

「そうだが、問題でもあるか?」

「いえ、そのような事は……」


 ポルテの指示で、クラーケンの死体から人が徐々に離れていった。

 数分後には、人が居なくなる。


「皆、死体から離れました」

「分かった」


 俺はクラーケンの死体を【解体】する。

 一瞬で、内臓や軟骨と身に分かれる。


「これでいいか? なんなら身も、好きな大きさに切るぞ」


 ポルテから返事が無い。


「おい!」

「あっ、すいません。何でしたか」

「身を細かく切るなら、切ってやるぞ」

「はい、お願いします」


 ポルテは、人ひとりで運べる大きさと言うので、五十センチ角程の大きさに切る。

 切ったクラーケンの身を何人かで運んで行ったが、運ぶ前に腐りそうだったので俺が【アイテムボックス】に入れて運ぶ事にした。

 【アイテムボックス】を見たことの無い者達から、羨望の眼差しで見られる。

 先程、一瞬で【解体】した事も多少は、影響をしているのだろう。


 ポルテに案内をされて、研究施設の前にクラーケンの死体を並べる。


「俺の【アイテムボックス】の中では時間は、停止しているから腐る事はない。後で必要な所を案内してくれれば問題ない」

「そうなのですね。本当に助かります」


 俺の感覚だが、ポルテはこの国であった獣人の中で誰よりも腰が低い。

 この国最高と言われる『四獣曹』に似つかわしくない印象だ。


 俺はその質問を失礼だと謝った上で聞いてみた。


「この国は、強さが全てなのはタクト殿も御存知ですよね」

「あぁ、そう聞いている」

「この国の殆どは、戦闘系職業を選択しています。それが自分に不向きだと知っていてもです」


 通常は適性検査で、自分の向いている職業を教えてくれる。

 その職業を選ぶか、他の職業を選ぶかは自分次第だ。

 俺の場合は、転移のバグか何かで、適性が無いやらで職業選択自体が出来ないので、無職なのだが……。


「私のように治療士を選択するものは、本当に極少数なのです。パーティーでも戦闘に参加出来ないのでお荷物扱いです」

「いやいや、治療士が居るから安心して戦闘が出来る訳だろう?」

「回復するのであれば、回復薬もあります。難易度が高い冒険を経験した者しか、この国で治療士の存在を理解出来ません」


 オーフェン帝国は、エルドラード王国と違い、魔物の数が少ない。

 冒険者と言いながらも、命懸けの戦闘をする者は極限られている。


「ポルテは、なんで治療士を選択したんだ?」

「適性検査で、一番適性が高かったからです。特に理由はありませんでしたね」


 笑いながら恥ずかしそうにしているが、不自然な感じだ。

 言いたくない事情でもあるのだろう。


「会談のお部屋に皆様移動されたようですので、私達も向かいましょう」

「そうだな」


 ポルテに案内されて、会談をする部屋へと急ぐ。

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