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419話 侮辱する行為!

「何故だ……」


 ロキは自分が生きている事を、不思議がっていた。

 俺はロキが、自分の首を跳ねようとした瞬間に【転送】を使い、ロキの剣を手元に引き寄せた。


「お前が死ぬと、ユキノは勿論だが、多くの奴が悲しむ」

「しかし、今回の失態は死んで詫びる他に無い」

「死ぬのは簡単だが、死ぬ以上に生きて償う事を選んでくれないか?」

「俺に生き恥を晒せと言うのか」

「あぁ、そうだ。生きてさえいれば、良い事はあるだろう」

「お前は俺を殺す事も、死なせてくれる事も阻止するのか」

「当たり前だ。じゃあ聞くが、国王が死ぬなと言えば、ロキは死なないのか?」

「……それは」


 この世界では、生きたいと思っている奴が、簡単に死んでしまう事が多い。

 自ら命を絶つ事は、そういう奴を侮辱する行為だと思っている。


「闇落ちした鬼人が今後、大変な事は想像出来る。しかし、お前が死ねばユキノは幸せになれないぞ。それでも良いのか?」


 ロキは黙ったままだった。


「ロキが、自分を許せない気持ちも分かるが、今回は闇落ちしただけで、誰も殺していない」

「それは、お前が俺を止めてくれていたからだろう」

「そうだ。少しだけ、国王達を驚かせただけだ。そこまで気に病む事もないだろう」

「護衛三人衆としては、有るまじき失態だ」


 ロキの気持ちも理解出来る。


「それなら、やはり国王に処分を決めて貰えばいいだろう。そのほうがロキも納得出来るんじゃないのか?」

「しかし、国王様の前に、このような姿をお見せする事は……」


 灰鬼人は、魔人族の類だと一般認識されているので、魔人族になった自分の姿を見せるのを恥じているのだろう。

 ましてや、ここはオーフェン帝国だ。エルドラード王国の法で裁かれない。

 ルーカスより、トレディアの一存で処遇が決まる。


「……分かった。ロキ、お前は死んだ事にする」


 俺のいきなりの提案に、ロキは驚く。

 ロキは俺がこの場で殺した事にする。

 姿を隠して貰う為、ゴンド村で暫く過ごして貰う。

 事情を俺が説明してから、ゴンド村で国王達と会って今後の事を決める事を話す。


「それだと、お前は俺を殺した事で非難を受ける事だってあるぞ」

「元々、俺に殺されようとしていたんだから結果は同じだろう」

「……確かにそうだが」

「憎まれるのは慣れているから、気にするな。さっきまで、ロキにも憎まれていただろう」


 俺なりに冗談を言うが、ロキは冗談と捉えずに、申し訳なさそうな顔をしていた。


「とりあえず、この案で決まりだからな。一応、この剣は戦利品として預かるが良いか?」

「あぁ、構わない。その剣もロキサーニにでも上げてくれ」

「弟子に送る形見と言うわけか?」

「そうだ。ロキサーニが使うには若干、大きいかも知れん」


 俺は、ゴンド村に居るゾリアスと【交信】をして、ロキを暫くそちらで面倒見てくれるように頼む。


「じゃあ、今から行くぞ」

「……分かった」


 闘技場に誰も居ないのは不自然だと思い【分身】で俺を一体残しておく。

 【全知全能】に聞くと、俺のレベルだと距離関係なく、分身を配置する事は可能らしい。


 【転移】を使い、ロキと共にゴンド村に移動する。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「何か困った事があれば、ゾリアスに相談してくれ」


 ゾリアスにロキの事を頼む。


「しかし、ロキ程の者が闇落ちとは……」


 ゾリアスが信じられない様子だった。


「申し訳ないと思う。俺の不徳の致すところだ」


 申し訳なさそうに、ロキは話す。

 俺は、ゾリアスにオーフェン帝国での出来事を一部始終話した。

 一応、ユキノとの事は秘密にする。


「相変わらず、物騒な事に首を突っ込んでいるな」

「俺のせいじゃないがな」


 ゾリアスは本当か? と言う顔だった。


「俺からも、タクトに相談がある。今度、時間のあるときに聞いてくれ」

「分かった」


 ゾリアスとの会話を終える。


「本当に良いのか?」


 ロキが、自分を殺した事にする事による、俺への風当たりを気にしているのだと思う。


「まぁ、なるようになるだろう」


 俺は笑いながら【転移】で、オーフェン帝国の闘技場に戻った。

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