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415話 決着!

 フェンの合図と共に、一気にスタリオンの所まで移動をして、観客席まで飛ぶ勢いで殴る。

 スタリオンは殴られた事に気が付かないまま、観客席に激突をした。

 観客も一瞬の事で、何が起きたのか分かっていない。



「俺の勝ちだろう」


 フェンを見ると、信じられない表情をしていた。


「い、今のは開始合図の前の出来事です。もう一度、仕切り直しです」


 やはり、スタリオンに有利な判定をする気のようだ。


「そうか、見えなかったのか。ケット・シーも大した事ないな」

「なんですって!」

「実際、そうだろう。合図後の攻撃を合図前と言うんだから、ケット・シーの実力も噂だけって事だろう」


 正論を言われたフェンは、怒った表情で俺をみる。

 フェンは、俺が開始の合図前に攻撃した為、今の攻撃は無効だと説明を始めた。

 当然、観客達は俺の事を卑怯者呼ばわりする。


 スタリオンの治療が終わるのを待つ。

 その間も、俺へのブーイングは止まない。


 ルーカス達が居る方を見ると、ルーカス達は笑顔だった。

 俺が合図開始後に攻撃した事は、見えていなくても分かっていたのだろう。

 隣に居たトレディアは、真っ青な顔をしていた。

 トレディアには俺が合図後に攻撃をして、一撃で観客席までスタリオンを殴り飛ばした事が、見えていたのかも知れない。


 スタリオンの治療が終わり、闘技場に戻ってくると、俺の所まで歩いて来た。


「卑怯者め!」

「お前も、開始後に攻撃された事が分からないくらい弱いんだな。仕方が無いから手加減してやるよ」


 俺が煽るように話すと、スタリオンは怒りの表情を浮かべていた。

 フェンが俺に注意をする。

 俺はその際に、フェンに向かって「妖精族もイカサマに加担するとは落ちぶれたな」と周りに聞こえないように呟く。


「私を侮辱するなら、それ相応の覚悟があるんでしょうね」

「侮辱じゃない、事実を言っただけだ。それさえも判断出来ないのか?」


 俺が言葉を返すと、フェンは何も言ってこなかった。

 エルドラード王国やユキノを侮辱された事で、スタリオンと言うよりもオーフェン帝国に対して怒りがある。

 それに不正をしている事自体、俺自身許せないでいる。


 鳴り止む事のない俺へのブーイングの中、フェンの合図で二度目の対決が開始された。


 先程のように難癖つけられるのが嫌なので、スタリオンが攻撃してくるのを待つ。

 案の定、怒りに満ちたスタリオンが俺に向かって攻撃をしてくるので、攻撃を避けて腕も掴み闘技場の壁まで投げる。

 スタリオンが壁に激突するのと同時に俺の【神速】を使い、スタリオンの所に移動してスタリオンを殴る。

 三発目でスタリオンの身体が壁に埋まり始める。

 このままだと、場外だと判断されてしまう恐れがあるので、俺はスタリオンの頭を掴み、頭を壁に埋めこんだ状態のまま壁を一周する。

 既にスタリオンの意識は無い。

 俺は【回復】でスタリオンの体力を回復させる。

 【治療】はしていないので、痛みは残っている。

 何か言っているが、気にせずに地面に叩きつけて殴る。

 【神眼】で体力を確認しながら【回復】を施してひたすら殴る。

 一瞬、フェンを見て笑う。

 フェンは、血の気の引いた青ざめた顔で、俺を見ていた。

 俺は敢えて外して、少し強めに拳を地面に叩き付ける。


 俺の拳を中心に地面が凹み、闘技場と観客席を仕切っていた壁の一部が崩壊した。

 崩壊した壁の方を見るが、観客達に怪我は無いようだ。


 これ以上は危険だと思い、スタリオンの頭を掴み上空に投げる。

 空高く舞うスタリオンが落ちてくるのを観客達は見ていた。

 俺は【火球】を連続で撃ち込み、スタリオンを一定の高さに保つ。


 いつの間にか、ブーイングは止み、観客達から言葉が発せられる事は無くなっていた。


「死なない程度であれば、何をしても良かったんだよな」


 フェンの方を見ると、先程以上に顔が青ざめていた。


「お前達が言った事だから、命さえあれば手足が無くなろうが問題ないんだよな」


 脅しに近い言葉をフェンに投げかけながらも、俺は【火球】を左手で撃ち込み続ける。

 俺は【転送】でスタリオンに【回復】を掛けているので、死ぬ事はない。

 ただし、今までの攻撃による激痛で、意識があるのかは分からない。


「……もういいでしょう」


 フェンが小さな声で俺に呟く。


「なにがだ?」


 俺にしか聞こえない大きさで話す事自体、怪しい。


「あの子の負けでいいわ」

「そういう事なら、大きな声でスタリオンの負けを宣言すればいいだろう」


 しかし、フェンは黙ったままだった。

 やはり、俺が攻撃を止めた瞬間に、観客達に気が付かれないように何かするつもりなのだろう。

 俺は右手で【風刃】を強めに撃ち込む。

 スタリオンの横を【風刃】が通り過ぎると、雨雲が二つに割れる。


「今のは、わざと外したからな」


 俺は最終警告のつもりで、フェンに告げる。

 明らかに悪者の顔をしているだろうと、自覚はしている。

 フェンも今の攻撃の威力が分かっているのか、これ以上の続行は無理だと判断した。


「この勝負、スタリオンの負けとする」


 フェンが大声で、俺の勝利を宣言する。

 観客達は、自分達が最強だと思っていたスタリオンが、一方的に攻撃されて負けた事が信じられない様子だ。

 闘技場は静寂な空気に包まれていた。

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