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400話 目的と理由!

 アスランが息を切らしながら、魔獣化した猪である『魔猪』と戦っている。

 魔猪を見つける前に、アスランが一匹なら一人で戦わせて欲しいと言って来た。

 危ないと思ったら、俺が助けるのを条件に承諾した。


「トグルから見てどうだ?」

「そうだな、良くも悪くも綺麗な戦い方という感じだ」

「確かにそうだな」


 仕方のない事かも知れないが、自分は傷付かない安全な戦いをする為、致命傷を与える前に攻撃を止めてしまっている。

 ポイントを確実に稼いでいる戦い方という表現が、しっくりとくる。

 王国騎士団団長であるソディックの戦い方に近いが、ソディックはもう少し積極的に攻撃をしていた。

 アスランの場合、魔猪よりも多く動いてるので、運動量も大きい。

 決して、効率の良い戦い方ではない。


 俺の予感が的中するかのように、アスランの動きが鈍くなり徐々に魔猪に与える攻撃が少なくなっていった。

 致命傷を貰っていない魔猪は、基本突進して牙で攻撃するだけだ。

 一発でもアスランが魔猪の攻撃を受ければ、形勢逆転するだろう。


 アスランも状況が分かっているのか、先程以上に攻撃の回数が減っている。

 そろそろか……。


「トグル、戦うか?」

「お前が行かなくて良いのか?」

「俺よりも、お前の戦い方の方が参考になるだろう」

「そういう事か。分かった」


 トグルが戦闘の準備をする。


「アスラン、残念だがそこまでだ。トグルと交代だ」


 アスランに交代の旨を伝える。


「……はい」


 悔しそうに俺の言葉に従う。

 トグルがアスランの横に行くと、アスランが俺の隣に来る。


「ユキノ、アスランに治療を頼む」

「はい」


 ユキノが【神の癒し】でアスランの傷を治したり、体力回復をさせる。


「どうだった?」

「はい、上手く戦えなかったですね」

「同じ相手にトグルが、どう戦うかを見ていれば、自分の欠点が分かるかもな」

「はい。良く見ておきます」


 そう言いながら、目線の先は既にトグルに向けられていた。


 突進してくる魔猪に、トグルは大きく避けることなく前足を斬り付ける。

 これで魔猪の機動力も、大幅に落ちた。

 その後も、牙を避けながら確実に眼や、喉等の急所を的確に攻撃する。

 最後、動けなくなった魔猪に止めを差す。

 時間にすれば、アスランの三分の一くらいの戦闘時間だろう。


「お疲れさん」


 トグルに労いの言葉を掛ける。

 シロには、魔猪の死体を燃やすように指示をする。

 周りの草木に燃え移らないように【結界】を張っておく。


「アスランから見て、どうだった」

「そうですね。私の場合は型が染み付いている為、柔軟な対応が出来ていませんね」


 冷静に分析をしている。


「アスラン王子、私からも一つ宜しいでしょうか?」


 トグルがアスランに、助言があるようだ。

 助言の内容は、急所への攻撃というか、魔獣に拘らず生き物の体の仕組みを理解すれば、今よりも楽に倒せるのでは無いかと言う事だった。

 確かに、内臓関係等の位置を知っておけば、攻撃の際にかなり楽になる。

 冒険者であれば、魔物討伐等で必然的に覚えるが、騎士団等ではそう言った事は教えないのだろう。


「成程。確かにそうですね。トグル殿、貴重な御意見感謝致します」

「いえ、アスラン王子のお力になれるのであれば、光栄です」

「トグル殿は、いつもどのような特訓をされているのですか?」

「特訓らしい事はしていません。クエストをこなす事が特訓と言えば、特訓になるかと思います」

「……常に実践と言うわけですね」


 アスランは自分が弱いと思い、強くなりたいのだろう。


「何故、そんなに強さを求めるんだ?」


 疑問に思った俺は、アスランに尋ねる。


「はい、ユキノにはタクト、ヤヨイにはソディック騎士団長と、私の周りには強い方々が多いので、弱い自分が正直、嫌になっているのです」

「アスランは王子だから、トグルのように脳みそまで筋肉にする必要ないだろう?」

「男性に生まれたからには、強さを求めるのは当たり前ではありませんか?」


 アスランは、力を求める感じには見えなかったので正直、意外だった。


「人には、それぞれの役割があるから、アスランの役割は何だ?」

「国民を守る事です」


 『王国』と言わずに、『国民』と言うところが、アスランらしい。


「そうだろう。戦う事は、トグルのような脳みそも筋肉で出来ているような奴に任せておけばいいんだ。アスランは、いかに国民が幸せに暮らせるかを考える方が、良いんじゃないのか?」

「しかし、守られてばかりいるのも情けないと思いませんか?」

「いや、そうは思わないな。例えば任務でなく、アスランを守りたいと思う奴が居るのは、素晴らしい事だと思わないか?」

「……そうですかね?」

「自分の周りから信頼を得られない奴に、国を治める事など出来ないだろう?」

「……」

「まぁ、俺も偉そうな事を言ってはいるが、俺は俺の出来る範囲の奴達を幸せにしたいと思って、行動している」

「それは、タクトが凄い人物だから出来る事です」

「俺は別に凄い奴じゃない。それを言うならアスランの方が凄いと思うぞ。自分よりもユキノやヤヨイの幸せを考えたり、常に国民達の事を考えているだろう」

「それは、第一王子としての宿命です」

「俺だったら、第一王子とか関係なく、好き勝手に遊んでいるかもしれないぞ」

「そんなこと……」

「所詮、自分に無い物が良く見えているだけだろう」


 アスランの気持ちも分からないではない。

 しかし、アスランは国王になる人物で、自分でもそれを理解している。

 自分の役割を、きちんと把握して欲しいと思う。


「アスラン王子、横から失礼致します。私は以前に、タクトより強さを求める理由を聞かれたことがありました」


 トグルが、アスランに話し掛ける。


「その時、私は強くなるのに理由はいらないと言っていました。今であれば、その時タクトが言っていた意味が良く分かります」


 トグルは以前に、俺と話した内容を、アスランに話していた。

 そして、リベラや弟子であるザックとタイラーの存在が、守るべき者達が居る事で、自分が強くなる目的になっている事などだ。

 話を聞いている俺だったが「あの脳筋のトグルが成長したな!」と思ってしまった。


「アスラン王子の場合、いずれ国王になられる方です。国王になってから、何をしたいかを考えてみては如何でしょうか?」


 トグルらしからぬ、素晴らしい事を言っている。


「確かに、そうですね。私にしか出来ない事もあると思いますので、もう一度考えてみます。ただし、強くなるのは諦めません」


 何かが吹っ切れたような顔でトグルに返答する。


「アスランが国王になる頃には、トグルもかなり有名な冒険者になっているだろうしな」

「それより、タクト。誰が脳みそまで筋肉で出来ているって!」

「それは、ものの例えだ」


 トグルの怒りは、収まりそうに無かった。

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