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394話 村人の治療!

 受注した最後のクエストの場所である、湖の畔まで来る。

 自然に囲まれた良い場所だ。

 湖には霧がかかっており、大きさまでは目視で確認する事が出来ない。

 森らしき場所なので、恒例の樹精霊(ドライアド)確認をするが、返答は無かった。

 規模が小さいからなのかは分からないが、樹精霊(ドライアド)が生息する基準が不明だ。

 事情を聞く為に、被害があった近くの村に行く事にする。


 冒険者ギルドに、調査依頼の発注をしたのは『エドゥアルド』という村らしい。

 活気が無く、村民は虚ろな目をしていた。

 トグルが代表して『湖の魔獣調査』の件で、村の代表者と話をしたい旨を伝える。


「私が村長の『ガーラル』と申します」


 トグルは、アスランとユキノをまず紹介すると、恒例の跪いての御辞宜をする。

 アスランが御忍びだという事と、特別扱いは不要な事を伝える。

 俺は今回のクエストを受注した『ランクSSSの冒険者』だと紹介された。


 ガーラルは村人を集めて、湖の魔獣の事を話すように言う。

 しかし、俺はそれよりも元気が無い村人が気になった。


「皆、病気なのか?」


 ガーラルに聞くと、湖に魔物が出てから体調不良の者が増えていると答える。

 村には治療士も居らず、街に行ったとしても、治療する金貨が払えないと嘆いていた。


「ユキノ、シロ! 分かるな」

「はい」


 ユキノとシロはすぐに俺の言いたい事を理解した。

 二人には村人の【治療】をして貰う。終わった者から俺が【回復】を掛ける。

 治療魔法に関しては、まだシロの方が上なのでシロが重病者を診て、それ以外をユキノが担当する。

 アスランとトグルには、混乱が起きないように整列や、重病者の判断をして貰う。

 重病者から優先的に【治療】をするように頼む。

 ガーラルが「払える金貨が無い」と言うが、「無償だ!」と伝える。

 寝たきりの者も居るというので、ユキノとシロに【治療】が終わった者は待つように伝えて、ガーラルと寝たきりの者が居る家を回る。

 仕方の無い事だが、ガーラルの歩く速度が遅いので途中からは、俺がガーラル担いで移動した。

 俺が治療を施した者は立ち上がる事が出来たので、村人達が集まっている所へと自然に歩いて行った。

 全ての所を終えて最後に、シロとユキノが【治療】した者達に【回復】を掛ける。



「本当に有難う御座います」


 ガーラルをはじめ、村人達が俺達に感謝をする。


「まぁ、王子と王女のおかげだ。感謝しろよ!」

「は、はい。それは勿論で御座います」

「タクト、何を言っているのですか。タクトが居たからこそ、皆が元気になったのですよ」


 アスランは、勝手に手柄を押し付けられた事を怒っていた。

 シロが俺にだけ分かるように、病人から少量だが魔族の力を感じると教えてくれた。

 ……魔族の力? 魔力であれば、誰でも大なり小なり持っているが、シロの言う魔族の力というのが良く分からなかった。

 シロに聞くと、魔族特有の魔力が一番分かりやすい表現だと教えてくれた。

 何故、普通に暮らしている村人から……。


「元気になったところ悪いが、少し話を聞かせてくれ」


 今回、体調が悪い原因について話を聞く。

 湖に船を出して魚を捕っていた者が、湖で霧の向こうで「大きな影を見た!」と慌てて、村に戻って来た事が最初の出来事だった。

 その出来事の前後から、体調を崩すものが現れ始めていた。

 何人かの者が湖に船を出してみるが、魚を取るまでも無く岸から離れると、すぐに湖が荒れて沈没しそうになる。


「大きな影だけで、実際に魔物は見ていないのか?」

「はい。ただ、このままでは湖で魚を捕る事も出来ず、周りの森にも霧が濃い為、迷う恐れもあるので動物を捕らえる事も出来ません」


 見間違いという事も考えられるが、波が立つという事は何かしら湖に入るのを妨害している事は確かだ。


「しかし、ランクSSSの冒険者の方が来て頂けるとは、大変心強いです」


 ガーランは、安心した表情で話をする。

 話を聞いていると、後ろの方で子供と話す親の声が耳に入って来た。


「お母さん、御腹空いた」

「ゴメンね。もう少ししたら、お魚が食べれるからね」

「……お魚食べたら、皆病気になったじゃん。僕、もうお魚食べない」


 魚が原因で体調を壊したのか?

 それよりも……。


「おい、そこの少年!」


 俺は空腹だと訴える少年を大声で呼ぶ。

 少年の親は、突然呼ばれたので子供が粗相でもしたのかと、気が気でない様子だ。

 俺は少年の所まで行くと、上着の内ポケットから、パンと菓子を出す。

 当然、内ポケットで【アイテムボックス】を使っている。


「腹が空いているんだろう。これでも食べろ」


 少年は食べずに、俺の顔を見ている。

 仕方が無いので、俺はパンを千切り一口食べる。


「病気にはならないから、安心しろ」

「うん」


 少年は、仲間と思われる同世代の子供達と、パンと菓子を分けていた。


「シロ、悪いが食料を買って来てくれるか?」

「はい、御主人様」


 俺はシロに金貨の入った袋を渡す。


「今、食料を買いに行ったから少しだけ待っていてくれ」

「しかし、一番近い町まででも一日は掛かりますよ」

「そこは、冒険者ランクSSSと愉快な仲間達に任せておけば、大丈夫だ!」

「はぁ、そうですか……」


 まぁ、転移魔法が使える事を知らなければ、こういう反応なのも仕方の無い事だ。


「おい、誰が愉快な仲間だ!」

「それは、子供達を怖がらせない為だ。そんなに気にするな」


 トグルは愉快な仲間といわれた事が嫌そうだった。


「湖で捕った魚は残っているか?」

「はい、腐っていますが……」


 ガーランに案内されて、俺と二人で村の外に出ると、魚が十数匹捨ててあった。

 時間が経過しすぎている為、完全に腐って異臭がしていた。

 腐ってはいたが、見た目は普通の魚っぽい。

 一部の魚に食べられて形跡がある。野犬か何かが食べたのだろう。


「変ですね。病人が出たので残っていた魚は全て廃棄したので、もっと量は多かった筈ですが……」


 案内してくれたガーランが不思議そうに呟いた。

 野犬か魔物が、持ち帰って食べたのだろうと俺は思っていたが、木の影から唸り声が聞こえた。

 よく見ると犬だが、体が黒く歪な模様が入っている。

 何より、犬歯が大きく目も見開いて充血していた。

 明らかに異常なのが分かった。

 【神眼】で【鑑定】するが、『魔犬族』だった。

 魔獣の場合、種族の前に『魔』が付くという事は、何かの要因で魔族になったという事になる。

 ……此処にあった魚を食べたから、魔族になったという事か?


 俺は、ガーランを後ろに下がらせて【魔力探知地図】で魔犬の数を確認すると、十数匹居る。

 このまま、放置するといずれは村が襲われると判断して、全て討伐する事にした。

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