389話 お忍びで買い物!
エリーヌ達との話を終えて、ジラールにおすすめの武器屋と防具屋を聞くと、不思議そうに聞き返してきた。
「新しい冒険者でも育てるのか?」
「半分正解で、半分外れだな」
「はぁ? 言っている意味が分からん」
「後で寄った時に話をするが、誰も受けていない高難度クエストってあるか?」
「あるにはあるぞ」
北に抜ける洞窟に『キラーラット』が大量発生しているらしく、ランクBのパーティーが失敗して戻って来ていた。
受注条件はランクA以上で四人以上のパーティーだが、ランクSSSであれば単独でも大丈夫だそうだ。
南の湖には、水を汲みに来た者を襲う巨大な魔獣が居るそうだが、被害ばかり大きくなるだけで、水の中という事もあり、静観している状態で近くの村は困っている。
今回は、討伐でなく魔獣の正体確認を含む調査になる。
こちらの受注条件はランクS以上なので受注は可能だ。
「……分かった。そのふたつを受注するぞ」
「本当か! ギルドとしては助かるが、お前の事だから単独討伐か?」
「いや、今回はパーティーを組むつもりだ」
「珍しいな。お前がパーティーを組むとは」
「まぁ、色々とあってな。それよりも店を教えてくれ」
「おぉ、そうだったな」
ジラールから、安価で品が多い店と、高価だが希少品が多い店のどちらが良いかと聞かれたので、高価で希少品の店を教えてもらう事にした。
「お待たせしました」
着替え終わったユキノが、部屋から出てきた。
「それじゃあ、行くか」
「はい」
ユキノと街に出る。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ジラールに紹介された店は武器も防具も扱っている店だと言うので、言われた通りの場所まで来るが、明らかに高くて良い物を扱っていますといった店構えだった。
扉を開けると、従業員がさっそく寄って来て、入用な物を聞かれるので、治療士か魔法士の武器と道具を見せてくれと頼むと、予算を聞かれるので良い物であれば、幾らでも払う事を伝える。
従業員は「暫く御待ち下さい」と言って、店に並べている物を幾つか持ってきた。
「こちら等如何でしょうか?」
やはり魔法系職業の為、杖が主で短刀も幾つかある。
「気に入るのはあるか?」
ユキノに聞くが「タクト様の選んだもので」と言うので、自分の武器なので手に馴染むものを選ぶ事を説明すると、真剣に武器を選び始めた。
「このふたつが、大変使いやすいです」
ユキノが選んだのは、両方とも杖だった。
【神眼】で鑑定すると、それぞれ【魔力増加】と【防御力増加】の【魔力付与】が掛かっていた。
どうやら、埋め込んである石に【魔力付与】されておるみたいだ。
「ユキノにはこっちの方が良いかもな。一応、【魔力増加】の【魔法付与】も施されている」
「御客様、どうしてそれを御存じで!」
驚く従業員に俺は、商人ギルドランクSのギルドカードを見せると、更に驚き店主に担当を変わると言ってきた。
「お初に御目に掛かります。当店の店主のランティスと申します。」
自分の名を名乗り、俺達の顔を見ると驚いた様子で、
「……ユキノ様?」
「はい」
ユキノはあっさりと白状した。
「御忍びだから、騒がないでくれ」
大騒ぎされる前に、俺はランティスに言う。
「は、はい。すいません」
ランティスは平謝りしていた。
話を聞くと、王宮に何回か武器や防具を納めた事があるらしく、今でも珍しい物が入荷すると最初に王宮へ話をするそうだ。
「そうか、そういう意味では特別珍しい物は無いんだな」
「そうですね、近々珍しい杖が手に入ると、各地を回っている者から連絡は入っています」
「とりあえず、杖はこれを貰う事にして、防具と言うか服を見せてくれ」
「は、はい。ただいま」
ランティスは、急いで他の物に指示を出して服を持って来させた。
治療士というと、僧侶のイメージが強いのだが、見る限り普通の服だ。
縫製される糸により、強度が異なるようだが上から被るような物しかなかった。
【魔法付与】で色々な効果はあるみたいだが……。
【全知全能】に今ユキノが来ているアラクネ族製の庶民の服と、ここにある服とでどちらが防御力が上かと聞くと、アラクネ族製の服だと答えた。
流石、アラクネ族という感想しかなかった。
「お気に召すものが、ありませんでしたか?」
不安そうに俺に聞く。
「そうだな、今回はこの杖だけ貰う事にする」
「あぁ、はい」
俺は、ランティスに金貨を支払う。
……しかし、アラクネ族が最高なのであれば、三国会談用の服を発注したルーカスの服なんかよりも、ユキノの服を作る事が先決だ。
マリーとは別に頼むことにする。
アスランは剣士なので、王国騎士のような戦い方でなく冒険者らしい粗暴な戦い方を見た方が良いかと思い、トグルに連絡を入れる。
「珍しいな、お前が連絡をくれるとは」
「あぁ、漆黒の魔剣士に用事があってな。あとで迎えに行くから、一緒に魔物討伐に付き合ってくれ」
「……いきなりだな。お前が俺に話を持ってくるって事は、オークロードくらい困難なクエストなのか?」
「いや、冒険者の戦い方を見せて欲しいだけだ」
「それなら、お前が……そういうことか、確かにお前の戦い方は参考にならないからな。分かった準備しておく。待ち合わせ場所は、ギルド会館でいいか?」
「あぁ、悪いな」
付き合いが長くなると、ある程度の会話で理解してくれるので助かる。




