372話 税金の無駄遣い!
ユキノとの話は、結論が出ないのでひとまず保留とした。
ルーカスとイースは「出来る限りの事はする」と言ってくれていた。
国王と王妃に、そこまで言われても即決出来なかった。
但し、俺としても問題の先送りをするつもりは無いので、俺の現状を全て話したうえでユキノが受け入れると言うのであれば、それに応えるのも有りだと思う。
そう、全てと言うのは『転移者』という事を含めて、前世の俺の事も話した上での事でだ。
俺の事情を知ってユキノが考えを改めるのであれば、それは当たり前の事だし、それに対してユキノを責めるつもりも無い。
そもそも、こんな変わり者に好意を持ってくれていただけでも、感謝すべき事だ。
俺自身もう一度、気持ちの確認をするが、ユキノが嫌いでない事は確実だ。
そう考えると、ユキノを好きになることはあっても、嫌いになることはないだろうと思っている。
思い返せば転移の際に、王や勇者のような有名な者に転移出来ると思っていたが、平民での転移しか出来ないと分かって落ち込んでいた筈なのに、いざ王族になるかもしれないと思うと断っている自分の矛盾さが可笑しく思えてきた。
部屋を出ると、衛兵と大臣が待っていたので、ルーカス達と共に案内された部屋へと進む。
「ここは?」
立ち止まった部屋の前で、大臣に尋ねる。
「国王様や御家族が移動される際の、乗り物が保管されている場所です」
ターセル達は既に部屋の中に居るそうなので、扉を開けて貰い部屋の中に入る。
部屋には豪華な馬車が幾つか並んでいる。
移動距離や、時代によって種類があるのだろう。
ターセル達は、一台の馬車の前に集まっていた。
製作途中なのか、車輪が破損したのか分らないが車輪が無く、かなりの大きさだ。
大臣の案内で馬車の中も見るが、大人三人であれば十分に寝れる広さはある。
そもそも、この馬車を引く馬が可哀想だと思える程の大きさだが、何頭で引くのかさえも不明だし、数が増えればそれだけ馬の扱いも難しくなる。
そう考えると、実際に使用されていたのかさえも怪しい乗り物だ。
大臣から説明を受けるが、やはり作ってはみたが車輪の軸の部分が強度不足で折れてしまい、使用されることなく倉庫の肥やしとなっていたそうだ。
馬に引かせる以前の問題だろうとも思いながら、これを設計して製作するまでに誰も反対する者が居なかったのだろうか? と疑問を抱く。
間違いなく税金の無駄遣いだからだ。
大臣に質問をすると、詳しくは分らないが当時は実現可能だと本気で思っていたそうだ。
……普通に考えれば分かると思うが?
話の流れ的には、この大型の馬車でオーフェン帝国まで行くという事なのだろう。
そういえば、国の重要人物が移動する際は、野営になるのか?
気になったので、ルーカスに聞いてみると、大臣が代わりに答えてくれた。
基本的には、各領地での宿泊になる。その為、各地に領主を配置していると言う。
オーフェン帝国や、シャレーゼ国も同様みたいだ。
国内での移動は、王都と言うよりも領主同士の連携になる為、かなり綿密に打合せ等を行っているそうだ。
……先程、ルーカスから聞いた内容と違う気がする。
あくまで王都からは、最低人数で各地の領主達が、気を利かせて警備をする感じなのかも知れない。
ルーカスはその事に気が付いていないという事なのだろう。
何となく、ルーカスが『裸の王様』のように感じて、可哀想に思えてきた。
大臣は少し補修をするというが、移動だけであればここまで大きな物は必要ないのでは無いかと話すが、ルーカスが頑として、この馬車で行くと譲らなかった。
エルドラード王国としての正式な乗り物で他国に行くのに、小さな乗り物では笑われるとの事らしい。
国王の言う事なので、逆らう訳にもいかない。
仕方が無いので俺は、ドワーフ族のトブレに連絡を取り、馬車の急な補修作業が可能かと聞く。
面白い事だと分かったのか、受けて貰えることになった。
族長のラチスには、トブレから話をしてくれるそうだ。
馬車の補修は、俺が引き受ける事をルーカスに伝える。
操作するのが、俺なので安全も含めて色々と確認したいと言うのは建前で、何となく色々な所を改造したいと思っていた。
反対する者も居ないので、【アイテムボックス】に馬車を仕舞うので、皆には一旦部屋の外に出て貰う事にした。
全員に出てくれと言った筈だが、ユキノが俺の横で皆が外に出るのを見ていた。
……丁度いいので、ユキノに俺の事情を話す事にした。




