369話 退職について!
エイジンと待ち合わせをして、王都にあるグランド通信社の本社に【転移】する。
何が起こったのか分からないエイジンに、俺のユニークスキルだと教える。
ユキノが着いていくと言っていたが、今回は城で大人しくして貰う事にした。
一旦、ユキノを城に送る為、【転移】してすぐに戻る。
入口に着くと、ジラールが建物から出てきた。
「珍しい所で会うな。人気投票の打ち合わせか?」
「あぁ、そうだ。思っていた以上に今回は盛り上がっている。お前のおかげだ」
「いやいや、ジラール達が頑張った成果だろう」
「お前達は、商談か?」
「半分当たりで、半分はずれだな」
俺はジラールとエイジンにそれぞれ紹介をする。
ジラールには俺も用事があったので、ここで出会えた事は丁度良かった。
「少し、時間あるか?」
「あぁ、別にいいが相談か?」
「まぁ、そんなもんだな。グランド通信社も関係するので悪いが、もう一度戻ってもらっていいか?」
「それは構わないが、俺がいてもいいのか?」
ジラールは、エイジンを見る。
「タクトさんが宜しければ、私は構いません」
ジラールが同席する事に、エイジンは了承してくれた。
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「本当に、来られたのですね。正直、驚いています」
ジークから王都まで短時間で来た事に、ヘレフォードは驚いている。
隣には、副代表補佐のアンガスが居た。
副代表であるオージーの姿は無い。
「ジラール様は、どうして同席を?」
アンガスが不思議そうに聞くので、別件で話があるので急遽同席して貰った事を伝える。
「それでお話とは?」
ヘレフォードが俺に今回訪問の件を聞く。
「俺と言うか、エイジンが話があるそうだ。俺は付き添いだ」
エイジンは、ヘレフォードにグランド通信社を辞める意思を伝えた。
当然、ふたりとも驚く。
ヘレフォードは、エイジンをいずれ娘婿であり副社長の右腕にしたいと思っていたようで、その落ち込みようは見ていて気の毒だった。
エイジンは続いて心境の変化等も、きちんと伝えている。
ヘレフォードとアンガスは、真剣にエイジンの言葉を聞いていた。
「……決意は固いのだな」
「申し訳御座いません、会長」
「エイジンの人生だから無理に引き止めることはしない。辞めてからどうするんだ?」
ヘレフォードが、辞めた後のエイジンを心配するように、優しい口調で話す。
エイジンは気まずいのか、黙ったままだ。
仕方が無いので、俺が話をする事にする。
「実は、エイジンが四葉商会で働かせてもらえないかと、俺のところに相談に来た」
「なんと!」
ヘレフォードとアンガスは驚くが、当然だろう。
今回俺が来た理由は、引き抜きだと思われたくない事と、エイジンの能力を生かす為に四葉商会として何が出来るかの相談に来た事を伝える。
「都合が良い話だとは分かっている。無理なら無理だと言ってくれて構わない」
業務提携しているとはいえ、商会同士なのでライバル相手に情報を教える事は、自分の商会の首を絞めることにもなりかねない。
「四葉商会様とは業務提携しておりますし、もしエイジンが新しい事業を興すのであれば、その事業でも業務提携出来ればと思っております」
ヘレフォードは、四葉商会と敵対視する事を望んでいないのだろう。
俺としても、グランド通信社とは友好的な関係を築きたいと思っている。
エイジンに、今迄の業務等を聞き、得意な事と苦手な事等を聞くが、ヘレフォードとアンガスの評価は、何をしても出来る優秀な人物だと絶賛していた。
エイジンの希望は、人の役に立てる事を希望していた。
「グランド通信社は、本とかも出しているのか?」
「いえ、グランド通信社は新聞をメインにして、他はイベントの主催等をしています」
以前は、少数の出版物があったが、近年は無いと説明をしてくれた。
理由としては、儲けが期待出来ずに事業として、積極的にする分野でも無い。
本は、歴史や一部の人間に必要な物なのだ。
以前に俺が提案した、冒険者ギルドの人気投票の特典でもある写真集についても、試行錯誤中だったそうだ。
話を聞く限り、グランド通信社とで競合は無い事が確認出来た。
「四葉商会で、出版社を立ち上げたら、販売をグランド通信社でやってみないか?」
「出版社ですか?」
俺は、上着の内側から魔獣の写真を出して、その後に魔獣の説明を書いた紙を机の上に置く。
「これは、ジラールにも関係する事だ」
皆に向かい、魔獣図鑑の事を話す。
魔獣の説明には、魔獣の詳しい特徴や注意点等を記している。
弱点等は敢えて書いていない。
レベル別に、三から四冊に分けて出版したい事を伝える。
「俺の勝手な案だが、冒険者に登録した者には最初の一冊、つまりレベルが低い書は、必ず購入して欲しいと思っている。そうすれば、冒険者の死亡等も減ると思う」
販売は各冒険ギルドで行って貰い、グランド通信社には、新聞で築いている物流システムで各ギルドに運んで貰いたい事を伝える。
ジラールは幾つか俺が出した紙を見ながら、
「確かに、この魔獣の記述は凄いな。これは、タクトが作ったのか?」
「正確には、俺とシロだ」
「……悪いが、少し俺達に時間をくれないか?」
「まずい事でもあったか?」
「そういう訳では無いが、出来ればランクFに登録した冒険者には無料配布したいと思う」
ジラールは、低レベル向けの書に関しては購入という形を取らずに、無料配布することで貧富の差で購入の有無がないようにしたいらしい。
「勿論、購入する際に金貨は支払うつもりだ」
「それだと、時期によって持っているものとの差が出るぞ」
「……それは仕方ないと思っている。タクトは一冊出来たら、俺のところに持ってきて欲しい」
「持っていくことは構わないが、全冊でいいのか?」
「そうだな、その方がより説明しやすくて良いな」
「分かった、約束する。グランド通信社としてはどうだ?」
「それだと、弊社の利益が本の運搬だけになりますよね。利益が少ないと判断します」
「いや、本の原案を作るのは四葉商会だが、その本を大量に製作するのはグランド通信社に頼みたい」
四葉商会には、印刷技術が無い。
グランド通信社の方が、新聞を刷っているので得意分野になる。
利益に関しても、本を刷った際に売値の一割で良い事を伝えようと思ったが、エクシズには割合の概念が無いので、仮の定価を決めて話を進める。
「冒険者ギルドにも定価よりも安く納入するので、冒険者ギルドも儲けが出る仕組みだ」
俺の説明で、ヘレフォードとジラールは大筋で了承してくれた。
一番、儲けるのはグランド通信社になるのだから当たり前だろう。
本の内容に対するクレームは四葉商会になるし、グランド通信社は名前が出てこない為、リスクも少ない。
「他にも何かありますか?」
ヘレフォードは俺が、他にも何か考えがあると思っているようだ。
「他にも幾つか案はあるが、子供用の本を考えている」
「子供用の本?」
俺が言っているのは絵本だ。
土地や、種族に伝わっている事を絵と文字で伝える。
エクシズには、本というと難しい書物しかない。
子供は勿論だが、庶民でも手に取る事が殆ど無い。
文字の読み書きが出来る者が少ないのも、その影響だ。
「あまり、需要があるとは思えませんが?」
「需要は少ないだろうが、安価で購入出来て子供の頃から、文字と接していればこの国の繁栄にも役立つ」
「この国の将来を見越してという事ですか……そうであれば助成金も出るかもしれませんので、弊社の方から確認しておきます」
「いいのか?」
「はい、こういうことは弊社の方が得意でしょうから任せて下さい」
エイジンの次の仕事に関して、グランド通信社との間でも合意が取れたので、一安心だ。




