367話 ふたりの決断!
イリアに呼び出されたので、待ち合わせの飲食店に行くと、エイジンと既に待っていた。
俺の隣には、ユキノが当たり前のように居る。
「わざわざ、呼び出してどうしたんだ?」
イリアとエイジンは、ユキノが気になっているのか、ぎこちない。
「ユキノは、気にしなくていいぞ」
「はい、分かりました」
呼び出した理由は、結婚したとかだろうと思っていたが、エイジンの口からは別の言葉が出てきた。
「私を四葉商会で雇って頂けませんか?」
「……ちょっと待ってくれ。それはグランド通信社を辞めるという事か?」
「はい」
「エイジン、発言が違います。私達です」
「……はぁ?」
ふたりから話を聞くと、エイジンは四葉商会との件で功績が認められて、王都にある本社への栄転が決まった。
イリアも受付長として、そろそろ次の者に引き継ぎを考えていたので、エイジンに着いて行くつもりだったそうだ。
「今の話だと、エイジンが辞める理由は無いと思うが?」
「はい。私は今迄、出世こそが男としての価値だと思っていました」
「前に、そう言っていたよな」
「そうです。但し、タクトさんと出会ってからは、その考えに疑問を持ち始めて、先日の四葉孤児院での結婚式の取材に同行した際、タクトさんが今迄行ってきた事の素晴らしさを実感した次第です」
「……素晴らしい事?」
エイジンは、リロイやニーナそれに孤児院の者達から話を聞くと皆、俺の話を嬉しそうにするそうだ。
マリー達も俺の事は文句を言いながらも、話す顔は嬉しそうにしている。
エイジンは自分がこれまでしてきた仕事で、ここまで喜ばれるような事があったか思い返すが、全く無かったそうだ。
「それは、エイジンが知らないだけだろう?」
「……そうかもしれませんが」
思い返せば思い返す程、出世の為に他人を蹴落としたり、ライバルの失敗を喜ぶ自分を痛感する。
このままで良いのかを自問自答していたそうだ。
「ヘレフォード達には報告したのか?」
「いえ、まだです」
「俺が引き抜いたと思われるぞ」
「確かにそうですが……」
「とりあえず、ヘレフォードと話をする事が先決だろうな。会う約束をしてくれ、出来るだけ早くな」
「分かりました」
エイジンは連絡をする為、席を立った。
「それで、イリアはどうしてなんだ? 本当は別の理由があるんだろう?」
「……そういう所は、良く勘が働きますね」
イリアは、シキブが引退するまでは、サポートしようと思っていたが最近は自分が居ると、シキブの為にならないのでは? と思う事が多くなって来たそうだ。
特に結婚してからは、前以上に酷いようだ。
……確かに、オークロード討伐の時は酷かったよな。
最近は、人気投票が気になるのか仕事そっちのけらしい。
「これ以上は我慢出来ないって事か?」
「端的に言えば、そういう事です」
「シキブとは、きちんと仕事をするように話をしたのか?」
「何回も言っています」
……面倒臭い話だな。
「あとで、一緒にシキブの所に行って話をしてもいいか?」
「私は構いません」
決意は固いという事か。
「それで、俺の所で働くってのは?」
「それは、マリーさんが人が居なくて困っているので、受付辞めてどう? と誘って頂きました」
「それ、社交辞令というか冗談だろう?」
「多分そうだと思いますが、全く知らない所よりも良いかと思って提案致しました」
「まぁ、うちとしては助かるだろうけど……」
俺は、転職アドバイザーでは無い。
隣のユキノを見ると俺を輝いた目で見ていた。
「……どうした?」
「タクト様は、こうして皆の相談を日々聞いているのですね」
「いや、今日はたまたまだぞ」
勝手に都合の良い解釈をしている。
俺はお悩み相談員でもない。
「タクトさん、一応十日後に約束頂けました」
「……思ったより遅いな」
「今から出発すれば、間に合うかと思います」
……そうか、エイジンは俺の【転移】を知らないのか!
普通の感覚ならそうだよな。
「エイジン、悪いがヘレフォードに、今日か明日で会える時間が無いかをもう一度、確認して貰ってもいいか?」
「別に構いませんが……」
納得いっていないが、ヘレフォードに連絡をして明日の午前中に会う約束をする。
エイジンとは一度別れて、イリアと共にシキブに会いにギルド会館へ向かう。
当然、ユキノも一緒だ。




