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353話 豪華な夕食の集い!

 大臣に紹介された宿屋は、かなり高級な宿だった。

 一般の冒険者が泊まれる宿屋とは違い、領主であるダウザーの来賓用の宿だった。

 領主の館の隣にあり、警備も完全だ。

 他に無かったのだろうか? マリー達が帰ってきたら聞いてみる事にする。


 まだ時間が早いのか俺以外は、誰も戻って来ていない。

 受付で部屋を教えて貰うが「案内致します」と部屋まで案内をしてくれる。

 案内係には先に部屋に入っていると、後から来た者達に伝えて貰うように頼んでおく。

 階段を五階まで上がり廊下を歩いて行くが、途中に絵画が飾ってあったり、花が活けてあったりと俺の想像していた宿屋とは違っていた。

 部屋の扉を開けると、広い。ただただ広い。これで何人部屋なんだ?

 ベッドを見ると、ダブルくらいの大きさだ。


「これ、ひとり部屋でいいよな?」


 不安になり、案内係に聞いてみると、笑顔で「はい」と答える。


「こちらが、夕食の献立になります」


 脇に抱えていた献立表を俺に差し出した。

 献立表は二つ折りで中が見えないようになっていたので、開いて献立を見る。

 料理名が書かれているが、どんな料理なのか分からない物が幾つかある。

 そもそも食材自体を知らない物もあるので、仕方ない。


「御食事は領主様のお屋敷になります」

「えっ!」

「夜は懇親会と伺っております」


 ……懇親会なのは間違いないが、ダウザー達は関係ないだろう。

 ミラがマリーに頼んで断れなかったパターンだと、なんとなく推測出来た。

 ミラとしては、友人達が自分の家に遊びに来る感覚でいるのかも知れない。

 案内係が「御飲み物をお持ち致しましょうか?」と言うので、ふたり分頼む。

 一瞬、不思議な顔をしたが俺が余程、喉が渇いているのだと思ったのだろう。


 案内係が部屋から出て行くと、椅子に腰掛けて膝にシロを乗せる。

 窓から外を見ると、ルンデンブルクの街が見える。

 改めて見てみるが、人の往来も頻繁だし街自体に活気がある。

 王都に次ぐ都市だけはある。

 村から出て来た者が、村に帰った際に王都や都市の良さを伝えると、憧れを持ってしまう気持ちが、なんとなく分かる。

 夢破れて素直に村に戻る者や、夢にすがってそのまま残る者等も居る現実は、誰も語らないのだろうが……。


 結局、日が沈む時間になるまで、誰も宿に戻ってこなかった。

 皆、それぞれ楽しんでいたのだろう。

 夕食の時間になるので、一旦宿の入口に集合する。

 マリーに宿選びの事を聞くと、ミラが任せてと言うので断れなかったらしい。

 夕食の店も、ミラにお任せしたそうだ。


「……店の名前とか聞かなかったのか?」

「宿についてからのお楽しみと、ミラ様からお聞きしていたから、深くは聞いていないわ」


 もしかして、確信犯なのか?

 受付けの案内で、領主であるダウザーの屋敷に向かうが、案内人が緊張している。


「そんなに緊張しなくていいぞ」


 可哀想だったので声を掛ける。


「はい、四葉商会様もそうなのですが、御待ち頂いている方々が……」


 自分の領主に対して、そこまで緊張をするものなのか?

 疑問を感じながらも、案内されるまま付いていく。

 ザックとタイラーは、初めての場所なので大騒ぎしては、その度にリベラとトグルに叱られていた。

 目的の場所である部屋の前で、案内人が止まる。


「こちらの部屋で御座います」


 俺達に一礼をする。

 案内人に礼を言って扉を開けると、晩餐会でもするかのような大きな部屋だ。

 しかも、長いテーブルにダウザー達家族は勿論だが、ルーカス達王家の者達まで同席している。

 案内人が緊張していた理由が分かった。


「タクト様!」


 ユキノが嬉しそうな顔で俺のところまで走ってくる。

 走るといっても、早歩きと対して変わらない速度だ。


「お久しぶりです」


 笑顔で挨拶をするが、三日四日会っていないだけで、久しぶりと言えるのだろうか?


「あぁ」


 返事に困り、適当に返す。


「なんで、国王達までここにいるんだ?」

「それは転移扉を使ったからだ」


 ルーカスが俺の問いに答えるが、移動手段を聞いているのではなく、ここに居る理由を聞いている事を伝える。


「それは、ダウザーに呼ばれて親族の食事会をするからだ」

「……親族の食事会であれば、俺達は邪魔だから帰るか」


 ルーカスの返事に対して、俺は帰る素振りをする。


「待て待て、今回の主役はタクト達だ。今迄の礼をしたいと思って、この席を用意した」


 ダウザーが慌てて弁明をする。

 マリー達を見ると、もう慣れてしまっているのか動じることなく、いつも通りの様子だった。

 トグルだけが、大変な所に来てしまった感を出していた。

 ダウザーが早く座れと言うので、席に座る事にする。


「タクト、お前はそこじゃない」


 椅子に座ろうとした俺にダウザーが、まるで席が決まっているかのように話す。


「席が決まっているのか?」

「いや、タクト以外は自由に座って貰って結構だ」

「俺の席は、何処なんだ?」


 なんとなく位置は分かっていたが、一応聞いてみる。

 ダウザーは首を回して目線で俺の座る場所を教えてくれる。

 案の定、ユキノの隣だった。

 反対隣の席はアスランだ。

 完全に王族関係者の席になっている。

 場の空気を壊しても申し訳ないので、言われるままに座る。


「タクト殿、申し訳御座いませんね」

「アスランが謝る事じゃないから、気にするな」


 ユキノは嬉しそうに俺を見ている。


「その髪飾り、今日も付けているのか?」

「はい!」


 ユキノは、満面の笑みで答える。


「その髪飾りは、タクト殿の贈り物でしたか。どうりで毎日付けている訳ですね」

「……毎日?」

「はい、ここ最近は毎日付けてます。使用人が違うのを用意しても、あの髪飾り以外は絶対に付けないと言ってますね」


 アスランが、ユキノの近況報告をしてくれる。


「当たり前です。タクト様から頂いた物以外を付けるつもりは、ありません!」

「……もしかして、服もそういう理由なのか?」

「はい! 但し、今日はルンデンブルク卿の御招待でしたので、着替えております。申し訳御座いません」


 いやいや、謝る事ではない。

 ユキノには、今度はドレスのような服を用意するから、今迄通りに王女らしい服で生活するように言うと、納得してくれた。


 しかし、社員旅行の目的でもある社員との交流がこれでは全く出来ない……。

 マリー達を見るが、ミラが自分と話しやすい位置にしたのか、フランとユイとで楽しそうに話をしている。

 リベラとトグルは、ザックとタイラーが行儀良くするように指導している。


 ダウザーの合図で料理が運ばれてくる。

 見た事も無い料理ばかりだ。

 一口食べるが、美味しい。

 やはり、それなりの地位に居る者達が食べるに相応しい味だ。

 そこら辺の大衆食堂で食べる物とは違う。

 もう一口食べようとした時、ユイ達が目に入る。

 マリー以外は、食事に手を付けていない。

 嫌いな物でもあるのか?

 リベラの隣に座っていたシロと目が合う。


(御主人様、マリーさん以外は食事の作法が分からないので、食べられないのかと思います)


 俺にだけ分かるように伝えてくれた。

 成程、確かにその通りだ。


「ちょっと、いいか?」


 俺は席を立ち、ルーカスとダウザーに提案をする。


「うちの従業員達は、こんな高級な料理を食べた事がないし、食べ方も知らない。食事の作法も当然知らない。行儀が悪いのを承知で頼むが、好きな方法で食べてもいいか?」


 俺の提案に、ルーカスとダウザーも自分達の落ち度に気が付いたようで「申し訳ない」と言い、自分の食べ易いように食べて言いと言ってくれた。

 アスランに、ルーカスの後ろに居る『護衛三人衆』は食べないのかと聞くと、ルーカスが部屋に戻るまでは、食べないそうだ。

 ターセルは、飲食物に毒物等が入っていないか常に【鑑定】で確認しているし、カルアは周囲に気を配り不審者が居ないかを確認して、ロキと連携している。

 護衛という仕事も大変なんだと、改めて思った。


「ところで、タクト」


 ルーカスが俺に向かって話し掛けて来た。


「ユキノに見せて貰ったが、お前があげた袋は大量生産出来るのか?」


 【アイテムボックス】を【魔法付与】した巾着の事だろう。


「いや、無理だ。俺も大量生産して、金貨等の持ち運びを少しでも楽に出来ればと考えているが、正直難しい」

「……そうか、残念だな」


 ルーカスは落胆する。

 何か、考えでもあったのだろうか?


「兄上、袋と言うのは?」


 ダウザー達家族は、ユキノにあげた巾着袋の事は知らないので、何の事か分かっていない。


「これの事ですよね?」


 マリーとフランが自分達の袋をテーブルの上に置く。


「ただの袋だが?」


 確かに、ダウザーの言うとおり只の袋にしか見えない。

 フランが、袋の絞りを緩めて、手を入れて着替えや仕事道具等を出して、テーブルの上に置く。


「……なんだ、これは!」

「四葉商会限定の新しい商品だ。誰でも使える【アイテムボックス】だと思ってくれればいい」

「タクト、俺にもくれ」

「……今の話を聞いていたか?」

「勿論だ。大量生産は出来ないが、少量なら生産可能なんだろう」

「まだ、試作品だから駄目だ」


 ダウザーもルーカス同様に落ち込む。

 そもそも、国王であるルーカスや、領主のダウザーには必要がない物だと思う。


「因みに、国王は何に使うつもりなんだ」

「お前と同じ、金貨だ。持ち運びもあるが、国として重大な問題を抱えているのでな」


 国の重大な問題がある事を俺達に言っていいのか?


「その問題については、タクトの知恵を借りたいと思っていたから今度、王都に来た時に相談に乗ってくれ」

「大臣とか、優秀な部下が沢山居るから、俺は必要ないだろう?」

「まぁ、色々とあるのだ。お前は身内みたいなものだから、余としても気兼ねなく相談出来るのだ」

「……勝手に身内にしてもらっては困るな」


 俺は王族の身内になった記憶は無い。

 勝手に都合の良い解釈をしてもらっては困る。


「まぁ、それも追々話をしていく事だがな」


 ルーカスの中では、俺はユキノの婿候補もしくは婿確定しているような言い方だ。

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