338話 職人の拘り!
トブレの工房からザルボの工房に移動する際も、マリーはドワーフの集落を興味深く観察していた。
「噂には聞いていたけど、ドワーフの技術は凄いわね」
「まぁ、人族では足元にも及ばないだろうな。因みに外に置いてあるものの殆どは失敗作だぞ」
「えっ! 十分商品になる物ばかりじゃない」
「そこは、職人の拘りなんだろう。自分が納得出来る物以外は、全て失敗作なんだよ」
「そうなの。どことなくタクトに似ているわね」
「俺はそんなに拘りも無いし、頑固でもないぞ」
「そう思っているのは、タクトだけよ。他の人はそう思っていないわ」
他の人々の、俺への評価はそうらしい……
「良く言えば、周りに流されずに自分を持っているって事よ」
さりげなくマリーがフォローしてくれる。
確かに、人の意見に対して自分の意見を変える事はそうそう無い。
自分の意見が間違っていると感じた時は別だ。
俺が、その時々によって意見を変えれば、俺を慕ってくれている者達も混乱してしまう。
自信が無くても毅然とした態度でなければならない。
これは前世で、先輩から言われ続けた事だ。
ザルボの工房に着くと丁度、ザルボが出てきた。
俺とマリーを交互に見る。
「タクト、結婚の報告にでも来たのか?」
「そう見えるのか?」
「あぁ、タクトには不釣り合いな綺麗な嫁さんだな」
思った事を話すのは分かっているので、悪気が無い事も知っているが失礼な発言だ。
ザルボの誤解を解く為に、マリーの紹介と説明をしてから、ザルボの事もマリーに紹介した。
「おかしいと思ったんだよな。タクトに、こんな綺麗な嫁を貰うなんて」
「綺麗だなんて、有難う御座います」
ここでも俺をネタに盛り上がっている。
しかし、マリーの営業トークというか話術は凄いと感心した。
俺のせいで貴族や魔族との交流経験は、他の者に比べても豊富だと思うが、聞き上手というか相手を喜ばせて話を広げる質問上手だ。
一方的に話をする俺には、到底出来ない。
ザルボとマリーは、ふたりでガラス細工を手に取りながら色々と話をしていた。
工房に置いてある物を見て、手に取りながらザルボに色々と提案している。
話を聞く限り、主にアクセサリーのようだ。
「面白いな。その発想は無かったぞ!人間族の女性は、凄いな」
ザルボは、マリーの事を絶賛していた。
「なんで、タクトのような変な奴の下で働いているんだ?」
ザルボは、又も失礼な事を言う。
「変な人の方が、色々あって楽しいですからね」
「成程! 確かにそうだな、毎日刺激があって楽しいな」
ふたりして笑っている。
ザルボも、マリーを気に入ってくれているみたいで、安心した。
トブレ同様に、ザルボにもマリーと連絡先を交換して貰い、転移扉の事を説明する。
「そうか、ある程度自由に行き来できる様なるんだな」
「あぁ、しかしザルボ達が街に来ると大騒ぎになるから、街に来るのは難しいかもな」
「そうだな、街に行って捕まったりするのは御免だ」
俺達は、魔族の集落へ自由に行き来出来るのに、魔族側は人族へ行き来出来ないのは、申し訳ないと思った。
「ゴンド村という、人族と魔族が暮らしている村があるから、今度紹介するな」
「そんな村があるのか! それは是非とも行ってみたいな」
ザルボと、ゴンド村への訪問を約束する。
マリーは、失敗作のガラス製品を幾つか貰っていた。
「それ、どうするんだ?」
「一度、持ち帰ってユイのデザインに仕えないか相談するつもりよ」
「もう、そんな事まで考えたのか?」
「当たり前でしょう。商品の可能性を見出すのが、商人の基本よ」
「……勉強になります」
俺とマリーのやり取りを見て、ザルボは大笑いしている。
「それじゃあ、そろそろ行くわ」
「おぉ、またな!」
「失礼します」
ザルボに別れの挨拶をして、アラクネ族に挨拶に行くため『蓬莱の樹海』へ向かう。




