332話 特異なミミック!
「因みに、どの道を通ってこの部屋までたどり着いたのだ?」
ロッソの質問に俺は来た道と罠について詳しく答える。
ヒドラを倒した事を説明すると、「魔王になら倒されて当然か」と残念な仕草をする。
あの湖に、新しい守護者を用意しなければならないからだろう。
ゴーレムの主は、ロッソかと聞くと「その通りだ」と答える。
ついでに仕組みを聞くと、簡単だと目の前で小さなゴーレムを作った。
小さなゴーレムには、部屋の掃除を命令したらしく、ゴツゴツとした岩の体で掃除をしていた。
俺にも出来るかと聞いたが、今のままでは無理だと即答された。
今のままという表現が、気になった。
もしかしたら、不死やアンデッドになれば可能という事なのかも知れないが、知らない方が幸せという事もあるので、深くは聞かない。
最後の穴では、ムラマサを使い滑る岩壁を上って来たと伝えると、ムラマサを見せて欲しいと言うのでムラマサを呼ぶ。
「これは珍しい。自我を持ったミミックか!」
……ん? 魔剣じゃなくて、ミミック?
ロッソは俺にお構いなしで、ムラマサを触る。
ムラマサも、撫でられている感覚なのか、抵抗のような仕草も見せない。
「ムラマサが、ミミックっていうのは、どういう事だ?」
ロッソに説明を求める。
ミミックは、寄生魔獣でどのような物にも寄生する事が可能だ。
寄生する際に、一番獲物を狩りやすい形状へと変化をする。
只、ムラマサと異なるのは自分の意思を持っている事だ。
極稀にだが、長い間同じ物に寄生しているミミックに突然自我が芽生える事があるそうだ。
自我が芽生えると、自分がミミックだと忘れる傾向が強く以前の記憶を失っている事の方が多いが、捕食活動はある為、なにかしらの方法で捕食を行っているそうだ。
ムラマサが魔剣だと言われているのも、そのせいでは無いかと話してくれた。
俺は感心しながら、ロッソの説明を聞いていたがムラマサは自分自身がミミックだと知って、ショックを受けていた。
因みに、自我に芽生えたミミックは、その依代から離れる事が出来ない為、破壊されると同時に死滅する。
ロッソは、自我の芽生えたミミックとの契約についても知っていたようで教えてくれた。
所有者を認めるのは、ミミック自身。つまりムラマサになり、俺よりも信頼出来る者や、相性が良い相手等と出会いムラマサの心が傾いた時点で、契約は解除になるそうだ。
なにか、好きでもない相手が勝手に告白して来て、付き合ったら一方的に振られるような気分だ。
(よかったな。俺よりも、お前を使いこなす奴に会えるといいな)
(そうだな、我を踏み台にするような主人には出会いたくは無いな)
此処に来る時に、踏み台にした事を根に持っていたようだ。
正直、ムラマサと離れる事は寂しいが、俺よりも良い相手と契約が出来るなら絶対にその方が良い。
「しかし、ロッソは物知りだな」
「まぁ、長い間に色々と研究をしてきたからな」
そう話すロッソは、やはり寂しそうに見えた。
「死後の世界について、教えて貰ってもいいか?」
「タクトも興味があるのか?」
「興味というか、【蘇生】のスキルを持っているから知っておきたいだけだ」
「【蘇生】はエルフ特有のスキルだった筈だが、珍しいな」
そう言いながらもお互い転移者なので、聞かなくてもある程度は理解出来た。
【恩恵】の存在を知っているからだ。
ロッソは、死後の世界について話を始める。
死後の世界、『冥界』と言い、死んだ者達の魂はそこに一旦留まる。
アンデッド系魔物は、その中から現世に恨みや妬みが強い魂を呼び戻す事で生まれるそうだ。
この蓬莱山には、口減らしの為に死んだ者や自殺者が多い為、死体には事欠かないそうだ。
スケルトン系の魔物が多いのは、ロッソの好みだと笑いながら話していた。
ロッソも冥界との接点は、魔物召喚する際に少し立ち入るだけで、冥界そのものがどのような世界なのかは、分らないそうだ。
まだまだ、研究の余地があると楽しそうだ。
長居しても悪いと思い、今度来る時に持って来て欲しい物をエテルナに書いてもらった。
使ってくれと、金貨を渡されたが今度で良いと断る。
ロッソも引き籠っているから、死人が持っていた金貨を押収しても使い道が無いのだろう。
ロッソとエテルナに礼を言って、ダンジョンから出ようとすると、外に繋がる出口があるとエテルナに案内される。
岩の階段を上って行き、岩の扉を開けると蓬莱山の火口付近に出た。
辺りは既に暗く夜になっていた。このダンジョンに入って何日経ったのか分からない為、何日目の夜かも不明だ。
下にはマグマらしきものが見える。落ちたら俺は死ぬな! と思いながら見ているとエテルナから、岩の扉の解除呪文を教えてもらう。
その前に通常の者であれば、ここに来るまでに死ぬであろう場所だ。
「転移魔法でも入って来れるけど、一応礼儀ってのがあるからね」
流石に、ここへの転移は嫌なので洞窟内への転移を提案する。
仕方ないと言う顔をしながらも承諾してくれた。
ロッソには伝えておいてくれるそうなので再度、礼を言って別れる。




