29話 この子達の正体!
村を出てから、三〇分もしないうちに戻って来た。
出発した時は、早かったのか誰とも会わなかったが、この時間だと数人は起きて作業をしていた。
丁度、フランが村の入口で花に水を上げていた。
「ただいま」
「あれ? どちらに行かれてたのですか?」
「あぁ、急遽オークの集落に行って来た」
「今晩の為の、偵察ですね」
「いや、オークの集落を襲撃してきた!」
暫くの沈黙の後、「えー!」と叫ぶ。
後ろにいるアルに気が付くと、更に大きな声で叫んだ!
村人が何事かと出てくる。
「フランよ、大きな声を上げて、どうしたのだ?」
叫び声をあげたフランに声を掛けた村長が、俺に気付く。
「あれ? タクト様、今から出発ですか?」
「いや、今オークを全滅させて帰ってきた」
「えっ! 今なんとおっしゃりました?」
「オークの集落を襲撃して、全滅させてきた」
村人達が、驚きの声を上げる。
「一応、証拠だ」
アルとネロの勝負で使ったオークの頭と核を出した。
村人が皆、信じられない様子だ。
「こっちの大きいのは、妾が倒したのじゃぞ!」
「倒した数は、私の方が多いの~!」
アルとネロは言い合いを始めた。
「失礼ですが、この子供たちは?」
村長が不思議そうに聞く。
「こっちがアルで、こっちがネロ」
「よろしくじゃ!」
「ヨロシク~!」
村長にアルとネロが挨拶をする。
フランが恐る恐る聞く。
「今、ネロと仰いましたが、もしかして……」
「その、もしかしてだ」
フランがまた叫ぶ。
「フラン、子供の前でなんて声を出すのだ。 驚くだろう!」
村長がフランを叱り、アルとネロの頭に手を掛け撫でる。
「驚かせてすまんのう。 これでも食べると良い」
持っていた木の実をふたりに差し出す。
「お前、いい奴じゃな!」
「うん、お前いい奴なの~!」
アルとネロは、村長を気に入った様子だ。
アル達の素性を知らなければ、どこにでもある祖父と孫の心休まる情景だ。
「そっ、村長様……」
「なんだ、フラン」
「その御方達は、第一柱魔王のアルシオーネ様と、多分ですが第二柱魔王のネロ様なんですよ」
「寝ぼけているのか? 朝から何をバカなことを言って困ったもんだな。 ねぇ、タクト様」
「いや、その通り。 本人達だ」
「えっ、又御冗談を」
信用していない村長は、アルとネロに優しく笑いながら質問をした。
「君達は、魔王なのかな?」
「そうじゃ、第一柱魔王のアルシオーネじゃ!」
「第二柱魔王のネロなの~!」
一瞬、驚いた後に俺が「冗談でなく、本物の魔王だ」と真顔で言う。
村長は、アルとネロの頭に手を置いたまま、固まった。
アルとネロは、不思議そうに村長を見上げる。
「どうしたのじゃ?」
「お~い」
返事が無い、完全に気を失ったか?
……いや、もしかして死んだか?