296話 発想の転換!
フランがアラクネの子供達と一緒に何かをしている。
「この子達はまだ小さいので、上手く糸が出せないみたいなの。頑張っているので応援していたの」
そう言いながらもカメラで時折、写真を撮ったりしている。
このアラクネの子が大きくなった時に、見直す事も出来るので嬉しいかもしれない。
俺も少し後ろからその様子を見守っていると、ふと思い出した。
スタジオの背景は壁なので見栄えしない。 背景をカーテンにして、色を変える事が出来れば衣装も映える。
カーテンであればそれ程難しくないし、縫製技術が拙い子でも練習として十分じゃないか!
早速、クララに提案をしてみる。俺と同じように技術向上にもなると喜んでくれたので、大きさのみ指定して好きなように作って貰う事にする。
「タクト、この写真というのは紙にしか出来ない技術なの?」
「ん? どういう事だ?」
「私達の布にも同じ事が出来るのであれば、なにか使い道があるかと思って……」
成程! 確かにそうだ。前世でも熱転写などで、シャツ等をオリジナルで作ったりしている事もある。
アラクネ製の糸を使い、写真を転写する服や布製品があれば欲しがる者は多数いるだろう。
「クララ、それいい案かも知れないぞ」
クララは自分の提案を褒められた事が、嬉しいみたいだ。
フランを呼んで、布への転写が可能かを確認するが当然、今迄試した事がないと言うのでクララに布を作って貰い試す事にする。
被写体をシロにして布への転写を試みてみる。
出来上がった物を見るが、紙に比べて縫製が少し荒いのか上手く転写出来ていない所もあった。
「もう少し糸を細くすれば問題無いかも知れないわね」
クララは、布へ転写した物を手に取りながら改善策を考えると、布を作り始めた。
その姿を見ているとドワーフと同じだなと思う。自分の仕事に責任を持ち、きちんと向かい合っている職人の姿だ。
「これで、もう一度御願い出来るかしら」
クララは細さが異なる糸で作った布をフランに手渡すと、すぐに転写作業に入った。
「綺麗に出来ているわよ」
転写作業を終えたフランは、笑顔だった。
フランの言う通り、二枚の布は先程転写した布よりも綺麗な仕上がりになっている。
クララは見比べながら色々と考えている。品質的には十分だろうが、クララは納得いっていないのだろう。
試作と失敗を繰り返して物を製作していく姿勢は、どの世界でも同じのようだ。
ここはフランとクララに任せることにした方が面白そうなので、敢えて口を出さずに見ている事にするが、フランのMP消費のみ気になっていたので、気を付けるように言うと「分かっている」と答えた。
ミランダの事もあるので、無理はしないとは思うが……
一度、王都かジークに戻ろうとも思ったが、ユキノの服やクララとフラン達の事もあり、時間が読めないのでシロとクロとで雑談をする事にした。
クロにはガルプツーの事で話を聞いておきたいとも思っていた。
俺の考えを察してか、クロからガルプツーの事を話始めるが、話を聞く限りガルプツーは悪い奴ではない。
やはり、ダークエルフの件で変わってしまったのだろう。
疑問を感じるのは、エルフとダークエルフの違いはあれど、不老不死に近い存在のエルフが人族に殺された事だ。
肉体の損傷や、ガルプツーが居なかった事による絶望もあるが、普通に考えれば殺すより人身売買の方が高値で売れる筈だ。
ダークエルフという希少種であれば尚更だ。
結果だけ聞いていると、殺害自体が目的だと考えてしまう。
考え込んでいるとクロから謝罪されるが、「クロのせいじゃない」と返す。
フランとクララが俺を呼ぶ。どうやら、納得のいく物が出来たみたいだ。
フランから布を受け取ると確かに、良い出来だ。あとはどうやって商品と結びつけるかだ。
とりあえず、このシロの写っている布製写真はイリアにギルマス代行の褒美として、あげる事にする。
その後、ユキノの服も出来たので「今日の所は帰る」と、クララ達に告げる。




