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295話 向上心!

 フランがクララに写真を手渡すと、クララは驚いて写真を見ている。

 驚くクララの周りに他のアラクネ達も集まってきて、同じように驚いていた。

 クララの後ろには、他のアラクネ達も写っているので、先程の出来事というかだと分かっているようだ。


「一体、どういうことだ」


 困惑しているクララに、フランが写真について説明を始めると、アラクネ達は真剣に聞いていた。

 今迄、絵だと思っていたものが実は絵ではなく、写真という別のものだった事はアラクネ達には衝撃だったみたいだ。

 説明を終えると、集落の皆を集めて集合写真を取り、希望者に写真を撮ったりとフランは大忙しだが、嬉しそうにカメラを構えていた。

 生き生きと写真を撮っているフランを見ていると、スタジオでの撮影よりも自由気ままに写真を撮るほうが、向いているのだと改めて感じる。

 俺への遠慮もあるので、本心を強く語らない事もなんとなく分かっている。

 誰もが自分の好きな仕事が出来ない事は分かっているが、嬉しそうなフランを見ていると、出来る限り早くやりたいと思っている事をさせてあげたいと思う。

 その為に村から出てきたのだから……


 フランから写真を受取ると皆、嬉しそうにしている。

 写真で自分の姿を確認してポーズをとったりしている者達も居て、面白い。


「タクト、写真というのは凄いな。知らなかった事を教えてくれて、ありがとう」


 クララが礼を言ってきたので、服のお礼だと返すと依頼していた服を持ってくると言うので、ユキノの服を作ってもらうように、ユイのデザイン画を渡す。

 クララは受取ると直ぐに指示を出し始める。指示を受けたアラクネ達は、急いで製作の準備に入っていた。

 その様子を見ていると、写真を配り終えたのかフランが俺の所に寄って来る。


「お疲れさん」

「疲れたけど、いい経験になったわ」


 アラクネは身体が大きい為、カメラで撮るのが難しかったそうだ。

 何枚も撮影していると段々とコツが掴めたようで、撮っていて楽しいと笑顔で話していた。

 只、まだ反省する点が多数あるし、満足いく写真でも無いので又、連れてきて欲しいと頼まれる。

 職人気質というか、向上心があるのか分からないが、俺もその気持ちも分かるので快諾した。


 クララが頼んであった服を持ってきてくれたので、礼を言う。

 報酬は写真と持ってきた品で十分過ぎると言ってくれたが、それ以上に素晴らしい服を仕立ててくれているので、逆に俺が申し訳ない気持ちになる。

 これからも、出来る限り気に入って貰える物を持ってこようと思う。


「タクト、服以外でも私達に作れる物があれば教えてくれ」


 クララ達も制作意欲に駆られているのか?

 とりあえず、布で出来そうな物を考えるが、特に思い出せない。

 クララを見るが、俺の答えに期待をしているようだ。

 複眼で見られると余計に期待以上の返答をしないといけない気持ちになる。


「国王のマントでも作ってくれるか?」

「そんなのでいいの?」


 クララは思っていたよりも簡単に依頼だったので、拍子抜けしている。

 しかし、今思いつくのはこれ位しか無い。


「余り造り過ぎると、クララ達を無理矢理攫って、服を作らせようとする奴が現れるからな」

「……確かにその可能性は、あるわね」


 幾らでも作れるという事は、従来の仕立て屋と違い買い替える回数が大幅に減る。

つまり、仕立て屋の仕事を奪う事になる為、逆恨みされることもあるだろう。

 人族と魔族との共存共栄を考えると、急激な変化は避けるべきだ。


「逆にクララ達から、こんなものを作ってみたいと提案してくれてもいいぞ。需要があるかは別だが、人族に聞いてみる事も出来るからな」

「そうね、皆で考えておくわ」


 クララが困惑している様子からアラクネ達が、自分達の知恵を絞って新しい物を作るという発想が今迄、無かったのだろうと感じた。

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