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294話 先入観!

「何処に行くのよ」


 フランが不安そうに話すので、服を仕立てる所だと答えると安心した様子だ。

 マリーはその様子を見ていて、口元を手で押さえると何処かに行ってしまった。

 多分、俺が何も言わないので、集落に着いたフランが驚く様子を思い浮かべて、笑いを堪えていたのだと思う。


「マリー、どうしたんだろう?」

「さぁな」


 フランもマリーの行動が気になったみたいだが、深く考えてはいない様子だ。

 助手のミランダとアルパの姉妹には、少し早いが帰っていいと伝えると、上手に写真を撮りたいので、もう少し撮っていいかと、フランに尋ねていた。


「駄目よ! 今日はいつも以上に一杯撮ったでしょ。MP切れになると大変だから今日はここまでよ」


 ミランダは、残念そうな顔をする。


「ミランダが倒れたら、孤児院の皆が心配するから、今日撮ったのを持って帰って、頭の中で何が良くて駄目だったかを色々と考えるのも、写真の勉強だからね」


 昔、フランを叱った時の事を思い出した。

 フランもこういう事が言えるように成長したのかと思うと感慨深いものがある。


「うん、分った。フランお姉ちゃんも、薬ばかり飲んでたら体壊すから、気を付けてね」

「あっ……うん」


 ……前言撤回。

 フランは、ばつが悪いのか俺と目線を合わせないようにしている。


「フラン、後で話があるから。話の内容は言わなくても分るよな」

「……はい」


 項垂れるフランを見たアルパが、「フランお姉ちゃんでも怒られるんだね」と不思議そうな顔をしていた。

 フランは、しゃがんでアルパと目線を合わせながら「悪い事したら誰でも怒られるんだよ」と優しい口調で話すと、アルパは「分かった!」と元気な声で返す。

 ミランダとアルパを孤児院まで送り届けると『蓬莱の樹海』に向かう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「やっと目覚ましたか」

「あれ? 私、どうして寝ていたんだった……あっ!」


 目を覚ましたフランは目の前のアラクネ達を見て、自分が気絶していた事を思い出す。


「タクト、知っていて黙っていたでしょう」

「びっくりさせた方が良いかと思ってな。人生に驚きは必要だろ!」


 俺の言葉に、フランは笑っていない。


「悪かったって、アラクネ達がフランの写真を気に入っていたから連れて来たんだぞ」

「えっ、そうなの! 魔族にも私の写真の良さが伝わるの」


 さっきまで怒っていたのに、もう嬉しそうな顔に変わっている。


「あぁ、フランが撮った写真を絵だと思ってるみたいなので、アラクネ達を撮影してフランの凄さを見せつけてやれ!」

「そういう事なら仕方ないわね」


 フランは褒められて育つ子なので、いい意味で扱いやすい。

 被写体のアラクネ達はというと、俺の持ってきた品物を嬉しそうに手に取ったりして、仲間内で色々と会話が弾んでいるようだ。

 とりあえず、クララを呼びフランとお互いを紹介する。


「持ってきた物は気に入って貰えたのか?」

「えぇ、この森に居たら見たり触ったり出来ない物ばかりなので皆、喜んでいるわ」

「そうか、それなら安心した」


 アラクネ族にも好評だったようなので、これからも手当たり次第目に付いた品物を購入してみる事にする。


「フラン、クララを数枚撮ってやってくれ」

「分かったわ」


 フランはカメラを出して、被写体であるクララを撮影するが、クララは何が起こっているか分かっていない。


「貴方達は何をしているの? 攻撃では無いと思うけど……」

「もう少ししたら、今迄で一番驚くような事が起きるから待っていろ」


 不安そうなクララに話し掛けると同時に、撮影も終わった。


「クララ、以前に聞いた暗い場所まで案内してくれるか?」

「この間帰り際に言っていた場所の事ね。分かったわ、着いてきて」


 クララの後に着いて行くと、木の中が空洞になっていて、俺とフランのふたりが入って少し動けるだけの場所があった。

 周りも陽の日差しが無く薄暗い。


「フラン、ここで転写作業出来そうか?」

「そうね、もう少し暗い方が理想だけど、入口を布か何かで覆って貰えると助かるかな」


 フランが答え終わると、クララは「分かった」と言って、すぐにカーテンのような物を製作始めた。

 数分で入口を覆うカーテンらしき布が完成した。

 これには俺もフランも、驚いた。俺が思っていたよりも全然速く出来上がる。

 普通の服がすぐに出来ると言って理由も理解出来た。

 俺は出来上がった布を入口に掛けると、フランが中に入り鞄から石を出すと、うっすらと光始めた。


「フラン、何だこれ?」

「……タクト、それ本気で言ってる?」

「あぁ」


 光る石なんて始めて見た。フランの口調から常識っぽい感じだ。


「これは『発光石』よ」


 フランの説明だと、鉱山でよく発掘される石らしく、街灯にも使われているそうだ。

 光る強さによって取引される金貨も異なるが、転写に使用する光の強さは小さくていいので安価らしい。

 普通に生活していれば、知らない筈がないとまで言われた。

 確かに街で道や、店先の灯を見たことがあるが先入観なのか、なんの疑問も持たなかった。

 考えてみれば電気が無いこの世界で、灯があるのは不思議な事だ。

 俺の非常識は、こうした先入観の影響もあるのかも知れない。

 もしかしたら他にも俺が先入観で決め付けている為、気付いていない事が多くあるのだろう。

 気が付いた時に、今回のように馬鹿にされるかもしれないが聞くことにする。

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