292話 疲労困憊!
ジラールから、王都に三獣士が帰還したと連絡があった。
一応、紹介も含めて会ってみるかと聞かれるが、特に用事も無いので断る。
どちらにしろ、明日には冒険者ギルドの昇級試験があるので、いやでも会う事になる。
シキブ達、ロード討伐のメンバーも外出許可が出たので「ジークに帰るか?」と聞くが、俺の昇級試験を見学してから帰ると、皆が答えた。
驚いたのはライラが、城の魔法関係者と外に出て魔物討伐をしていた事だ。
自分のランク以上の魔物相手の為、ギルドでクエストは受注出来ないので報酬は無い。
但し、レベルアップに伴う魔法の使い方や特徴を、城の魔法関係者に聞いたりして、少しづつではあるが強くなっているみたいだ。
ヤヨイの話では、ライラは城の魔法関係者の間でマスコット的な存在で可愛がられているので、皆が親切に教えてくれているそうだ。
ライラが自分なりの強さを少しだが、見つけたようで俺も嬉しい。
明日、試験だからといって特別に用意もする必要も無いので、アラクネ族の所に出来上がった服を取りに行く事にする。
まずは、服の報酬でもある物を探す為、とりあえずは王都で出来る限り大きな鏡を購入する事にする。
目についた道具屋に入る。ジークにある一番大きな道具屋と同じ位の広さで、宝石を主に扱っている店のようだが、品揃えが豊富だ。
店頭には数個しか置いていないが、バックヤードにはそれなりに在庫を持っているのだと思う。
俺が店内を見渡していると、店員らしき者が「何をお探しですか?」と聞いてくるので、「珍しい物が欲しい」と答える。
店員は、俺の回答が予想外だったようで困った様子でいる。
確かに『珍しい物』と一言で言われても難しいだろうと思い、「おすすめの希少な品はあるか?」と答え直す。
店員は「あちらで、少々お待ちください」と店の片隅にある椅子に案内される。
数分後、店員が幾つかの商品を持って戻って来た。
『ブローチ』に『髪飾り』や『ネックレス』だが、特に目新しい物も無い。
しかし、クララ達アラクネ族には珍しいかも知れないので、一応購入する事にする。
「全部で幾らだ?」
「そうですね、少しお待ちください」
店員は、その場で計算を始める。
その間に商品を【神眼】で鑑定をする。
使われている宝石が貴重なのは分かるが、周り細工品は安っぽく感じる。
俺がドワーフ達の物を見ているので、そう感じるのかも知れない。
店員の計算が終わって金額を提示してきたが、思っていたより高くない。
ポケットに手を突っ込み【アイテムボックス】から金貨を出す。
店員は驚いているが、急いで金貨の枚数を数えている。
ひとりでは無理だと思ったのか、大声で奥から人を呼ぶ。
その声に反応してか、中年の男性が奥から現れる。
「なんだ、これは?」
男性は驚いているが、店員が説明をすると金貨を一緒に数え始めた。
ひとりでも余裕で数えれる数だと思うが……
「お買い上げ有難う御座いました」
金貨を数え終わったふたりに、笑顔で店を送り出された。
その後も、目に付いた店に入っては珍しい物や、アラクネ族が好きそうな感じの物を購入する。
荷物になるので、人目のない場所に行っては【アイテムボックス】に購入した品を収納する。
これだけ買えば、アラクネ達の好みも少しは分かるかも知れない。
俺の頼みに前向きに対応してくれているので、見合った報酬は支払いたいと思っている。
買い物も終えたので、ユイに頼んでおいたユキノの服のデザインを取りに一旦、『ブライダル・リーフ』に戻る。
ユイに声を掛けて、デザインを貰うが庶民的で良い意味で華が無い。
仕事中で忙しそうだったので、ユイに礼だけ言う。
前回、集落に行った際にクララが写真の事について尋ねられた事を思い出した。
フランに仕事の終わる時間を確認すると、予約は少ないので急ぎの用事があれば対応出来るそうなので、終わったら連絡を貰う事にした。
まだ、時間があるのでギルド会館でイリアの疲労している様子でも見に行く事にする。
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ギルド会館に移動すると、俺を見つけた冒険者達からロード討伐の件で色々と質問を受ける。
思っていた以上に厄介だ。適当に受け流していると受付嬢のユカリを発見したのでユカリを呼び、イリアの面会を依頼した。
冒険者達の話では、イリアはここ最近かなり機嫌が悪いので注意するように言われる。
……もしかして、来たのは失敗だったか?
そんな事を思っていると、ユカリからイリアとの面会の許可を得たので、冒険者達に別れの挨拶をして、ギルマスの部屋へ向かう。
扉を二回叩くと中からイリアの声が返って来たので、扉を開ける。
「……元気か?」
目の前のイリアの姿は、徹夜続きで死にそうだった前世の俺と重なって見えた。
「元気な筈無いでしょう。シキブのいい加減さに呆れているのと、この状態になるまで誰も気付いていない現状に絶望しているだけです……」
機嫌が悪いと言うよりは、生気が無いので【回復】を掛けてやろうかと提案すると「これ以上まだ、働かせるつもりですか!」と怒られた。
話題を逸らすつもりで机の上の書類を数枚見てみるが、作成日が一年以上前の物もある。
確かに、性格がキッチリとしているイリアが、この状態を無視出来る筈も無いので、必要以上にシキブの尻拭いをしているのを確信した。
「何か食べ物でも買ってくるぞ。欲しい物でもあるか?」
「この間頂いたポテトチップスを、もう一度食べたいですね」
【アイテムボックス】から、皿とポテトチップスを出して、イリアの前に置く。
少しではあるが、イリアの目に輝きが戻ったようだ。
ポテトチップスを食べた手で書類を触ると汚れる事を注意すると、食べる事に専念していた。
一気に食べ終わると一息つく。
「それで用件は何でしたでしょうか?」
「いや、特に無い。様子を見に来ただけだ」
「用事も無いのに、わざわざ来たのですか?」
「おぉ、大変そうだと思ったからな」
「……この忙しい時に」
「悪かったよ。仕事の邪魔になるから、とっとと消えるわ。シキブには報告しておくから、安心しろ」
「そうですか……ポテトチップス御馳走様でした」
相変わらず律儀だ。
扉を開けると後ろから、イリアが「お気遣い有難うございました」と礼を言うが、振り返らずに右手を振って扉を閉める。




