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282話 生体実験施設-2!

 捕らえられていた魔人達を送り届けたアルとネロが戻ってきた。

 ふたりには「施設は俺が良いと言うまで壊すなよ」と再度注意すると、渋々頷いていた。


「タクトよ、キメラを含め敵と思う奴を討伐するなら、久しぶりにパーティーを組まぬか?」

「それ、いい案なの~」


 アルからの申し込みに断る理由は無いが、アル達にメリットがあるとは思えない。


「別にいいけど、何でだ?」

「タクトには早く強くなってもらわないと困る。本気で遊べる相手はひとりでも多い方が楽しいからな!」


 アルは自分達の強さまで、俺を一刻も早く強くしたいらしい。

 本気で遊べるというのは、本気で戦える相手という事だろう……以前に見たステータスであれば、まだまだ無理だ。


「分かったよ。お前達と本気で遊べるように強くなるよう努力する」

「おぉ、頼んだぞ! いつでも訓練の相手にはなってやるからな。以前に話した他の者に迷惑にならない場所も、問題無いからの!」


 アルは楽しそうに話す。その横で、ネロも身体を左右に振って喜んでいた。

 ふたりとパーティー登録をして、魔人達が捕らえられていた部屋を出て先に進む。


 廊下にあるキメラ達の死骸を、避けながら進んでいくと突き当りになった。

 先程、キメラ達が出てきたので隠し扉がある事は確実なので、周りを見渡すと突き当りの扉の下にキメラの毛が挟まっている事に気付く。

 ネロにこの扉だけ壊していいと言うと、壁に向かって一発殴ると呆気なく壁は崩れ落ちた。

 その先には、左右に大きな檻がある。先程のキメラ達が収監されていたのだろう。

檻の中には大きな階段があり、下へ行く階段があるので下りる事にする。

 階段を下りると、扉があるので開けると、腐敗臭と血生臭さが混じった臭いがする。

ここで人体実験をしていたことがすぐに分かる状況だった。


 時間が経っているのか、血も固まっているので暫く使われていないようだ。

 解剖途中の者や、部位毎に切り取られて無造作に置かれていたりと、この光景を見たら普通の者いや、死体に慣れた冒険者でさえも嘔吐する者が多いだろう。

 俺達というか、国がこの施設に気が付いた為、施設ごと破棄したのかも知れない。


 クロには今迄の戦闘風景も写真を撮って貰っていたが、この部屋は出来る限り細かく撮るように頼む。

 棚には、見た事も無い道具や、封魔石のような石が多く置かれていた。


「人族は、ここまで非道な事をする種族になったのか」


 アルが落ちていた物を拾いながら呟く。

 ネロも何も言わないが、同じ思いだろう。


「人族としていや、この世界に生きる者として許される行為じゃない。 もしかしたら、似たような施設が他にもあるかも知れない。俺に協力してくれるか?」

「当たり前じゃ!」

「絶対に許さないの~!」


 これは、人族や魔族と垣根を越えて、全種族を侮辱する行為だ。

 多分、この世界に来て怒りが抑えられない事は初めてだ。


「タクト、妾達以上に怒っているのは分かるが、少し落ち着け!」


 アルに言われて、自分が思っていた以上に殺気を放っていた事に気付く。


「……すまない」


 深呼吸をして、平常心を取り戻す。


「主、これを」


 クロが俺に書類の束を持ってきた。

 書類には、ホムンクルスの製造方法や、失敗の事例等が事細かに書かれていた。

 以前にマリーやフランにもホムンクルスの事は聞いていた。

製造場所等は聞いていなかったが、ホムンクルスはここで製造されていたことになる。

 つまり、ホムンクルスは人族や、魔族を犠牲にしていた事になる。

 人族の調達は誘拐等もあるだろうが、騒がれるとその後同じ事をしようと難しい。

 そうなると、居なくなっても気にならない者と言えば、奴隷しかいない。

 貧困層のみが、犠牲になっているこの世界の構図が改めて分かった。


「タクト、下にひとつ消えそうな魔力を感知したぞ」


 アルに言われてから、【魔力探知地図】で確認するとアルの言う通りだった。

 奥にある扉を開けると、更に下に行く階段があるので下りると、階段は途中で終わっておりそのまま、身を投げる造りになっている。

 これが、ナタリーが言っていた処分場だと分かった。

 この下に居るという事は、処分された者がまだ生きていると言う事になる。


 三人で飛び降りようとすると、アルとネロが俺の手を取り飛ぶことを提案してくれた。

 たしかに、龍人と吸血鬼であれば、空を飛ぶことが出来る。

 俺も空を飛ぶスキルが欲しいと思った。


 アルとネロと手を繋いで、ゆっくりと下りる。

 足元には、廃棄された者達の死骸だ。踏むのも申し訳ないが、生きている者を救出するのが先決なので、死骸を掘り返す。

 魔力探知で生存者は魔獣だったが、辛うじて生きている感じだ。

 見た目は大型の犬か狼に似ている。アルが話しかけるが返事が無いので、【回復】と【治療】を施す。

 意識を取り戻したのか目を開けると、俺を見て噛みついてきた。

 左腕で首元は守ったが、牙は左腕に食い込んだままそのまま食い千切ろうとしている。

 俺を見る眼は、亜種であるかのように紅く光っていた。

 やはり、人族に対して怒りがあるのだろう。怒りの矛先が、俺に向けられるのは仕方ない。


「妾等は、お主を助けに来た。コイツも人族だが仲間だ、安心しろ」


 アルが頭に手を置いて話しかけると信用したのか、左腕から牙を抜いた。

 左腕は【自動再生】ですぐに戻る。それを見ていたアルとネロは、なにやら嬉しそうな表情を浮かべた。

 ……嫌な予感しかしないので多分、気のせいだろうと思いたい。


「謝って許される事じゃないが、人族として謝らせてくれ」


 魔獣に向かい、謝罪をする。

 人族の代表と言う意味ではないが、人族が悪い奴ばかりじゃないと知ってもらいたい気持ちで出た言葉だった。

【念話】を使っていないので通じるかは分らない。


(貴方が、私を助けてくれたの? 私こそゴメンナサイ)


 言葉でなく直接頭に言葉が入って来た。俺は【念話】を使っていない。

 驚いていると、助けた魔獣は自分の事を話してくれた。

 名を『クンゼ』と言い、元々は狼人族だったが捕まり気が付くと、この姿にされていたと言う。

 自分の姿を見る事も無いので、今でも自分が何なのかさえも分かっていないと話している。


「姿は『ヘルハウンド』だな。なんらかの方法で、意識だけ狼人族の物になっておるのじゃろう」

「……頭の中身だけ交換したという事か?」

「分かりやすく言えば、そういう事じゃな」

「紅い目をしていたが、亜種というかロードなのか?」

「違うな。ヘルハウンドは元々赤眼の種族だ。ロードの眼の色とは若干違う」


 そうなのか? 赤色の違いなんて俺では全然分からない。

 やはり長生きしている者は、知識も豊富だと感心した。


「クンゼとやら、これから辛いじゃろうが行く所が無ければ、妾とネロの家で一緒に暮らそう」


 クンゼに優しい言葉を掛ける。

 アルとネロの家と言うのは、ゴンド村の事を言っているのだろう。

 クンゼは何も言わずに、アルの方を見続けていた。


「タクト、気付いたか!」


 アルが俺に話し掛ける。

 俺も気が付いたが、アルとネロも異変に気付いていた。

 上の階、いや地上に大きな魔力を感知したのだ。しかも、ふたつ。

 クンゼも連れて、アルの【転移】で地上に戻る。


「これはこれは、魔王が三人も揃っているとは!」


 目の前には、ガルプツーと覆面を被った三メートル程の魔人らしき者が立っていた。


「ガルプツー! 何故、こんな事をしているんだ!」

「……ガルプワン、お前に話す事は無い」


 クロの言葉にガルプツーは素っ気なく答える。


「ガルプツーよ。お主が、ここの責任者か?」


 アルがガルプツーに質問をする。


「久しぶりですね、アルシオーネ様。私は、ここの管理を任されていただけですよ」

「ほう、そうか。それなら、責任者の名前を教えてもらおうか?」

「フフフ、貴方達に教える気は無いですね。とりあえず、この『エバルス』と戦って生き残れたら考えましょうかね」


 不敵に笑い、魔王であるアルの質問にも軽く受け流していた。


「いや、先にお前に聞く方が早いじゃろう」


 言い終わると同時に、アルがガルプツーに襲い掛かる。

 しかし、ガルプツーはそれより先に姿を消した。


「怖いですね、殺されないうちに私は先に帰らせてもらうとしましょう。では、またそのうち何処かで……」


 ガルプツーは言葉だけ残して去って行った。


 アルとネロにガルプツーを追えるかと聞くが、無理だと言う。

 クロは、前回同様に悲しそうにガルプツーが居た場所を見ていた。


「ここは、私に任せて貰うわよ!」


 ネロいや、知らぬ間にローネに変わっていた。

 アルも同族を実験体にされたネロの怒りが分かるので、あっさりと譲る。

 俺も異論は無い。


「思う存分暴れろ!」


 俺の言葉を聞くと、『エバルス』と呼ばれた者に向かって行く。

 ローネの攻撃は確実にエバルスに決まる。

 一方、エバルスは動きが遅くガルプツーが何故、あそこまで自信を持っていたのかが疑問だ?


 ローネが顔の仮面を攻撃した瞬間、仮面が外れると真っ黒な目が俺とアルを睨んだ。


「駄目!」


 クンゼが、飛び跳ねて俺達の前に飛び出すと、エバルスの目から放たれた黒い光線を、身体に浴びた。

 その瞬間、クンゼの身体が石に変化していく。

 俺とアルは、すぐにクンゼの元に駆け寄り【回復】や【治療】をするが、あっという間に全身が石へと変わった。

 ローネは俺達を一瞬見て、エバルスの目を潰す。

 大きく悲鳴を上げて蹲ったエバルスの頭を破壊して、エバルスを倒した。

 この石化の光線が、ガルプツーの切り札だったようだ。


 ローネもクンゼの元に駆け寄るが、既に石と変わってしまっている。


「何故、妾達を助けたのじゃ! 妾にはユニークスキルがあるから大丈夫じゃったのだぞ!」


 アルは、石になったクンゼを抱えたまま話し掛けている。

 ユニークスキルと言うのは【異常ステータス無効】の事だろう。


「お主は、本当に馬鹿じゃな。今から楽しい暮らしが待っていたかも知れんのに……」


 アルの目から涙が出ていた。

 ローネもネロに戻ったのか、手で目を拭っていた。

 こんな状況でも、俺は涙が出なかった。

 悲しくない訳では無いが、何処かで自分に起きた事では無いというような第三者的な感覚がある。

 傍から見れば冷酷な奴にみえるだろう。


 アルは立ち上がると「あいつ等は皆殺しだ!」と見た事のない表情をしていた。

 アルの殺気に気付いたのか、周りが騒がしい。魔物や動物が危険を感じて、一斉に移動したのだろう。

 そんなアルの前にネロは来ると、両手でアルの頬を触り、


「怒りに身を任せちゃダメなの~! アルがいつもわたしに言っている事なの~」


 アルを落ち着かせようとしていた。

 ネロの顔を見たアルから殺気が消えて、いつものアルの表情に戻っていた。


「タクト、クンゼは新しい家で一緒に暮らすから連れて行くぞ!」

「そうだな、俺達の恩人だからな」


 クンゼを大事そうに脇に抱えた。

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