280話 自重!
「本当にすまなかった」
皆と別れると俺とマリーは、ジークにある俺の部屋に戻って、俺はマリーに何度も謝罪をする。
「もういいわよ。私もよく分からずにミラ様に返答したのも悪かったから」
「そうか、マリーならミラ達にやんわりと断ってくれると思っていたんだけどな」
「普段から色々な人達を相手にしているので、私達より上手なのかもね」
「成程ね、そういう考えも出来るな」
久しぶりにマリーと二人っきりなったが、改めて話す事も無いので他愛もない会話をしていると、マリーが真剣な顔で商人ギルドの試験を受けると言ってきた。
「強制的みたいで悪いな」
「いいのよ、タクトが私達の事を真剣に考えてくれている事は分かっていたし、タクトが居なくなって従業員を路頭に迷わせるわけには、いかないからね」
「マリーの負担が大きくなってしまって、本当に悪いな」
「死ぬ寸前の私を救ってくれて、しかも何も出来なかった私を拾ってくれて仕事まで与えてくれたのはタクトなんだから、感謝してるわよ」
「マリーもフランのように、やりたい事があるなら言ってくれよ」
「そうね、やっぱり血なのか商売は楽しいわね。ただ、やりたい商売と言われたら難しいわ。リベラも仕事に慣れたようだし、開店当時に比べれば楽に仕事が出来ているから、任せても良いと言われれば、そう思うわね」
「そうか、それなら一度リベラに任せてみて、やりたい事でも真剣に考えてみるか?」
「それもいいわね。少し考えておくわ」
「人生一度きりなんだから、好きなように生きるのが一番だぞ!」
「そうだけど、タクトはもう少し自重した方がいいわよ」
「……はい」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆
マリーと別れて王都の城に戻る。
シキブは外出が出来ないので、暇そうにしている。
「タクトは、自由に外出出来ていいわね」
「暇なら、ジークに送るからイリアの手伝いでもするか?」
「えっ! いや、ちょっとそれは……」
目線を逸らして、そのままどこかに行ってしまった。
ムラサキとトグルは、ソディック達王国騎士団と手合わせをしていたが、ムラサキは楽しそうに相手をしていた。
トグルはソディックと手合わせしていたが、押され気味だ。
経験の差が出ているというか、トグルが慎重になりすぎて攻め切れていない印象だ。
お互い力で押すタイプでなく手数で勝負するタイプなので、ソディックの上手さが良く分かる。
トグルも悔しいだろうが、騎士達との手合わせで何かを掴めたら、一気に成長するのかも知れない。
「タクト殿も手合わせしてみたら如何ですか?」
ターセルが横に来て話しかけるので「俺はいい」と断る。
少し遅れてロキも歩いてきたので、人体実験場の事を詳しく聞く。
ロキの部下が今も監視しているが、人の出入りや目立った動きはないらしい。
只、時折施設の中から大きな音が何度もするのは確認出来ている。
俺達が、人体実験場と呼んでいる施設は、捕らえた者から正確には『生体実験施設』と呼ばれているそうだ。
「そうか、動きがないなら今が狙い時だな」
「確かにそうだな。明日にでも行くのか?」
「いや、今から行く。本当ならもっと早く行きたかったからな」
「それは又、急だな。それより本当にひとりで行くのか?」
「ひとりじゃない。仲間と三人だから問題ない」
「そうか、従者が二匹居たな」
ロキとターセルから、施設内の状況や生きている者は出来る限り保護するように言われるが、それを俺達三人で実行するには流石に無理だろう。
かと言って、他の者を連れて行くのは俺の攻撃に巻き添えになる可能性もある。
マリーに言われた自重についても、最初は覚えているがそのうち忘れてしまいそうだ。
そもそも俺がルーカスから言われたのは、人体実験場の討伐というか壊滅だ。
当然、被験者を救う事は決めていたが、施設内の状況の報告は正直出来るか自信が無い。
「シロ殿か、クロ殿に写真を撮って貰う程度で結構です」
ターセルが助言をくれた。
確かに、写真を撮っておけば後で何か思い出す事も可能だ。
ターセルに礼を言う。
「人手が足りないなら、監視している部下を使ってもいいぞ」
「それは有難いが、外部からの動きがある可能性があるのでそのまま待機していて欲しい」
「分かった。何か動きがあれば知らせるので、仲間登録してもらってもいいか?」
「そうだな」
ロキからの申し出は有難かったが、二次被害も考えられたので断り、仲間登録をした。
ついでにターセルも仲間登録したいと言うので、仲間登録する。
ターセル達からルーカスに生体実験施設に行く事を伝えて貰うことにして、生体実験施設のある場所に出発する。




