269話 葛藤!
王都に着くと、アルとネロに礼を言って戻ってもらう。
ルーカス達は興奮が冷めないのか、部屋で呑み直すと言っている。
「ところで、気になっていたのだがお主は、ダウザー達を呼び捨てにしておるの?」
「兄上、それは俺達からタクトに頼んだ事だ。 友として対等な立場という証みたいなものだ」
「えぇ、そうですよ。 四葉商会の皆さん共たまに御話ししますわ」
確かに、国王からしたら貴族が冒険者から呼び捨てにされて、怒らないのが不思議だったのだろう。
それよりも、ミラは誰と話をしているんだ?
マリーやフランだったら、文句のひとつでも言ってくると思うので、残るはユイとリベラだが、二択なら服の話をするユイになる。
「ユイと服の相談か?」
「えぇ、早くユイちゃんのデザインを見たいのに、悲しいですわ」
やはり、そうか。
しかし、ミラの服は決まっていたと思っていたが、変更をしているのか?
正式発注はしていないので、問題は無いが要望ばかり聞いていると、切りが無い。
妥協点を見つけるように、ミラとユイに話をしてみることにする。
ルーカス達は話の内容が分かっていないので、ダウザーが説明をしていた。
既に、四葉商会で服を調達している事は、新聞の記事で知っている。
それに、ターセルの服の件でアラクネ族との交流もバレている。
「余もターセルのような服が欲しいぞ!」
「国王でも駄目だ。 今は予約や急いでいる物もあるので、そんなに生産は出来ない」
実際は、生産については問題無いと思うが、俺が行ったり来たりするのが面倒だ。
それに、デザイン込みなのでユイへの負担が大きすぎる。
「……仕方ない。 生産出来るようになったら、その時頼むとしよう」
「デザイン込みだから、忘れるなよ」
渋々、納得した様子だ。
まぁ、いずれは作ってもいいと思っているので、時期次第だ。
「ミラも今度、ユイと会わせてやるから、その時に全部決めてくれよ」
「はい、分かりましたわ」
「私も、呼び捨てで構いませんわ!」
突然、ユキノが会話に入ってきた。
……何が起こった?
「俺が、丁寧語が離せないのもあるが、国王や領主と言った言葉での対応は可能だから、王女という言葉は話せるから大丈夫だぞ?」
「私も、呼び捨てが良いですわ!」
……俺の話を聞いていたのか?
「タクトよ、ユキノへの呼び捨ては余が許す。 配下の者にも伝えておくから罰則は無いから安心しろ。 まぁ、お主に武力行使は意味ないがな……」
「御父様、ありがとうございます!」
「ちょっと待てって、それは駄目だろ!」
何を勝手に話を進めているんだ?
普通に考えて、冒険者が一国の王女を呼び捨てにしていいわけが無いだろう。
常識が無いと、散々言われていた俺でも、それくらいの常識は持ち合わせている。
そもそも、俺が常識が無いと言われていたのも、この世界の常識が分らなかっただけだ。
「タクトには【呪詛:言語制限】があるだろう。 ユキノも含めて子供達は、呼び捨てで構わない。 アスランもヤヨイも構わぬな」
アスランとヤヨイが頷く。
「その代わり、俺も呼び捨てにするのが条件だからな」
「えっ! そんなタクト様を呼び捨てだなんて出来ませんわ」
「それが、出来ないなら俺も呼び捨てはしない。 今迄通り『王女』と呼ぶ」
ユキノの体が小刻みに震えている。 自分の中で葛藤しているのだろう。
「タクトよ、国王でなくユキノの親として、せめてユキノだけでも好きな呼び方で、呼ばさせてやってくれないか?」
親という言葉をだして、情に訴えかける卑怯な手を使ってくるのか?
「タクト殿、私からも御願い致します」
イースまで頭を下げて、頼んでいる。
一体、何なんだ?
もしかして、ユキノは俺の予想通り不思議なお馬鹿な子で、馬鹿な子程可愛いという奴か?
アスランや、ヤヨイからも御願いをされる。
王家全員に頭を下げられて断ったら、完全に俺が悪者じゃないか!
権力に屈するのは癪だが、親子愛や兄弟愛に負けたと自分に言い聞かせて、無理矢理納得してみる。
「……分かった。 特別だぞ」
「タクト様、ありがとうございます」
泣きながら礼を言ってくる。
この状況に、ひとりだけ場違いなロイドが、あまりにも可愛そうな事に気付く。
こんな茶番に付き合わせてしまい、本当に申し訳ないと思った。
俺はユキノに、ロイドと共に厨房に案内して欲しいと伝えると、「喜んで!」と嬉しそうに案内してくれた。
シロとクロも人の姿に変化して、同行してもらう。




