266話 王家専属料理人!
ユキノの案内で、王都にある王家専属厨房に入る。
料理長の『ビアーノ』を紹介してもらう。
「ユキノ様の頼みですので断りは致しませんが、何を所望されますか?」
「塩と、卵それに醤油や出汁が取れる物はあるか?」
通じるか分らないが、とりあえず欲しいものを伝える。
「塩は問題ありませんが、卵は貴重品なので数に限りがあります。それに醤油や出汁とは何でしょうか?」
やはり、通じなかったか……。
お互いが共通する言葉なら【言語解読】が自動的に翻訳してくれるのだろうか?
スキルの不具合なので、料理が終わったら中級神のモクレンに聞いてみる事にする。
「卵は、鶏の卵だよな?」
「はい、そうです」
「他の卵と交換でもいいか?」
「他の卵と申しますと?」
俺は【アイテムボックス】から、『コカトリスの卵』をひとつ取り出す。
「こ、これはもしかして!」
「コカトリスの卵だ!」
「やはり、幻の卵でしたか」
ビアーノは興奮気味に、コカトリスの卵を触っている。
「これひとつで、鶏の卵幾つくらいと、交換出来る?」
「……正直、この卵と同等と言われると、何百個あっても足りません」
「そうか、じゃあ、とりあえず百個と交換してくれ」
「たった、百個でいいのですか?」
「あぁ、ただ今晩のメニューに影響が出るなら、用意出来る数でいい」
無理強いするのはよくないし、料理長も試行錯誤でメニューを決めている可能性もある。
「それなら問題ありませんわ。今晩の食事は無しで結構です」
「えっ、何か粗相致しましたでしょうか」
ビアーノは、気に入らない料理を出したのかと思い、慌てている。
「いえいえ、料理長にはいつも美味しい料理を作って貰い、感謝致しております」
「では、何故!」
「こちらのタクト様が、今迄食べた事のない料理を食べさせて頂けると言って頂いたからです」
一気に、ハードルが上がるな。
俺が作ろうとしていたのは、ポテトチップスにポテトサラダ、それにおでんだからな……。
バターがあれば、じゃがバターもシンプルで美味しい。
パンを作るのであれば、卵やバターが必要だと思っていたが、違うようだ。
「……そんな料理が作れるのですか?」
「王家の口にはあわないかも知れないと思うぞ、世間一般的な庶民の味だ。それよりも、厨房の中に入ってもいいか?」
「はい。所望の物があれば、御申し付け下さい」
「分かった。助かる」
厨房には、数人の料理人が色々と料理の下処理をしている。
前世でのバイト風景と重なり、懐かしく思えた。
とりあえず、先に鶏の卵百個と塩を【アイテムボックス】に仕舞う。
スープやソースを幾つか味見させてもらう。
鶏ガラスープらしき物を発見したので、調理鍋全部欲しいと言うと、あっさりと了承してくれた。
その後、醤油は見つからなかったが、酢を発見した。
卵に酢、そして油と言えば『マヨネーズ』が作れる。試す価値はある。
「ここでソースを作ってもいいか?」
「構いませんが、何を用意すればいいでしょうか?」
「これだけでいい。あとは掻き混ぜる道具を用意してくれ」
「分かりました」
まず卵を割り、卵黄と卵白に分ける。
卵黄に塩を振り、酢を加えて少しづつ油を足して攪拌していく。
ハンドミキサーが無くても、身体能力が高いので問題ない。
あっと言う間に、マヨネーズが完成した。味見をするが前世の物よりクドイ。
だが、合格点には達しているだろう。
卵白が余っている事に気が付いたので、ついでにメレンゲを作る事にする。
ビアーノには追加で、砂糖を貰った。
「完成だ!」
ユキノとビアーノに試食してもらう。
ふたりとも感激している。その姿を遠くから料理人達が見ていたので、試食するように言うと集まって来た。
主食材は無いが、食べ物で笑顔になるのを見るのは嬉しい。
「ん~、フワフワして雲を食べているようです!」
料理人のひとりが、メレンゲを食べながら感想を言っていた。
本当なら、この状態で完成ではなくケーキに入れたり、焼いたりと次の工程がある。
オーブンなんて気の利いた文明品が無いので、これ以上は難しいかもしれない。
しかし、雲のような食べ物と言えば『綿菓子』だが、粗目や製造機が無いと、綿菓子は作れない。
俺の知識と【全知全能】、そしてドワーフの技術力があれば、オーブンと違い製作は可能だと思う?
今後の課題としておこう。
「タクト様、御願いが御座います」
「ん、なんだ? 俺で出来る事ならいいぞ」
「この料理の詳しい調理方法を御教え頂きたい。それと今後、調理する許可も頂きたい」
「別に構わないぞ」
全員に筆記用具を用意させて、メモを取らせる。
俺は、何回もマヨネーズとメレンゲを作り、余っていた瓶に出来た物を詰めていった。
「マヨネーズはどんな料理にも合うと思う。それにメレンゲは、他の物に入れると味がまろやかになると思うから、色々と試してみれくれ」
俺の言葉にもメモを取っていた。勉強熱心だ。
「今度、御前達の料理でも食べさしてくれ!」
「国王様も許可があれば、いつでも御作り致します」
「そうだな、国王の為の厨房だもんな」
俺と料理人達は笑う。
何かをやり遂げた同士のようだ。
「それなら、いつでも食べれますわ」
ユキノだけが、場の空気を読めていない。
何故、俺が王家の食事をいつでも食べる事が出来ると思っているのか、不思議だ。
そんなユキノを無視して、厨房を見て回ると『胡椒』がある!
「これ、胡椒だよな!」
「よくご存じですね。まだ市場にそれ程、流通はしていない筈ですが?」
「これは貴重品なのか?」
「はい、まだ少量しか手に入れておりません」
「そうか、そういう事なら貰う訳にはいかんな」
「いかほど、必要ですか?」
「いや、今回は必ず必要という訳ではないから大丈夫だ」
俺の道楽料理に、そんな貴重な物を使う必要はない。
その後、必要な調味料や食材を貰い、ビアーノ達料理人に礼を言う。
ゴンド村で作った物を少しだけ、味見してもらおうとも思った。




