252話 オーク達の戦力!
朝早く、『オークロード討伐』に出発した。
本当ならば、民衆に見送られて派手に王都を出るのが、普通らしい。
だが、少数精鋭で倒したとなれば、先の討伐で失敗をした騎士団や冒険者達の体面を考えて、俺は静かに王都を出る提案をしていた。 ソディックやジラールには、感謝された。
王都に住んでいる者達は、詳しい状況を知らないので俺達が出て行った事や、ソディックが怪我をして戻って来た事まではしらないだろう。
結果だけ知れれば、過程などは関係無いのだと思う。
出発前に俺の顔を見るなり、シキブが文句を言って来た。
俺が昨晩、【交信】に出なかった事に対してだろう。
昨晩、俺が視察をしていた頃、シキブとジラール、ソディックの三人は国王であるルーカスから突然、呼ばれたそうだ。
シキブは、俺がまた問題を起こしたと思い、他のふたりに俺の愚痴をこぼしていたそうだ。
用件はアスランの事で、礼を言う為に俺を探したが見つからず、護衛三人衆も「気付いたら居なかった」と惚けていたらしい。
ソディックは王国騎士団団長として、アスランの【呪詛】については知っていた。
ジラールも、内々に【呪詛】を解除出来る方法を調べるように依頼を受けていたので、ふたりともアスランが意識を取り戻したことに喜んでいた。
ルーカスよりも、王妃であるイースの方が、必死に俺を探していたそうだ。
イースが俺と連絡を取りたいというので、三人を呼んだそうだが俺と連絡が取れるのは、その三人ではシキブだけだった。
しかし、シキブからの【交信】を無視したので、イースは落胆したそうだ。
「それは、悪かったな。 俺も色々と忙しかったんでな」
「……確信犯でしょう!」
「たまたま、手が離せなかっただけだ」
「毎回毎回、問題ばかり起こして……」
「そうか、今回は問題を起こしていないぞ?」
アスランを目覚めさせただけだし、問題行動はしていない筈だ。
「確かにそうだけど、勝手に居なくなったらしいから、大変だったみたいよ」
「俺的に気を使ったつもりだけなんだがな」
シキブとのやりとりを、少し離れて見ていたソディックが近づいてきて、アスランの事で礼を言われた。
「俺が出来る事を勝手にしただけだ。 気にしなくていいぞ」
ソディックは、なんて答えていいのか分からないのか、困った顔をしていた。
昨夜は、国王達と話してばかりで、シキブやソディックとは話が出来ていなかったので、言いたい事があったのは理解出来る。
シキブからの連絡に出なかったことで、余計に面倒臭い事になっているのも事実だ……
「それじゃあ、行くから集まれよ」
「……集まるって、もしかして場所、分かっているの?」
「勿論だ。 昨夜、下見してきた」
シキブが眉間にしわを寄せて俺を見る。
「……それが私の連絡に出れない理由だった」
「そうだ。 色々と手が離せなかったんだ」
とても、「文句を言われる気がしたから出なかった」なんて事は、言えない。
文句を言いながらシキブが、俺の周りによって来る。
ムラサキ達も集まって来る。
「申し訳ないのですが、集まって何をされるのですか?」
ソディックは、不思議な顔をする。
そういえば、ソディックはこの中で唯一、俺のスキルを知らない。
完全にいつもの調子でいたので、忘れていた。
「そうだな、とりあえずこっちに来れば分かる」
不思議な顔をしたまま、俺に言われた通り寄って来る。
「じゃあ、行くぞ!」
オーク達を監視していた騎士団の拠点近くまで【転移】する。
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ソディックは、何が起こったか分らない様子でいる。
転移魔法を使って、オークの動向を監視している騎士団の拠点近くに来た事を説明する。
「……転移魔法ですか。 噂でしか聞いた事の無い伝説級の魔法ですよね。 まさか、自分が体験出来るとは思いませんでした」
「そうか、良かったな」
軽めの返事をして、騎士団の拠点を指す。
「あそこによって、最新情報を集めた方がいいよな」
「そうですね、あそこには副団長のパクとチョーヨンが、怪我をした私の代わりに指揮を執って貰っています」
パクとチョーヨンだと! ゾリアスを陥れた奴達か!
副隊長まで出世しているとはな。 俺的には『オークロード討伐』より先に、コイツ等を成敗したい。
しかし、罪は大人数の前で暴かないと、意味は無い。 殺すのは簡単だから……
「ソディックも強いのに、あれほどの大怪我を負ったけど、副隊長達は大丈夫なの?」
「はい、私と違って大した怪我も負っていないですね。 本当に自分が情けないです」
シキブが気を使いながら、質問をするが……怪しくないか?
隊長が前線に出て戦闘を行うのであれば、副隊長の一人は隊長の護衛にあたるのが普通だと思う。
大規模討伐になると、戦闘スタイルが異なるとはいえ、副隊長二人がほぼ無傷というのは違和感がある。
ソディックに覚えている範囲でいいので、怪我した状況を教えてくれるように頼む。
自慢出来ることでは無いので、話す事を躊躇うが討伐の参考にしたいというと「分かりました」と話してくれた。
道幅が狭い為、大人数での戦闘が難しい場所だ。
前線で戦闘を行う騎士達を交代させて、効率よく戦闘を行っていた。
徐々にではあるが、オーク達の攻撃を押しかえしていくと、奥から二回り大きいオークが出現する。
その姿を確認すると、副隊長のチョーヨンが先頭になり、オーク達をかき分け道を作った。
オーク達も、少し退却をしているようで優勢になったと判断したソディックは、騎士達をチョーヨンの所に増援した。
しかし、その後再びオーク達に囲まれ、チョーヨン達が劣勢になりソディック自身が乗り込んで、オーク達を討伐していった。
ソディックが駆け付けた事により、チョーヨンは無事本隊まで戻ることが出来たが、その後上空より魔法のような攻撃を受けて、周囲のオークと共に大きな負傷を負う。
負傷しながらも、部下達を退却させる為、自らが盾となっていたが、背後からの攻撃により意識を失い気が付いたら、王都のベッドの上だったそうだ。
状況的に怪しい所満載だ。
ソディックが駆け付け、チョーヨンが居なくなってからの広範囲の魔法攻撃、それに背後からの攻撃。
そもそも、オークに魔法を使う事は出来ない。 別の種族が協力していれば別だが考えにくい。
そして、部下を逃がす為に盾となっているのに、背後からの攻撃。
ソディックを殺そうとしていたと考えるのが普通だと思う。
本当に、この世界の住人は人を疑う事を、知らなすぎる気がする。
「ありがとう。 オークの中にも魔法攻撃する者がいるという事だな」
「そうだと思いますが、詳細までは……」
「とりあえず、拠点まで行って詳しいことを聞いて作戦を考える」
ソディックを先頭に、騎士団の拠点まで移動する。




