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243話 王国騎士団団長!

 待たされていた衛兵に「あまり勝手に動き回らないように!」と注意を受ける。

 衛兵も仕事なので、素直に謝っておく。


 本来、案内される筈だったソディックの部屋まで案内される。

 部屋の前には、王国騎士団団長を警護する為に、扉の両側に衛兵が立っていた。


「冒険者ギルドのジラールだ。ソディック殿に面会を希望したいが、容態はどうだ?」

「これはジラール殿、御待ちしておりました。ただ、起き上がるのは難しいですが、宜しいでしょうか?」

「それは構わないので頼む」


 衛兵達は顔を見合わせると頷き、扉を開けてくれた。


 部屋の中には、一人の人間族の青年がベッドに横たわっていた。

 俺達が歩いていくと、音で気付いたのか顔をこちらに向けて起き上がろうとする。


「ソディック殿、そのままで結構です」


 無理に起き上がらせるのを止めさせて、俺達を紹介する。


「同行出来るように、国王様に願い出たが情けない事に未だこの状態だ……とても同行出来そうにない。私の分まで、部下の無念を晴らして欲しい」


 ソディックは、本当に無念そうに俺達に託そうとしている。

 ジラールとヘレンは、悔しそうな表情のソディックに同情しているのか、表情が暗い。


「討伐に行きたいのか?」


 俺はお構い無しに、ソディックの意思を確認する。


「……行けるのであれば、勿論だ」

「分かった。その言葉を信用しよう」


 騎士達の時と同様に、ソディックの胸に手をやり【治療】と【回復】を同時に掛ける。


「これで、討伐に行けるぞ」


 ソディックは勿論、ジラールとヘレンは何が起きたか分かっていない。

 しかし、ソディックが身体の異変に気が付き、起き上がる。


「……どこも痛くない」

「そらそうだろう、治療したからな」


 ジラールはシキブの方を向き「何が起こった!」と質問をしているのが聞こえたので、【治療】と【回復】を掛けたと答えた。


「いやいや、詠唱もしていないし、仮に無詠唱だとしても魔法名も言っていないだろう!」

「俺は念じれば、魔法を発動出来るんだ」

「そんなの聞いたこと無いぞ!」


 ジラールは驚きを隠せない様子だ。

 ヘレンに至っては、考える処理が停止したのか完全に動かない。


 ソディックは、ベッドを降りて立ち上がる。


「タクト殿、有難う御座います」


 素直に俺に礼を言う。


「気にするな。それと先程、怪我した騎士達も治療しておいたから、後で元気な顔を見せて安心させてやれ」

「そんな部下の騎士達にまで……有難う御座います」


 ソディックは、若干涙目になっている。

 俺の勝手なイメージだが、騎士団長と言うと屈強な体型の強面を想像していた。

 ソディックは、どちらかといえば真逆な感じを受ける。

 しかし、騎士団長を名乗るだけあって、相当な強さの持ち主なのだろう。


 扉を叩く音がして、扉の外から衛兵が「ヤヨイ様が御面会に来られております」と伝えてきた。

 多分、先に面会している俺達に向かって、衛兵は発した言葉なのだろうが、


「入って貰ってくれ」


 ソディックが答える。ソディックの声が聞こえた事に驚いたのか、扉の外で騒いでいる声が部屋の中まで聞こえてくる。

 暫くして扉が開くと、先程まで一緒にいたヤヨイが入ってきた。

 服装は違うがヤヨイなのは間違いない。


「……ソディック様」


 元気そうに立っているソディックを見たヤヨイは、目から大粒の涙を流している。


「……ヤヨイ様」


 そう名を呼ぶと、一礼をする。

 同じ様にジラールやヘレン達も一礼をした。

 シロとクロは空気を察したのか、同じ様に礼をしていた。

 頭を下げていないのは、俺だけだ……ヤヨイは偉い人なのか?

 そんな疑問を抱いていると、ヤヨイが「頭を上げてください」と言う。


 シキブに、ヤヨイの素性を聞く。


「……タクト、相変わらず常識が無いわね。エルドラード王国第二王女のヤヨイ様よ」

「はっ? さっきまで廊下を走って、騎士の手当てをしていたぞ」

「何言っているのよ! ヤヨイ様がそんな事しているわけないでしょう!」


 いやいや、俺の勘違いの訳無いだろう。

 俺とシキブの会話を聞いていたヤヨイが、


「タクト様の仰られる通り、先程まで騎士達の手当てをしておりました」

「それみろ! 嘘じゃないだろう」

「王女とはいえ国の為に戦ってくれた者達に何も出来ないので、出来る事をしておりました。タクト様、先程は怪我人全員を治療して頂き有難う御座いました。この国の王女として、改めて御礼を申します」

「気にするな! ユキノにも気にするなと言っておいてくれ」


 俺が言い終わると同時、いやその前にシキブとジラール、ヘレンから鉄拳を食らわされた。

 特にダメージはないが……。


「丁寧語が喋れないから、仕方ないだろう」

「ゴメンなさい、知っていたけど反射的に身体が動いてしまったわ……ところでユキノ様にも御会いしたの?」

「あぁ、治療中にな。治療士の責任者だろう?」


 皆の目から『常識無いビーム』が出ている気がする。


「ユキノ御姉様は、治療士の責任者ではありませんが、誰を呼んでいいのか分からなかったので、とりあえず御呼びしただけです」


 話の流れだと、第一王女と言う事になるな。

 偶然にしては良く出来ている。なにか意図的なものを感じるのは、俺の気のせいか?


「ヤヨイ様。先程、騎士団全員治療したと御聞き致しましたが、私の聞き間違いでしたでしょうか?」


 ヘレンがヤヨイに、先程の会話の内容について問いかけた。


「はい。 治療士で間に合わなかったので、タクト様とシロ様で、三百人以上の怪我人を全て治療して頂き、本当に感謝しております」


 ヘレンは絶句していた。


「……本当でしたのね」

「当たり前だろう」


 笑って答えるが、ヘレンには嫌味だと捉えられたかもしれない。


「ソディック様を治療頂いたのも、タクト様でしょうか?」


 俺に聞くが、俺が答えるより先にソディックが答える。


「はい、タクト殿のお陰で討伐に参加する事も可能です」

「……又、討伐に行かれるのですね」

「はい、それが国を守る騎士の務めですので……」


 これは、両思いの雰囲気だな……これで、ソディックが死んだら目覚めが悪いな。


「ソディック! 死にそうになったら、撤退するから覚えておけよ」

「……はい、今回はパーティーになるので、リーダーの指示には従います」

「えっ! リーダー?」

「違うのですか? 国王様からは少数精鋭になるので、タクト様のパーティーのみでの討伐と聞いております」

「シキブ達が呼ばれたんだから、リーダーはシキブじゃないのか?」


 シキブを睨んで叫ぶ。


「あのね、呼ばれたのはタクトがメインで、補佐的に私とムラサキって感じなのよね……」

「そんな風に、話していなかったよな」

「そうだったかしら?」


 惚けているが、冷静に考えれば今更何を言っても、この状況は変わらない。 

 大きく溜息をつき、現状を受け入れる事にした。 

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