239話 共通クエストの報告!
「それで報告の件だが……」
ジラールは、シキブから報告を受けながらも時折、目線だけを俺に向けている。
シキブが一通りの報告を終える。
「信じられん。 シキブ達が嘘を言うとも思えんし……」
「タクトはランクこそBだけど、ランクSS以上の実力はあると思うわよ」
「ランクSSだと!」
「レベルも私より上だし、魔獣というか聖獣の仲間もいるからね」
シキブは言い終わると、俺の顔を見る。 俺が睨んでいるのが分かると、笑って誤魔化した。
シロとクロの件は良いとして、レベルの件は口外しないと約束したはずだよな……
この流れだと、ステータス見せる毎度のパターンになる気がする。
「シキブよりレベルが高いだと! そうするとギルマスの件は……」
「面倒だからって、断られたわ」
ジラールが全てを言い終わる前に、シキブが断られた事を伝える。
ジラールは驚いていたが、隣のヘレンは「この人は馬鹿なのか?」という冷ややかな目で俺を見ていた。
「……まぁ、お互い納得していればギルド本部としては、問題無い」
ジラールは腑に落ちない様子だ。
以前にシキブから、ギルマスになりたい冒険者は大勢いると教えて貰った事もあるのでランクBとはいえ、俺が断る事が不思議だったのかも知れない。
「それと魔獣か聖獣を従えている話だが、それらも強いのか?」
「強いぞ! 驚くレベルだ」
ムラサキが嬉しそうに話す。
俺的にはムラサキが話し始めると、秘密を話す危険があるので気が気でない。
「外に居るのなら、今から確認をしてもいいか?」
「その必要は無いな! どこでも呼べる凄い聖獣達だから」
俺が答えるより先に、ムラサキが答える。
意図的に、俺に喋らせないようにしているのか?
「達って複数居るという事か?」
「可愛らしいのが二匹だ。 この部屋に呼べる大きさだ」
「部屋に呼べるだと? ヘレン、窓を開けてくれ」
又しても俺より先に、ムラサキが答えた。
ジラールは、外から呼ぶものだと思ったのか、ヘレンに窓を開けるように指示をする。
「その必要な無いわ。 ジラールとヘレンも驚く準備だけはしておいた方がいいわよ」
今度はシキブが、窓を開ける必要が無い事と、驚く事を前提に話す。
「よく分からんが、シキブ達を信用するので呼んでくれるか?」
俺は立ち上がりシロとクロを呼ぶ。
いつも通り、シロは俺の頭上から出現するので左腕で抱きかかえる。
クロは影から現れると、羽根を広げて飛ぶと俺の右肩に止まった。
ジラールとヘレンは、何が起きたのか分からず呆然と俺を見ている。
「だから、驚くから準備しておくように言ったでしょ」
シキブが、大きなため息をついた。
「いや、そのだな……まさかとは思うが」
「えぇ、エターナルキャットとパーガトリークロウよ」
「……嘘だろう」
ジラールとヘレンは信じられない顔だ。
「だから、聖獣とも言っただろう」
「確かにそう聞いたが、正直信じていなかった」
立っていると下からの視線が気になったので、何も言わずに座る。
座ると同時に、ジラールとヘレンの目線も下がる。
「その魔獣いや、聖獣は暴れたりしないのか?」
俺がシロ達を完全に従えているかが、不安な様子だ。
確かに、伝説とも噂される魔獣に暴れられたら大変だろう。
「シロにクロ、ふたりに挨拶してくれ」
不安を取り除く為、ジラールとヘレンに挨拶をさせる。
「タクト様に仕えさせて頂いております、エターナルキャットのシロと申します。 今後とも宜しく御願い致します」
「同じくパーガトリークロウのクロと申します」
シロとクロが喋った事に、ジラールとヘレンは驚いていた。
「安全なのは、私達も保証するわ」
「おぉ、そうだぞ。 タクトの方が危険だからな」
ムラサキの言葉で、シキブとトグルが笑う。
「悪いが、状況を整理させてくれ」
「いいわよ。 私達も最初は同じ反応だったから」
確かにこの状況は、シキブ達と初めて会った状況に似ている。
今回は、シキブ達が同席しているから信用度も増しているのが救いだ。
「タクトの職業は何だ? 服装から見て魔導士か、それとも武闘家か?」
「無職だ!」
胸を張って答えると、ジラールとヘレンは「はっ?」と不思議な顔をする。
「ふざけている場合じゃないです。 正直に答えて頂けますか!」
「嘘に聞こえるけど、本当の事なのよ」
ヘレンが、俺の発言は嘘と確定して怒った口調で正直に話すように言ってくる。
しかし、シキブが俺の無職発言が本当だと助言してくれた。
「しかし、普通に考えてですね、無職なんてありえません。 たとえ無職だとしても無職の冒険者がこれだけの功績を挙げる事は考えられません」
「その気持ちは分かるけど、タクトは普通じゃないのよ」
「そうだな、タクトに常識は通じないからな」
シキブとムラサキの言葉でも、ジラールとヘレンは信じられない様子だ。
「ステータスの開示は出来るか?」
ジラールは真剣な顔で、俺に聞いてきた。
当然そうなるだろう。 ここで拒否出来るならするが、拒否した事で俺への不信感がより大きくなるのは確かだろう。
「誰にも口外しないと約束してくれるのなら、開示してもいい」
お決まりの台詞を、ジラールとヘレンに言う。
当然だが、ふたり共約束してくれたので、ステータスを開示する。
いつも通り、シキブ達もステータスを覗き込んでいる。
「タクト、又レベル上がっているわね」
「スレイプニルを討伐したからな」
シキブ以外は一言も喋らずに俺のステータスを見続けている。
「……レベル八六って、本当にランクSSに匹敵するな。 俺よりもレベルが上だ」
「それに、この異常なまでのユニークスキルの多さ。 どれも強力なスキルばかりです」
暫くしてジラールと、ヘレンが口を開く。
「これで嘘をついていないと、分かってくれたか」
「そうだな、疑ってすまなかった。 それと、ステータス開示してくれて感謝する」
「いつもの事だから気にするな」
俺の言葉が嘘では無いと確認出来たみたいなので、すぐにステータスを閉じた。
ジラールは、もう少し見ていたい様子だった。
「このステータスで、ランクBなのは筆記試験が受からないからなのか?」
ジラールは、完全に俺が筆記試験で落ちた前提で話をする。
「タクトは冒険者になって間もないのよ。 最初の登録した日に昇級試験も同時に受けて、ランクBになったのよ。 報告書は書いたはずだけど?」
「そうだったか? そうなら印象に残っているはずだが……あとで確認してみる」
報告書提出を断言したシキブだが、何かを思い出したようだ。
俺の予想では報告書は提出しておらず、今頃イリアが一生懸命に事務処理をしている書類に紛れているのだろう。
「俺は一刻も早くランクを上げたい。 王都に来たついでに、次の昇級試験を受けるつもりでいる」
イリアから以前に聞いた情報だと、王都の昇級試験日は、もうすぐだ。
「確かに試験日は、もうすぐだ。 しかし、御前達は『オークロード』の討伐に行くんだろう?」
「そうだが、昇級試験と関係あるのか?」
「普通に考えて、討伐に旅立ったら昇級試験日には、王都に居ないだろう?」
俺が問題無い事を言おうとすると、横からシキブが、
「そうね、普通に考えて無理よね。 普通に考えればね。 それ位は、タクトにも分かるわよね」
あくまで普通の冒険者だという事を釘を刺そうとしているが、先程ステータス開示したので、ユニークスキル【転移】は、ジラール達に知られている。
シキブは毎回勝手に問題を起きてします俺を、事前に防止しようとしているのだろうか?
「試験日に王都に居るようであれば、昇級試験を受けるから宜しく頼む」
「それは別に構わないが……」
ランクを上げないと、クエストにも制限が掛かっているので、早めに昇級したい。
「一番レベルの高い奴が、ギルマスになるって話だが、それだとランクSSとかの冒険者達は皆、ギルマスになるんじゃないか?」
昇級試験の話が出たので、ついでに疑問に感じた事をジラールに質問する。
「その通りだが、レベルの高い冒険者の殆どが貴族に雇われたり、国から指名クエストがあったりと、冒険者以外のギルド内業務が難しい。 それになかには、変わり者もいる。 一応、俺は国王様から直々に指名を頂いたので、仕方なくやっている訳だ」
国王から指名を受けるという事は、それなりに信頼がある冒険者という事になる。
「国王から直々とは凄いな!」
「まぁ、俺の場合は色々とな……」
なにやら訳ありなのか?
こういった場合は、突っ込んで聞くと問題事に巻き込まれるから、話を流す。
ヘレンは疑っているわけでは無いが、ギルド本部として討伐の確認をしたいので、報告にあった『スレイプニル』や『サイクロプス』それに、『コカトリス』の核の見せてくれないかと頼まれる。
断る理由も無いので【アイテムボックス】から、それぞれの核を出してテーブルの上に置いていく。
ヘレンは鑑定士を呼び、置かれた核を鑑定させる。
共通クエストなので、間違いがあると影響が大きいのだろう。 慎重になっているのが分かる。
鑑定の結果は、当然『本物』だ。
ヘレンが合図をすると扉が開き、受付嬢が入ってきて核の横に布袋を置いて退室していった。
「今回のクエストに対する報酬になります」
そういえば、報告しただけで報酬貰っていなかったな……
報酬の入っている布袋と、核を【アイテムボックス】に放り込む。
「……中身は確認しないのですか?」
「ん? 中身が違うのか?」
「いいえ、正当な報酬になります。 間違いはありません」
「それなら、問題ないだろう。 そもそもクエスト報酬なんて覚えてない」
俺の言葉にヘレンは勿論だが、ジラールも呆れた顔をしている。
シキブ達は、いつもの事だと特に気にする様子も無い。
「……疑う事を知らないのですか?」
「勿論、知っているぞ。 只、俺は騙されたら、それ以上の報復は必ずする。 それが誰であろうと必ずだ!」
若干、脅迫気味に応える。
「確かに、タクトを敵に回すのはお勧めしないわよ」
「そうだな、実力以上に恐ろしいからな」
「むかつく奴だが、コイツを騙す奴が悪い」
フォローしてくれるのかと思ったが、違うようだ……
「しかし【アイテムボックス】のスキルは、凄いな!」
「そうよ。 荷物運びにタクトは、最適よ」
シキブは俺をそんな扱いでいたのか?
しかし、最初の頃は必至で隠そうとしていたユニークスキルだが、最近はステータスを見られてしまうと、どうでもいいような感じになってしまう。




