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230話 小さな里の暴君!

 シキブ達の所に戻ると、ライラとラウ爺、それに見知らぬ狐人の男性が居た。

 狐人は名を『レクタル』、この里の頭首だと名乗った。


「先程は、大変失礼致しました」


 頭を下げる。

 同じように、ライラとラウ爺も頭を下げた。


「ライラから話を聞き、私が知らなかったとは言え、里の者が失礼な事をして申し訳ありませんでした」


 俺は、あえて何も喋らない。


「どうか、今迄の無礼を許して頂けませんでしょうか」


 まだ、何も喋らない。


「……タクト殿?」


 ……謝罪の方法も知らないのだろうか?

 何故、謝罪する立場なのに少し笑ったかのような顔が出来るんだ?

 エイジン達グランド通信社と、比較してしまう。


「何を都合の良い事を言っているんだ? 俺がどこかの偉い奴の親族だったら、この里ごと襲われてもいい覚悟だったんだよな?」

「いえ、そのような事は決して……」

「ましてや、里の頭首がこの事を知らないって方が変だろう?」

「……それは」

「自分達以外は、下に見ているからどうなっても良いと言う事だからじゃないのか?」

「……」

「里ぐるみで俺を騙したことを、あくまでも認めないんなら謝罪も必要ない」


 レクタルは反論出来ないでいた。


「レクタル殿、横から発言させて頂きます」


 シキブが話に入り込んできた。


「タクトは、ランクBですがランクSS以上の実力の持ち主ですし、ルンデンブルク家領主が絶対の信頼をおいている人物でもあります。それに、森の守護者と対等な立場でもあるという事を知っていて、そのような振舞いをされているのですよね?」


 ……シキブ、いきなり何を言いだすんだ?


「タクトがその気になれば、貴方達はこの森に住めなくなるどころか、国からも何かしらの処罰が下る事だってあるですよ!」


 シキブの言葉に、軽く考えていたレクタルの顔が、どんどんと青ざめていく。


「シキブ、もういい」


 俺は、シキブを止める。


「ライラ、悪いけど力を貸す事は出来ない。俺達はこのまま王都に向かう」


 今にも泣きだしそうなライラに向かい、厳しい言葉を言う。


「そうね、ライラには申し訳ないけど仕方ないわね。タクトは国王様から直々に、王都へ来るように言われているから、あまり寄り道も出来ないからな」


 シキブも同調する。

 国王という言葉を出した瞬間に、レクタルは俺の顔を見る。


「気が向いたら、いつでも遊びに来いよ」


 ライラと別れるのは本意ではないが、仕方ないと思うしかない。

 家に戻った時に、マリー達にどう説明していいかを考えないと、いけないな……

 項垂れているレクタルの横を通って、この場を去る。


「……いや!」


 ライラが大きな声を上げる。


「なんで、いつもそうなの! だから、ローラお姉ちゃんだって愛想を尽かして出て行っちゃうんだよ!」


 今迄、ライラから聞いたことのない声だった。


「本家やその周りに居る人達は、分家とか他の人達をいつも馬鹿にしているから、こんなことになっちゃうんだよ!」


 里内でも、差別があるのか……本家と分家ってのは、よく聞くが俺自身は馴染みが無い為、よく分からない。

 確かに、里に着いた時に服装が違うのは見た目で分かったし、俺に汚い言葉を言っていたのは、綺麗な服を着ていた奴等だった。

 それに、ローラが里の事になると、気乗りしない理由も分った気がした。


「自分達が楽をしたいから、分家の人達を無理やりここに引っ越させたりして、可哀想じゃない!」


 本家とはプチ貴族みたいで、周りの人とは取り巻き達のことなのか?


「私も、里から出て行く!」


 ライラは、里との決別を宣言した。

 流石に、レクタルとラウ爺も焦る。


「何を言っているんだ、儀式があるだろう!」

「そんなの関係ない!」


 儀式を受けなかった時に、ライラへの影響が気になるな……

【全知全能】に『蓬莱の樹海』にある狐人族の里で行われる三〇歳の儀式と細かい情報を踏まえて、儀式による変化を聞く。

 回答は変化無しだ。

 本当に形式的な物だけのようだな。

 儀式は本家の者だけで、分家や他の集落は儀式を受ける事は無いらしい。

 一応、儀式の内容も聞いてみるが、思っていたよりも気分の悪いものだった。

 用意された正装に着替えて、里の者達に披露をする。

 その後、頭首の家で本家の歴史やら、分家や他の者達とは身分が違うだのという事を教え込まれるそうだ。

 それからは、仲の良かった分家の者でも、身分の違いを認識させて気軽に声を掛けるなど出来なくなり、周囲が強制的に別々の生活をさせようとする。


「お前は、本家のしかも次期頭首候補なんだぞ!」

「そんなのに、ならなくてもいい!」


 ライラは、語尾を強めて反論する。


「私は、お兄ちゃんやローラお姉ちゃんのように、困っている人を助ける人になりたいの!」


 この言葉は、俺の心に響いた。


「ラウ爺!」


 ラウ爺を呼ぶと、ラウ爺は勿論だがレクタルも俺の方を向く。


「俺がライラをここに連れて来る時に、ライラの意見に従うって言ったよな!」

「……はい」

「ライラ、一緒に来るか?」


 ライラに向かって、手を差し出す。


「うん!」


 そう言葉を発するより早く、俺の手を握った。


「許さんぞ!」


 レクタルが叫んだ。


「分家のお前を本家の養子にしてやったのに、この恩知らずが!」

「……私は、お母さんと一緒に居たかったのに、勝手に養子にしたのは本家の人達じゃない!」

「分家は、本家の奴隷みたいなもんだから、本家の言う通りにしてればいいんだ!」


 コイツは、救いようが無いな。


「たまたま、九尾なのをいい事に調子に乗るんじゃない! 分家上がりの分際で!」


 レクタルは発狂している!


「頭首、落ち着いて下さい!」

「うるさい! お前も分家の分際で、意見を言うな!」


 完全に暴君だな……


「お前がうるさい。たかだか、里の頭首位で何を威張り散らしているんだ?」

「ライラは、返してもらうぞ」

「それは無理だ。ライラが嫌がっている」

「誘拐したと直々に、領主に言ってもいいんだぞ!」

「言いたければ言えばいいだろ、その前に自然災害で里が無くならなければいいけどな!」


 殺意の込めた目で、レクタスを睨む。

 一瞬で、レクタスは黙り込んだ。

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