223話 領主としての責任!
孤児院を訪れた翌朝、朝食を食べていると、フランに緊急の呼び出しが掛かる。
フランは俺も同行するように言うので、一緒に孤児院へ向かう。
孤児院の前は、リロイとニーナそして、マイクと護衛と思われる衛兵がいた。
「……どうしたんだ?」
状況が分らない。
俺の表情を見て察したのか、リロイが説明をしてくれた。
昨日、俺から孤児院の事を知ったリロイはすぐに、孤児院の状況や助成金を家臣等の関係者達に調べさせて、明らかに予算不足なのが分かったので、領主として直々に詫びに来たそうだ。
一刻も早く謝罪が必要かと思い、朝一番で孤児院に訪れたそうだ。
「領主が、簡単に出歩いていいのか?」
「大丈夫ですよ! 衛兵も付いてきてくれましたので」
「まぁ、無事ならいいがな。 それで?」
サジとサーシャが緊張しすぎてフランに助けを求めたら、俺にお鉢が回ってきたようだ。
いきなり、扉を開けたら領主が居たら、どうしていいのか分からない気持ちも分かる。
「立ち話もなんだから、孤児院の中で話をするか!」
「そ、そんな領主様を、こんな汚い家にお入れするなんて……」
「こんな状態なのは、リロイの責任でもあるんだから気にするな!」
「……タクトは厳しいですね。 確かに、返す言葉もありませんね」
サジと、サーシャは緊張で死ぬんじゃないかと思う位に、動きがぎこちない。
孤児院の中に入ると、子供達が領主であるリロイに挨拶をする。
そのまま部屋に案内されて、座る前にリロイが謝罪をする。
「領主として、この様な状況を知らずに大変申し訳御座いませんでした」
リロイが頭を下げると、ニーナも同様に頭を下げた。
サジとサーシャは、すぐに頭を上げるように言う。
頭を上げると、予想以上に痛んでいる施設を見て、何度も申し訳ないと言う。
その度に、サジとサーシャが止めると言う無限ループに入っている。
「用件は、助成金の事なんだろう?」
耐え切れずに俺が話し出す。
「はい、助成金の金額としては今の倍出します。 そして施設の修繕もこちらで行います」
「……そんな、勿体ない!」
「いえ、この孤児院は、本来ジーク領が運営しないといけないところを、お願いして運営してもらっています。 結果、間接的とはいえジーク領が運営しているようなものです。 サジ殿とサーシャ殿が自身の財産からも、子供達の食費に回しているのも推測出来ます」
さすが、リロイだな。
サジとサーシャの衣服は、子供達の物よりもボロボロだ。
「修繕と言っても、建て直した方が早いんじゃないのか?」
「そうですね、そこは業者と相談になりますね……」
「修繕中の子供達の生活はどう考えている?」
「……そこまでは」
俺の問いに、リロイは言葉が詰まる。
「まぁ、領主のリロイがそこまで考える事も無いだろう。 家臣に任せればいいんじゃないのか?」
「確かにそうですが、自分の無能さを感じてしまうのです」
「元スラムの土地を提供してやるから、サジとサーシャの意見も聞いて建ててやれ!」
「しかし、領地の予算的に土地を購入する予算は……」
「提供してやるって言っただろ! 無料でいい」
「無料って、タクトが購入した土地を貰う訳には……」
「それ以外に、良い案も無いだろう? 気にするな!」
「……しかし」
「他に案があれば、そっちを採用すればいい。 大人の都合で、子供達が困るような事だけはするなよ!」
「分かりました。 約束します」
「サジとサーシャも、それでいいだろう?」
「えっ! はい」
「それと、子供達の衣類だが、数は足りているのか?」
ふたり共、申し訳なさそうに下を向いている。
「リロイの用件は終わりでいいのか?」
「はい、すぐに戻って対応致します」
「頼むぞ!」
施設全員で、リロイに帰りの挨拶をする。
リロイの馬車が見えなくなると、サジとサーシャに小さな声で聞く。
「この後の予定はあるのか?」
「いえ、特には掃除位ですかね」
「分かった。 フラン後は任せるからな!」
「えっ! 何が?」
子供達に向かって、
「よく聞け! 今から御前達の服を作りに行く! 一人三着だ。 詳しくはコイツに聞け!」
フランを前に出すと、ようやく理解したみたいだ。
喜ぶ子供達、慌てふためくサジとサーシャ。
「なんで、こんな事まで……」
「服がボロボロだったから、新しくするだけだ」
「でも……」
「支払いは、俺がするから気にするな! サジとサーシャも三着までだからな!」
「私達の分までですか!」
「当たり前だ!」
以前に、鬼人ツインズこと、ザックとタイラーの服をトグルに頼んだ際に、普通は成長の関係で仕立てる時よりも大きめに製作するが、ザックとタイラーは冒険者のような動きやすい服にするから、すぐに着られなくなると言っていたのを覚えている。
この孤児院では、代々の子達が着られるように、大きめのサイズの服を着させ続けてきたのだろう。
自分の好きな服を着られるという当たり前の事が、ここでは出来ないのは納得出来ない。
「ちょっと、ここで待っていてくれ」
俺は、孤児院に入り【浄化】を掛ける。
部屋の中が綺麗に掃除された。
「もういいぞ!」
皆を呼ぶ。
いつも見ている家の中だが、綺麗になっているのに驚いている。
一番驚いているのはサジだった。
「何が起こったのですか?」
「ちょこっと、掃除しただけだ。 この後の予定が掃除だと言っていただろう?」
「そうですが……」
フランに、仕立て屋にはこれだけ一度に頼むんだから、安くさせろと伝える。
渋るようだったら、他の店に行くことと『四葉商会』が絡んでいる事を言えと追加しておく。
頷くフランに多めの金を渡しておく。
孤児院から戻ろうとすると、マリーから連絡が入る。
「どうした?」
「開店前だけど、店の前に人だかりが出来ているのよ!」
「ダウザーの記事か?」
「それ以外は、考えられないわよ!」
……予想以上だな。
「何とかなりそうか?」
「……何ともならないと思うから、連絡しているんじゃない!」
確かに、その通りだ。
昨日、マリーだけでも問題はなんとかなると言ったばかりなのにな……
「ルンデンブルク家の件は、極秘事項になっているので、当店ではお答え出来ませんと入口に張っておいてくれ」
「分かったわ。 もし聞かれたら、口頭でもそのように指示するわ」
「そうだな、頼む!」
「……タクト」
「ん? なんだ?」
「いえ、何でも無いわ」
マリーは、そう言って切った。
最後に言おうとした言葉が、俺には何となく分かった。
昨日の事が影響しているのも分かっているので、俺もズルい奴だなと思った。
マリーの仕事ぶり、いや誘った時から既にマリーに店を任せるのが分かっていたのかも知れないな。




