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220話 孤児院の事情!

「しかし、どうするかな……」

「何が?」


 マリーが俺の独り言に反応した。


「フランの負担を減らす方法だよ。 いずれは、『ブライダル・リーフ』の仕事から外すつもりだったしな!」

「えっ! 私、クビなの!」


 驚くフランに対して、


「違う。 フランには、希望していた『情報士』の仕事をさせてやりたいから、名前が売れたら少しづつ仕事の内容を変えていこうと思っていたんだよ!」

「良かった。 クビじゃないんだね」

「当たり前だろう! フランもマリーも他の従業員も居るから、俺が楽出来るんだから!」

「……タクトが問題を持ってくるから、私達が忙しいんだけど、自覚無いの?」

「そうそう!」


 マリーとフランは、俺のせいだと言わんばかりだ。


「誰か、写真撮りたい奴の心当たり無いか?」

「そんな人が居たら、もう報告してるわよ。 ねぇ、フラン」


 マリーの問い掛けにも返事をせずに、なにやら考えている。


「どうした、フラン?」


 少し、大きめの声で喋り掛けると、正気を取り戻した。


「実は、タクトに相談があって……」

「なんだ、改まって! 前借りはダメだぞ」


 フランには前科があるので、あらかじめ忠告する。


「違うって! ふたり共少し時間ある?」

「おう!」

「別にいいわよ!」



 フランは、俺達をスラム街があった反対方向の街外れまで案内をした。

 一軒の家の前で、フランが立ち止まる。


「ここは?」


 普通の家よりも少し大きいが、家のあちこちには自分達で修理した後がある。


「ここは、孤児院なんだ」


 フランの話によると、少し前に街角で蹲っている少年と少女を発見したので、気になって声を掛けると空腹だというので、昼用に買っていたパンを差し出したが、一向に食べないので事情を聞くと「他にも空腹の子が居るのに、自分達だけ食べる訳にはいかない」と少年と少女は話した。

 フランは、子供達に案内されてこの孤児院を知り、それからはちょくちょくと訪れているそうだ。


「実は、ここの子達がカメラにも興味があって……勿論、自分の払える範囲内でやっているから安心して。 只、カメラの事はタクトに相談無しで撮ったり、撮らせてあげたりしていたので……」


 フランは、気まずそうに話す。


「フラン!」


 俺が名前を呼ぶと、怒られるのかと思ったのか、身を縮こませた。


「なんで、早く教えないんだ! とにかく、ここの責任者に会わせてくれ!」


 予想外の俺の言葉に呆気に取られている。


「フラン、早く私達に紹介してよ!」


 マリーも催促をする。

 フランは笑顔を取り戻して、家の方に歩いて行った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「初めまして、この孤児院の責任者の『サジ』と申します。 こちらは娘で副責任者の『サーシャ』と申します」


 サジは、人間族の初老の男性で、娘のサーシャとふたりで、この孤児院を経営している。

 経営と言っても、収入源が無いのであれば領地からの助成金が殆どだと推測できる。

 それに、この状況を見る限りなんとか運営が出来ているようだ。

 子供達は、隠れているつもりなのか扉の向こうで聞き耳を立てている。


 フランから、俺とマリーの紹介がされる。

 『四葉商会』のオーナー兼冒険者と、『ブライダル・リーフ』の店主としてだ。

 当然、サジとサーシャは驚く。


「そんな方々が、当施設になんの御用でしょうか?」

「実は、ミランダに私の仕事の手伝いをして貰いたいと思いまして……」


 フランが、ここに何度か訪れては、カメラを教えていた。

 その中でもミランダは、他の子よりも興味があり写真のセンスもあると言っていた。

 人材については、俺が口を出すつもりもないのでフランに一任だ。


「……いきなりのお話で、なんとも答えられないのですが、とりあえずミランダを呼んで来ますので、お待ち下さい」


 孤児院側にしてみれば、当然だ。

 いきなり来て、仕事を手伝えなんて話だから困惑するだろう。

 サーシャが、ふたりを呼びに行っている間に、サジに孤児院の事を詳しく尋ねる。


 この孤児院には、人族の五歳~一三歳までの八人が暮らしている。

 皆、親を失って途方に暮れていた所をサジやサーシャが保護しているそうだ。


「スラム街にも、子供が居たが?」

「はい、何人か居るのは知っていたのですが、私達一般人では近づくことも出来ませんでしたので……」

「成程な! 気にするな、その子達も今は元気で暮らしているはずだ!」

「えっ! どうしてですか?」

「俺が、近くの村で面倒見て貰うように頼んだ」

「そうでしたか、安心しました」


 本当に、安心した表情だ。


「やはり、経営は苦しいのか?」

「はい、お恥ずかしいお話ですが……」

「ここは、個人経営なのか?」

「基本はそうなります。 ただ、領地の補助施設にも認定頂いておりますので、助成金も頂いております」

「……助成金が少ないのか?」

「いえ、リロイ様になってからは、助成金も上げて頂いておりますが、これ以上無理は……」

「今の倍あれば、問題無いのか?」

「それだけあれば、十分過ぎます」

「ふーん、ちょっとリロイに連絡するから、マリー続き頼む!」

「……はいはい」

「えっ! 今、リロイって言いましたが、もしかして領主様ですか?」

「貴方は気にしなくていいわよ。 タクトは領主と友人だから、多少の無茶は聞いてくれると思うわよ」


 サジは、この数分間で何が起こったのか理解が出来ていない様子だ。


 俺はリロイに連絡を取り、孤児院の現状報告と助成金を増やす事を頼んだ。

 リロイからの返事は勿論、問題無いだった。

 逆に、今迄気が付かずに申し訳ないと謝っていた。

 助成金の金額は、後日調整して決めると言っていたので、連絡を貰う事にした。


「助成金増やすって、約束したぞ!」

「……相変わらず無茶ね」


 マリーは、文句のひとつでも言いたいのだろう。


「すいません、もう助成金の件は解決したのですか?」

「おう、金額は後日連絡貰うから、こっちにも連絡あると思うぞ!」


 サジは驚いているが、目にうっすらと涙も浮かべている。


「ところで、夕飯は食べたのか?」

「いえ、今用意をしていた所です」

「用意を途中で止めても、大丈夫な食材か?」

「はい、それは大丈夫ですが……」

「それじゃあ、孤児院の子達を皆を呼び戻して集めてくれ」


 孤児院の子供達を全員集合させる。


「タクト、ありがとう」


 フランからお礼を言われる。


「これからは、早めに報告しろよ!」

「うん……」

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