205話 気持ちの妥協点!
エイジン達を送り出した後に、リビングに戻る。
なにやら騒がしい。
原因は、マリー達女性陣がミラと押し問答している。
「どうしたんだ?」
入口傍にいたトグルに聞くと、ミラが『四葉商会』をえらく気に入ったらしく女性従業員に仲間登録を申し込んだそうだ。
当然、そんな恐れ多い事は出来ないと、丁重に断っている状況らしい。
俺に気付いたフランが、
「タクトからも、なんと言って~!」
「別に、いいだろう? ミラだって領主夫人といえども、お前らと同じ女性だろ?」
俺の言葉で、部屋が静かになる。
次の瞬間に、ダウザーが大声で笑い始めた。
次にミラも笑い始めた。
「タクト、お前って奴は! 本当に俺達を特別扱いしないな!」
笑い続けるミラの横で、マリーとフランが俺を睨みつけていた……
「ミラだって、領主夫人の肩書抜きで、話したいんだろう? 御前達なら適任じゃないか?」
「……あのね!」
マリーが、文句を言おうとする言葉に被さるようにミラが、
「そうなんですよ、タクト様! 私も、立場関係無しに話が出来る相手が欲しいだけなんです!」
マリーとフランが、断る事が出来ない空気になっていた。
ルンデンブルク家が帰った後で、小言を沢山言われるのを覚悟した……
食事も一緒に食べてから帰ると言っているが、流石にこれ以上遅くなると、大臣達が心配するので帰りたくなさそうなダウザー達を半ば強引に、ルンデンブルクまで【転移】で送る。
ミラは、女性陣に「またね!」とにこやかに手を振っていた。
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案の定、ダウザー達の帰りを今か今かと待っていた大臣は、気が気でなかったようだ。
姿を見るなり、詰め寄られて三人共叱られていた。
何故か、最後の方は俺にも文句を言い始めた。
一応、俺は早めに帰るように強引に連れ帰ってきたと、少しだけ反論すると大臣は、ダウザーたちに向かい、更に言葉を強めて叱っていた。
……こんだけ、本気で叱るって事は、本当に心配だったのだな。
お叱りも終わり、最後に大臣から「ダウザー様達を、これからも宜しくお願いします」と頭を下げられた。
ダウザーは、よい家臣を持っているな。
帰ろうとすると、ダウザー達三人から仲間登録の要望があったので登録をした。
「タクト! 例の件、頼むぞ!」
「あぁ、分かっている。 じゃあ、またな!」
例の件とは、調査の事なのは聞かなくても分かった。
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リビングに戻ると、今度は皆から文句を言われる。
勝手に客人を連れて来た事や、国の重要な方なら尚更、早めに連絡しろやら……
全て、俺が悪いので何も言えなかった。
俺が何も言えないのをいい事に、だんだんと悪口へとエスカレートしていった。
最後は、マリーがストレス発散ばかりとマシンガンのように、独りで喋っていた。
……黙って聞くのも、俺の仕事だ! と、自分に言い聞かせていた。
「は~、すっきりした!」
マリーのこの言葉で、俺への罵倒タイムは終了した。
「ミラ様の件、本当にいいの?」
フランが心配そうに聞いてきた。
「問題ないだろう。 俺達が思っているより領主というのは、素の自分をさらけ出せないようで大変みたいだな。」
「そうかも知れないけど……」
納得していない様子だ。
フランの気持ちも、分からなくは無いが当人達の問題になるので、俺がどうこう入れるわけでもない。
少しづつ気持ちの妥協点を見つけていくしかないのだろうな……




