198話 身分は無関係!
誘拐犯達が連れて行かれ、先程までの殺伐とした空気が、元の平穏な空気に戻っていく。
「タクト、本当にお主には世話になった」
「別に、気にしなくていい。 あんな感じの奴は、俺も嫌いだからな」
差し障りのない話をしていると、着替えが終わったミクルとミラが入って来た。
「改めてお礼申し上げます。 この度は、助けて頂きまして有難う御座います」
ミラの言葉に合わせて、ミクルも頭を下げる。
「気にしなくていい。 助けた相手が、たまたま貴族の娘だっただけだ」
俺が、あまりにも素っ気なく言葉を返したからか、ダウザー達は呆気に取られていた。
「ところで、お主は本当に人間族か?」
「あぁ、そうだ。 尻尾もないだろう」
ダウザーに向かって、尻を見せて左右に振ってみる。
「お主は、可笑しな奴だな」
お道化た俺の行動に笑う。
「用事も済んだし、そろそろ帰るわ。 ミクル元気でな!」
別れの挨拶を、ミクル達にする。
あっさり帰ろうとする俺にダウザーが、
「お主は、褒美とかを要求しないのか?」
「なんでだ? 街の娘を救っても褒美なんか要求しないし、同じことだろ?」
俺の返しに、ダウザーは大きな声で笑い、ミラもクスクスと小さく笑っていた。
「久しぶりにこんなに笑ったぞ! お主のような者が、まだこの世界に居たんだな!」
「俺は、身分は勿論だが、種族によって差別はしないからな」
「……なるほど、気に入った! ルンデンブルク家に仕える気は無いか?」
「悪いが、無い」
「即答とは、欲の無い奴だな」
「欲はあるぞ。 皆が幸せに過ごせるように、色々とやらないといけない事もあるし、何より神の教えをこの世に広める事が本来の使命だからな!」
「……神の教え?」
「あぁ、エリーヌという神を、この世に広める事だ!」
「エリーヌ……どこかで聞いた名だな?」
ダウザーが考え込んでいると、ミラが、
「リロイ殿の記事で、結婚式の最中にあった誓いの言葉に出てきた神ではありませんか?」
「おぉ! それだ!」
「お父様、タクト様はその結婚式を取り仕切っている四葉商会の代表なのですよ」
ミクルが、俺の素性を話す。
俺から、四葉商会の事は喋っていないので、マリーかフランに聞いたのだろう。
「最近、巷で噂の四葉商会の代表か! そうすると商人なのか?」
「趣味で、冒険者と商人をしている」
「……趣味とは、また面白い表現だな」
「俺、無職だからな!」
先程から、クスクスと小さく笑い続けていたミラだったが、この会話で笑い声が大きくなった。
「あなた、もう無理です。 タクト殿が可笑し過ぎて我慢出来ません」
笑いのツボにでも入ったのか、必死で上品さを忘れないようにしながら笑っている。
「お主の様な者を使者として使える、リロイ殿が羨ましいな」
「それは、ミクルの事があったから俺から使者にしてくれる様、リロイに頼んだ」
「……お主は、領主を呼び捨てで呼んでいるのか?」
「あぁ、【呪詛】もあるがリロイから頼まれたので、お互い友のように呼び捨てだ」
ミラは、更にツボに入ったのか先程より、勢いよく笑っている。
ダウザーは、何故か黙り込んでいる。
「……友のようにか。 お主は冒険者と言っていたが、強いのか?」
「強いかどうかは分からないが、ランクBだ」
「ほう、その若さでランクBとは!」
感心しているダウザーにミクルが、
「いえ、タクト様はお強いです! サンドワーム二体をひとりで、いとも簡単に倒されました」
「サンドワーム二体を単独討伐だと……!」
ダウザーは驚いていたが、今迄の状況から納得はしたようだ。
「ジークだと、ギルマスはシキブだな」
「よく知っているな」
「まぁ、彼女は有名人だからな。 これも何かの縁かも知れんな」
ダウザーはミラを見ると、何も言わずにミラは頷いた。
「タクト、ジークまで転移魔法で移動は出来るか?」
「あぁ、問題無い」
「リロイ殿への挨拶もしたいので、連れて行ってくれんか?」
「別に構わないが、問題にならないか?」
「今日中に戻れば、何とでもなる」
「分かった。 だがその格好だと目立つぞ……」
「服は着替えるから大丈夫だ」
「それなら問題無いが、呼び方からバレるから気を付けてくれ」
「呼び名なら、リロイ殿と同じ様に呼び捨てのダウザーで良い」
「いやいや、ダメだろ。 こういう言い方は悪いが、リロイとは地位が違いすぎるだろ?」
「村人や領主のような身分で、差別しないと言ったのはお前だろ?」
「……それはそうだが」
仮にも、国王の親族であり、魔法都市ルンデンブルクの領主を呼び捨てというのは、流石に気が引ける。
「タクト殿、私からも御願い致します」
ミラが、頭を下げる。
「……分かった。 ダウザーでいいんだな! 配下の者にも、ちゃんと言っておけよ!」
「あぁ、ありがとうな!」
「あの~、私もミラで御願いしますね」
「えっ! どうしてだ?」
「たまには、領主夫人でなく一個人の女性として過ごしてみたいからです」
笑いながら追加注文してきた。
断るわけにもいかないので了承する。
「ところで、ミクルから教えて貰った動作は、どういう意味があるんだ?」
「あれは、私に隠れてお父様がお母様の胸を突く時の仕草です」
ダウザーとミラは、恥ずかしそうに目線を逸らしている。
……とても申し訳ない事をした気分だ。