193話 魔法都市ルンデンブルクへの潜入!
「場所が、分かったわよ!」
シキブから、リンカの集落位置判明の連絡を受ける。
「遠いのか?」
シキブが地図を描きながら説明してくれたが、ミクルやエルフの集落からだと方向が違うらしい。
昨夜の襲撃を受けた方角になる。
反対方向では無いが、たしかに方向が違うから同時に送り届けるのは難しいな……
リンカも状況が分かるので、一番最後でいいと言ってくれた。
このリンカの発言には、助けられた。
「ただ、問題があってね……」
シキブは、連絡をしたギルマス『ルーノ』は、事情を聞き激怒しているらしい!
まぁ、当たり前だろう。
ルーノがジークまで迎えに来ると言っている。
「それは、助かるから問題無いだろ?」
「そのね、ルーノとトグルは相性が悪いと言うか、スグに喧嘩を始めるのよね……」
お互いが戦闘バカという事だな。
「それは、別問題として来てくれるなら助かるな、リンカ!」
リンカは真っ青な顔をしている。
「どうした、具合でも悪いのか?」
「いえ、迎えに来てもらうのは申し訳ないな~と思いまして……」
歯切れが悪いな、どうしたんだ?
「実は、ルーノとリンカは兄妹なのよ。ルーノが怒っているのは、リンカに対してなのよね!」
誇り高き狼人族が、奴隷にされた怒りに加えてそれが実妹だとなれば、そうなるのも分かるな。
リンカも叱られるのが分かるから、余計に会いたくないのか。
「リンカ、早かれ遅かれ叱られるんだから、諦めろ!」
「……うん」
とりあえず、リンカの件はルーノが来るまでは、保留とする。
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【神速】を使いながら、ひたすら走る。
シキブに教えて貰った位置まで、道のりを気にせずにショートカットをしてだ。
途中で山を越えたり、魔物ともすれ違うが相手にせずに距離を稼ぐことを優先にする。
途中で休憩を取る際に、リロイへ連絡をする。
「ルンデンブルク家と交流はあるか?」
「私のような身分とは、付き合い程度の交流しかないですね。 先日、結婚したお祝いを頂いた形式的な間柄位ですかね?」
「お返しはするのか?」
「はい、明日にでも使者に持たせるつもりです」
これは、願っても無いチャンスだ!
「その役、俺にやらしてくれ!」
「タクトにですか?」
「あぁ、ちょっと事情があってな……」
リロイには、この騒動に巻き込む可能性もある為、ミクルの件に関しては全て話した。
「そう言った事情ですか……分かりました。 御願いしますので明日の朝にでも、お返しの品を取りに来て頂けますか?」
「分かった、助かる」
これで、侵入ルートは確保出来た。
ただ、直接会えるかが疑問だな……
必ず会えると言う、もう一手が欲しいな。
考えても仕方ないので、走るのを再開するか!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
自分の身体能力に驚いている。
本気で走り続けると、十日は掛かると言われている所を一日掛からずに到着した。
ショートカットしているので、実際は二~三日分は短縮出来たと思う。
丘の上だが、遠目から見ても屋敷が大きい事は分かる。
屋敷と言うよりも都市自体が大きい。これが『魔法都市:ルンデンブルク』か!
都市に名前が付いているだけで、いかに『ルンデンブルク家』が力を持っているかが分かる。
ここからは、出来るだけ近づき情報を集めるとするか。
【呪詛】の証明書もここなら発行出来ると、カンナが言っていたので、ついでに貰っておく。
さすがに、魔法都市と言われるだけあって、街全体が賑やかだ。
店を見てみるが扱っている商品も、ジークよりも種類が多い。
【呪詛】の証明書を発行して貰う為、『鑑定所』を訪れる。
建物内には、三人の鑑定士が居たので、説明を受ける。
まず、身分の確認をした上で、水晶に触り【呪詛】の有無と内容を確認する。
その後【呪詛】の種類を把握及び、解析して『証明書』の発行になる。
ステータスが覗かれることは無いのかと聞くと、ギルドカードがあれば見る事は無いと答えが返ってきた。
『証明書』の発行を頼むので、冒険者ギルドと商人ギルドのカードを出す。
両方の上級ランクのカードを持っていることは珍しい為、驚かれたが身分証明は終わり水晶に触る様に指示される。
両手で水晶を触ると、水晶自体がうっすら光始めて、鑑定士が覗き込んでいる。
「二つとも珍しい【呪詛】ですね」
「あぁ、非常に困っている」
三〇分程度で、『証明書』は発行された。
これで、毎回説明する手間が省ける。
酒場に入り、街の情報取集も含めて話声に耳を傾けてみる。
やはり、愚痴が多い。
どの世界でも同じだなと思った。
俺自身は【全属性耐性】の影響で、アルコールを飲んでも一向に酔う事は無い。
最近気が付いたのだが……
「兄ちゃん、見ない顔だな!」
酒場のマスターが声を掛けてきた。
「あぁ、さっきこの街に着いたところだ」
「そうか! ようこそ、魔法都市ルンデブルクへ!」
「ありがとう! いい街だな、やはり領主が良いと街も活気があるな!」
とりあえず、話題を振ってみる。
なんでもいいので、情報は欲しい。
「大きい声では言えないがな、その領主様なんだが……」
マスターの話だと、一人娘のミクルが行方不明か殺されたと噂が立っているらしく、領主達も姿を現さないので、余計に噂が広まっているらしい。
「領主には、簡単に会えるのか?」
「バカを言え! そんな簡単に会えるか、貴族や新聞の取材ならまだしも……」
新聞の取材!
そうか、その方法がたしかにある。
しかし、アポは難しいだろう。
エイジンは、ジークの支社長だからこの街には、別の者が居る筈だ。
あまり情報を流したくない……
良い案だと思ったが、ボツだな。
「そうか、一度見たかったが残念だな」
リロイのお返しの品を渡す際に、なにか細工をするしかないな……
手紙が渡せれば良いが、内通者にバレる可能性が高い。
直接気付かずに、話すことが出来れば……
『念話』を人に使ったらどうなる?
今迄、普通に言葉が使えるから使用した事が無いが、ライラと出会った時に通じた筈だ。
もう一度、試す必要はあるな。
酒場を出て【隠密】で屋敷の中に入る。
歩き回る事で、今後【転移】がしやすくなる。
扉を開けたりは出来ないので、ただ建物内を歩くだけだ。
途中で使用人同士が会話しているので横で聞いてみたが、ミクルは誘拐されている事になっているようだ。
犯人からは「誰にも言うな! 言えば娘は殺す」と手紙があっただけのようだ。
使用人は、たまたま居合わせた別の使用人から聞いたらしい。
領主夫妻は、それからは元気がなくなっているそうだ。
やはり、ミクルを手元に確保してから、何かしらの要求をする予定だったのだろう。
しかし、手紙がどのようにして領主に渡ったのだ?
一般人からの手紙等は、毎回領主は見ないと思うが……
ここらで一旦、ジークに戻る事とする。