188話 奴隷契約!
今夜から【転移】を使い出来る限り、行動範囲を広げるために探索をしている。
決して、シロやライラと一緒に寝るのを避けている訳では無い!
夜行性の魔物は、昼間の魔物に比べて凶暴性が格段に高いと聞いている。
平坦な道でも『サーベルウルフ』が群れを成して襲ってきた。
肉弾戦で応戦したが、八匹程倒すと群れのボスらしきものと対峙した。
言葉が理解出来るかの確認も含めて、「これ以上危害を加えなければ見逃す」と【念話】で語り掛けると、向こうも理解したのか群れを引き連れて去っていった。
やはり知能が高い魔獣は、言葉が理解出来るようだ。
サーベルウルフを解体し終わると、草むらから液体が飛んできた。
飛んできた方向を見ると、一メートル程の多足生物が居た。
『エルズムカデ』だ。
触るのは気が引けたので、【風刃】で切り刻んで【解体】した。
解体したとはいえ、触るのは少し躊躇する。
核のみ回収する。
道を外れて、砂地の所まで来ると地響きと共に地面から『サンドワーム』が現れた。
地面からの振動を気にしながら、攻撃を避ける。
タイミングを見て、蹴り上げると地中から頭を出したので、【火弓】を連続で撃ち込む。
再び、地中に潜ろうとするの、手で一旦地上に出して、【火弓】で仕留めた。
他の魔物と同様に【解体】して、核のみ回収した。
少し歩いてみると、向こうから誰かが走ってくる。
「サンドワームが現れた! お前も早く逃げろ!」
「ひとりか?」
「向こうに奴隷が居るが、そんな事より逃げるのが優先だ!」
こいつは奴隷商人か……
「奴隷達は、どうするんだ?」
「今は、バケモノの囮に使っている」
「囮?」
「そんなことより、お前も俺と一緒に早く逃げるといいぞ!」
「奴隷達は、この先なんだな」
「あぁ、そうだ!」
奴隷を囮にして自分だけ逃げるつもりか……
俺も一緒に連れて行って、危なくなったら俺を囮にして自分だけ逃げるつもりか。
「俺の事は気にせずに逃げろ」
「……バカな奴め! 勝手に死ね!」
暴言を吐いて奴隷商人は一目散に走っていく。
俺は足踏みするように、何度も大げさに足を地面に叩きつける。
地中からの振動がこちらに向かってくるのが分かる。
【隠密】で待機していると、地中からサンドワームが飛び出してきて、奴隷商人の方に向かった。
サンドワームは、地面に伝わる振動で獲物を判別すると、前世のゲーム設定に書いてあったのを覚えていたので試してみたが、当たりだったようだ。
あっという間に奴隷商人に追いつき、口らしき物に吸われていった。
特にこれといった感情も無く、奴隷商人の最後を見ていた。
奴隷達が心配なので、サンドワームの討伐は後回しにして、奴隷達の居るであろう場所に向かう。
荷馬車の残骸らしきものが転がっている。
荷馬車の数からして、少なく見ても十数人は居たかと思うが、発見出来たのは意識を失っていた三人だけだった。
その三人に【治癒】と【回復】を同時に掛ける。
再度、サンドワームが襲ってくる事も考えられるので、一ヶ所に集めて【転移】で近くの草むらに移動した。
周りを警戒しつつ、奴隷達が気が付くのを待つ。
最初に気が付いたのは、人間族の『ミクル』という娘だった。
来ている服も村人の物より、良い物を着ている。
その後に、狼人族の『リンカ』が気が付き、俺を見ると同時に襲い掛かって来た。
二人には簡単に事情を説明して、落ち着かせた。
【アイテムボックス】から、パンと菓子を出して食べるように言う。
怪しがっているので、それぞれ少し食べて大丈夫な事を証明する。
飲み物は、水くらいしか無かったのでそれを出した。
残りのひとりだが、耳が長く見た感じは『エルフ』に見える。
この世界にエルフが居るのは知っていたが、住んでいる森からは出ないとも聞いていたし、住んでいる場所も不明のままだ。
奴隷として売れば、かなりの金額で取引されるだろう。
なかなか目を覚まさないので、ミクルとリンカに奴隷商人が死んだ事を伝える。
二人共、すぐに首輪が外れる事を確認する。
首輪が外れると、俺の言葉が嘘では無いと分かって貰えたようで、礼を言われた。
寝ているエルフの様な女性も気になるが、リンカが狼人なのに奴隷なのも気になる。
狼人族と言えば、誇り高き人種で知られている。
素手での戦闘力に関しては、鬼人よりも上とも言われている。
その狼人が奴隷とは……
疑問をリンカに聞いてみる。
「リンカ、狼人の奴隷なんて珍しいが、なにか事情でもあるのか?」
「屈辱以外の何ものでもない。 あの奴隷商人は怪しい術で、私達の合意なく奴隷にした」
合意なく奴隷にした?
一部の獣人であれば、合意なく奴隷契約は可能だが、狼人であればそれは不可能なはずだ……
「具体的に教えてくれないか?」
リンカは、数人で狩りに出ていたが、甘い香りがしたかと思っていると、いつの間にか気を失っていた。
目を覚ますと、既に奴隷契約が成立していた。
催眠での奴隷契約は有効なのか?
【全知全能】に確認すると催眠状態だろうが、本人の合意が確認出来れば契約完了という回答だった。
催眠状態で契約するのは、許されているという事か?
それが許されるのであれば、奴隷制度は何でもありという事だ。
「私の時も同じでした」
ミクルも同じような状況で、奴隷になったと話し始めた。
ミクルは貴族の娘で、護衛と共に森の中で木の実等を摘んでいた際に、商人と名乗る男が寄って来て、気が付いたら護衛は殺され、メイドと共に奴隷にされていたという。
商人と名乗った男が奴隷商人だと言った。
…まぁ、そうだろうな。
奴隷商人も、一応商人だから嘘では無い。
しかし、公然と人身販売は出来ない。
闇取引のルートがあると言うことか。
「それと、気になることが……」
ミクルも含めて数人は、既に王都で買い手が決まっていると言われて、移動中も酷い扱いを受ける事は無かったという。
その話だと依頼を受けてから、対象者を捕獲して奴隷契約をしている事になる。
「ん……んっ!」
エルフらしき女性が目を覚ました。
俺を見るなり起き上がり距離を取った。
リンカの様に攻撃してこなかっただけマシだった。
俺が話す前に、ミクルとリンカが話しかけてくれた。
「助けて頂いたようで、ありがとうございます」
警戒しながら礼を言ってきた。
彼女は、『レイ』と言い、やはりエルフだった。
レイは、ミクルとリンカと異なり、意識がハッキリしている中で、魔法か何かでで身動きが取れなくなった所を、合意無しで強引に契約をされたようだ。
エルフは、合意無しでの契約が可能という事か……