178話 独身ひとり暮らしの引越し!
「……汚ねぇ部屋だな!」
宿屋暮らしのトグルの部屋を見て、思わず呟いてしまった。
「うるせぇ! どうせ寝るだけだから、多少散らかっていても問題無いんだよ!」
まぁ、ズボラな男のひとり暮らしなんて、そんなものだ。
事実、俺の前世での部屋も同じ様な感じだった。
ローラの研究室よりは、全然綺麗ではあるが……
「片付けてくれる彼女も居ないの?」
後ろから、シキブが少しトグルを揶揄う。
「ギルマス! 俺はまだそんな事に時間を割けるほど強くないんです」
若干、顔を赤らめながらシキブの発言に答える。
トグルの引っ越しは、俺だけでも十分だったが話を聞きつけたシキブとムラサキ、それにイリアも手伝いに来た。
「それ以前に、汚すぎます。 整理整頓は人としての基本です」
イリアが厳しい意見を言うと、トグルは何も言わなくなった。
正論だが、どちらかと言うと俺はトグル側なので、俺も心が痛かった。
「では、荷物の仕分けをしますので、トグルさんは私の問いかけには、迅速に答えて下さい」
「分かった」
イリアの高圧的な言葉に、トグルは素直に返答した。
事務的に、必要な物と不要な物を仕分けし始めた。
トグルが悩んでいるものは、別として次々と仕分けを進めていった。
元々、荷物も少なかった事もあるが、一〇分程で仕分けが終わった。
悩んでいた物を再度、仕分けをする。
「男なら、さっさと決断しなさい!」
トグルに対して、イリアの怒号が飛ぶ!
……イリアの恐ろしさを再認識した。
イリアの迫力の押されたトグルは、次々と決断をして仕分けが終わった。
「では、タクトさん。 荷物はこれだけなので御願いします!」
「了解」
仕分けして持っていく荷物を【アイテムボックス】に仕舞う。
トグルの宿屋から『ブライダル・リーフ』に移動する。
イリアは、此処『ブライダル・リーフ』が店舗だけだと思っていたので、住んでいた事を話すと驚いていた。
「ついでに、タクトの部屋見せてよ!」
「あぁ、別にいいぞ!」
皆を四階にある俺の部屋に案内する。
部屋に入ると、シキブ達は広さに驚いていた。
「タクトって、金持ちなのね……」
「そんな恰好しているのに、金持ちなんだな!」
「シロ様と、この部屋で暮らしているなんて!」
好き勝手な事を言い始める。
「服はそのうちに変える予定だ。 流石に村人の服では不便を感じてきたからな」
「当たり前でしょ! 気付くのが遅すぎるわよ」
シキブには、服装の事で迷惑を掛けっ放しだったので、何も言えなかった。
トグルが住む予定の部屋に案内をする。
場所は角部屋で向かいの部屋が、リベラ達の部屋になる。
「おい、他にもあるだろう!」
「他の部屋は、女性部屋の隣になるから嫌なんだろう?」
「……それなら、仕方ない」
リベラ達も三人で住んでいるので、部屋としては手狭な筈だが、三人共安心するという理由で同じ部屋にしている。
ザックとタイラーは、向かいの部屋にトグルが住むと言うと、大喜びしていた。
「これから、師匠の部屋にも行けるぞ!」
「常に精進出来るんだな!」
リベラは、興奮して騒いでいる双子の弟達を、注意する。
「トグルさん、これから宜しく御願い致します」
「いえ、こちらこそ」
恥ずかしそうに、リベラに言葉を返す。
「たまには、トグルの部屋も掃除してあげてね!」
シキブが横から揶揄う。
「ギルマス!」
顔を真っ赤にして叫ぶトグルと、恥ずかしそうに顔を赤らめて俯いているリベラ。
「姉ちゃんも一緒に住めばいいじゃん!」
「そうだ! その方が楽しいじゃん!」
子供のザックとタイラーに悪気が無いとは言え、トグルとリベラは恥ずかしそうに、そして気まずそうな感じだ。