172話 作業方法の見直し!
家に戻るとマリーが頭を抱えて、メモとにらめっこしていた。
「ただいま! ってか、どうしたんだ?」
疲れた表情で俺を見て「おかえり」と言うと大きなため息をつく。
「ちょっと、問題があってね」
マリーは、俺にメモを見せた。
同じ時間に、二組の予定がある。
……ダブルブッキングか。
「この二組だけか?」
心配になり確認する。
「えぇ、今のところはね。 けど今後同じ問題が起きるから対策を考えていたのよ」
「なにか、良い案はあったのか?」
「……無いわね」
マリーに受付の手順を聞いてみる。
最初に、名前と住所の確認をしてから、指輪の説明をしてから撮影所の案内をして、最後に撮影日を予約して、正式契約になる流れだ。
以前と変わってはいない。
「この紙はなんだ?」
受付でメモを取り、それを他の紙に移す作業をしている。
原因は、それじゃないか?
一日一枚として、あらかじめ時間を書いておき、契約の際に直接記入する事にする。
その際に、契約書にある番号のみを書いて、他の客へは誰かが分からない様にする。
「そうね、それなら何とかなるわね。 ただし問題はフランしか転写出来る人が居ないのよね」
たしかにそうだな。
フランを呼んでみると同じように疲れていた。
「お疲れ!」
「疲れたわよ~!」
フランにも問題点を話して貰う。
やはり、撮影と【転写】の作業が短時間だと厳しいようだ。
ドレス写真と契約写真の度に、移動すると言うのも要因だ。
予想はしていたが、思っていたよりも早くこの問題が起きたな……
ライラが心配そうに見ているのに気づく。
手招きをして呼ぶと、走って俺の所に来た。
「お疲れ様」
頭を撫でてやると喜んでいた。
「上で、飯でも食って考えるか?」
「……まだ、誰も作っていないわよ」
「悪かった。 ガイルの店で食べるか」
ザックとタイラーは、トグルと特訓中みたいなので、トグルに連絡してガイルの店にいる事を伝えた。
店内に入ると、お客は数人だった。
「よっ、ガイル」
挨拶をして空いているテーブルに座る。
最近は、シロとライラが俺の両隣に必ず座る。
ユイとリベラは緊張しているのが分かる。
反対にお疲れモードのフランとマリー。
「好きなもの頼んでいいぞ!」
クロに、ユイとリベラにメニューの説明を頼んだ。
「あぁ、なんか力が出るような料理で良いわよ!」
「そうそう、疲れすぎて何も考えられない」
この姿を見ると経営者としては、心が痛むな。
皆、希望が無いので適当におすすめを注文した。
料理が来るまで、問題点の話を再開する。
再開を始めるとスグに、ユイが手を挙げて発言をした。
「私でよければ、【転写】のスキルを獲得出来るように努力します」
いきなりの宣言に、フランが一番驚いたようだ。
「ユイ、力になりたいからって簡単に決断しちゃダメよ!」
「……はい」
「けど、ユイが力になりたいと思って言ってくれたのは、分かっているから。 ありがとう」
ユイなりに力になりたいのは、ここにいる皆が分かっている。
しかし、簡単には習得出来ないし、職業には向き不向きもある。
「【転写】のスキル習得は難しいのか?」
「そんな事もないわよ。 情報士の初期スキルになるわね」
「ユイもリベラも、職業は慎重に決めて欲しい。 やりたい仕事のスキルでないと後で後悔するからな」
二人共頷いた。
しかし、どうするか……
「受付と契約の場所を分けて、フランさんの負担を減らしたらどうですか?」
たしかに、その案は考えていたが、そうすると人員が二名必要になる。
ユイとリベラには荷が重すぎる。
「いい案だが、人員が足りないな」
ライラの頭に手を置き、言葉を掛ける。
「気にせずに、これからも思ったことは言ってくれよ!」
ライラは小さく頷いた。
「マリー、予約はいつまで入っている?」
「サイズ特注の人を除けば、三日後までね」
俺は、営業時間等について提案をする。
明日からの受付作業は午前中として、一時間前に受付予約は終了する。
午後は撮影のみにすれば当然、予約の御客だけになる。
フランと、マリーは考えているが、
「そうね、午前中であれば数量限定でなくなるし負担は減るわね」
「私も、その案で良いわよ」
「『MP回復薬』は飲みすぎるなよ!」
「……はい」
フロア担当のフィデックが、料理を運んできてくれた。
料理が半分位出されると、トグル達が入って来た。
心なしかトグルが疲れている様に見える。
「お疲れ!」
トグルに声を掛けると、「あぁ」と気のない返事が返って来た。
席を詰めてザックとタイラーを座らせる。
ザックとタイラーは、元気に座った途端に食事を始めた。
シロとライラに席を立つと言って、トグルとカウンターに移動した。
「どうしたんだ?」
「今迄まともに指導したことが無かったんで、疲れただけだ」
「人に教えると、気付く事もあるだろう」
「確かにな。 基本が大事だと、改めて思い知らされたよ」
「頑張れよ、トグル師匠」
言い返す元気も無い様子だ。
「トグルは、いつ頃から冒険者を意識するようになったんだ?」
「物心ついた時には、冒険者を目指していたな」
「早いな」
「あぁ、強くないと生き残れない世界だし、俺は一本角だったしな……」
「俺には分からないが、角の数はやはり重要なのか?」
「……力の象徴みたいなもんだ。 一本角は常に劣等感があるからな」
「あいつ等もそうか?」
ザックとタイラーを見る。
「あいつ等は集落で育っていないから、あまり感じないかも知れないな……」
羨ましそうな目で二人を見ている。
俺達の視線に気が付いたリベラが席を立ち、こちらに来た。
「トグルさん、弟達を指導して頂きありがとうございました」
トグルに頭を下げて礼を言う。
「いえ、大したことはしてませんので、これ位であれば毎日でも引き受けますよ」
照れながら、答える。
「ほぉ~、毎日ね」
俺は、その言葉を聞き逃さなかった。
「ザックにタイラー、明日もトグルが稽古つけてくれるってよ!」
二人共、口一杯に食べ物を頬張り喜んでいる。
リベラも再度、礼を言っていた。
トグルは、照れながらも嬉しそうな表情をしている。