156話 気合の空回り!
昨夜、店の報告が聞けなかったので、朝食を食べながらマリーから報告を聞く。
あいかわず好調で、昼過ぎには五十組分は完売となった。
「結婚式までは、手が回らないな」
「そうね、その話はもう少し軌道に乗ってからね。 今、一番の問題はドレスが着られない御客様についてね」
「昨日も居たのか?」
「えぇ、二組ほどね。 二組ともどれだけ待っても着るの一点張りだったから、ひと月後で予約を入れておいたけど、不安ね」
「そうだな。 こればっかりは、客に向かって痩せて下さいとは言えないからな」
フラン達が笑っている。
アラクネの糸『魔繊維』と加工出来る技術【魔裁縫】を持つ裁縫士に、俺の【伸縮魔法】で【魔法付与】を使った服作りが優先だな。
「他に問題は無いか?」
「そうね、問題では無いけどユイが頑張りすぎているのが気になるわね」
「そうか、まぁ初日だったし暫く様子を見てくれ」
「分かったわ」
ユイは、既に下で店の掃除を始めている。
彼女なりに恩を返そうとしているのだろうが……
隣で食事をしているライラに、
「ライラ、結界はどこまで大きく出来る?」
「うーん。 この家の大きさが今迄の最高になるかな?」
「そうか、ありがとう」
「タクト、相談があるんだけど」
フランがライラとの話が終わると同時に話し掛けてきた。
「なんだ?」
「実は、思った以上に写真を撮るから『MP回復薬』が無くなっちゃって……」
「この間、買ったのは?」
「……全部無くなりました」
一日一本としても二週間分はあったはずだ。
それを一週間もしない間に消費するなんて……
「フラン、写真を撮りたい気持ちはよく分かる。 しかし身体を壊したらその写真も撮れなくなるんだぞ!」
「……はい」
「仕事の範囲だと、一日に一本飲むかどうか位の筈だよな。 何をそんなに撮っているんだ?」
フランは、仕事中でも俺が予想していた十倍近く撮っていた。
俺の計算では、写真は一組二枚だから失敗しても十枚と計算していた。
しかし、フランは色々なアングルから撮りまくっていたらしい。
「フラン、写真は量でなく質なんだぞ」
「……はい」
「趣味と仕事は違うんだからな」
「……スイマセン」
「納得いく物を撮りたい気持ちも分かるけど、どこかで線引きするようにしてくれ」
「……はい」
「MP回復薬の飲み過ぎは、体に悪影響なのも知っているよな」
「……はい」
フランは、俺に叱られて落ち込んでいた。
「はいはい、そこまでね」
マリーが会話に入って来た。
「フランが頑張っているのも分かるから、もう少し力を抜いて頂戴ね。 ポーズをとっている御客様も大変なんだから」
「……そうね」
「フランも弟子を取った時に、弟子が同じことをしていたらどうする?」
「……多分、タクトと同じことを言うと思う」
「分かっているなら、大丈夫ね!」
マリーはフランの肩を軽く叩いて、
「さぁ、仕事の準備に入るわよ!」
大きな声で、皆を引き連れて降りて行った。
人の上に立つ人物は、生まれ持っての天性だと思う。 マリーにはその天性があるのだと思う。
マリーを店長にして良かった。