149話 ガイルの悩み!
「はい、分かりました」
フランとマリーは、諦めた顔で俺を見ている。
ユラはずっと下を向いたままだ。
「ユラ、この怖いお姉さん達もお前と同じ境遇だったから、相談に乗ってもらうといいぞ!」
「……同じ境遇って、奴隷市場に行ったの!」
ふたりが物凄い顔で俺を睨みつける。
「違う! 昨日話したスラムの娘だよ。俺ってそんなに信用無いか?」
「無いわね」
「うん、無い」
……そうなのか。
「まぁ、それは冗談だけど、ユラちゃんて言ったかしら、とりあえず食事でもして話を聞かせてね」
フランが優しく、ユラをテーブルに誘導する。
「あっ! タクトの分はユラちゃんにあげるから、外で食べてきてね!」
「……はい」
ゴンド村の村長に連絡をする。
「すまないが、追加で三十人弱を移民させたいと思う。 子供も十人弱いる」
「なんと! 急ですな。空き家が数軒ありますが、それだけの人数が住むのは少し厳しいかも知れませんぞ!」
「分かっている。 暫くは野営等をしてもらうつもりだ」
「そうですか、タクト殿の事ですから心配はしておりません」
現状の村人と同数に近い移民が来るという事は、村自体が変わってしまう恐れがある。
上手い事やらなければな……
村長は、コボルト達が今日耕してくれた畑で、今までよりも二倍近くの作物が育てらえると喜んでいた。
畑は広くなっても育てる人が不足している為、移民自体は賛成らしい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ギルド会館内のガイルの店で、夕飯を食べる事にした。
店に入ると、俺の他にも十人程度の客がいる。
ギルドメンバーに軽く挨拶を交わして、カウンターに座る。
暇なのか、俺を見つけたガイルが寄って来た。
「暇そうだな」
「うるせぇ! そんなこと言う奴には料理出さねぇぞ!」
「冗談だよ」
ガイルに酒を奢り、カウンター越しに話をする。
今迄、何人もの冒険者を見てきているが、最近は気合の入った冒険者が居ないと嘆いていた。
「お前位だよ、見ていて将来が楽しみな冒険者は……」
寂しそうに、ボソッと呟いた。
「俺もそろそろ引退かな……」
「何言っているんだ? あと十年は働けるだろう」
「いやいや、身体が年々言う事が聞かなくなってきているのが、自分でも分かるんだ。 納得いく料理が出せなくなったら料理人失格だ」
「この店は、どうするんだ?」
「そうだな、弟子でもいれば継がせてもいいが弟子もいないし、息子も継ぐ気が無くて別の仕事してるしな」
「経営的にも厳しいのか?」
「それは無いな。酔っぱらって壊した物は必ず弁償してくれるし、ツケ払いを踏み倒す奴も居ない」
「そうか。 俺的には、ガイルの料理が食べられなくなるのが、一番残念だけどな……」
「嬉しい事言ってくれるね」
しんみりした会話になってしまった。
「ふたりして、どうしたの?」
背後から、シキブが声を掛けてきた。
「ムラサキはどうしたんだ?」
「家で酔っぱらって寝てるわよ! タクトがここに来るのが見えたので、飲み直そうと思って来ちゃった!」
ほんのり酔っぱらっているようで、御機嫌だ。
「それで、何を話してたのよ」
「あぁ、実はなガイルが店を閉めようかって悩んでたんだよ」
「えぇーーー! 何でよ! そんなに経営苦しかったの!」
シキブが、いきなり失礼な発言をする。
「違うんだって、実は……」
先程、ガイルとの話をシキブに説明する。
ガイルも気まずそうに聞いている。
「そんなの簡単じゃない」
「何がだ?」
「だって、弟子が居ないなら今から、弟子を取ればいいだけでしょ!」
自慢げにシキブが話すが。
しかし、ガイルは、
「そんな簡単なら苦労しない。料理人は腕もあるが、それ以上に向き不向きがある。 特に俺のような店は大衆酒場も兼ねているから、そんな料理人はなかなか居ないんだ……」
「そうなんだ……」
あっさり否定されてしまい、シキブはガッカリしている。
料理人であれば、一つのジャンルを極めたいと思い志す者が多いのだろう。
「そんな、すぐには閉めないから安心しろ!」
俺達を慰める。
「本当に頼むぞ」
「そうよ! 勝手に閉めないでよ」
シキブが詰め寄ると、ガイルも苦笑いしていた。