136話 開店と店主の挨拶!
開店一〇分前に、マリーに連絡を取ると準備は整っているらしい。
皆、緊張していると言うので「俺もだ!」というと、笑って「冗談でしょ!」と返された。
一応、責任者として開店前に店先で挨拶しようかと思ったが、俺では丁寧語が使えないので、マリーに店主という肩書を与えて、挨拶を頼んだ。
当然、反対されたがマリーしか頼めないと言い、フランやライラも同調してくれたので、渋々ながら承諾してくれた。
開店五分前になると、扉が開きマリーが姿を現した。
心なしか俺を睨んでいる様にも思える。
「本日は、『ブライダル・リーフ』の開店に朝早くから御越し頂きまして、誠に有難う御座います」
透き通る声で、店主らしい言葉で挨拶を始めた。
その後も短くはあるが誠意が伝わる素晴らしい挨拶だ。
俺の思っていた以上の出来だった。
俺であれば、普通に喋れてもあれほどの挨拶は出来なかっただろう。
「では、開店致します」
締めの言葉と同時に開店した。
どこからともなく拍手の音が聞こえた。
まずは、三組づつ入店させる。
外から見ていたが、マリーは怖気付くことなく客相手に丁寧な説明をしている。
「あそこの姉ちゃんて、角の食べ物屋でよく皿を割って怒られていた娘じゃないか?」
「いや違うだろ? いつもオドオドしていた娘が、あんな接客出来るかって!」
通行人がマリーに気付いて噂をしていた。
飲食店で働いていた時は、そんな感じだったのか。
一度くらいは見ておけばよかったかな……
店内では受付をしてから、指輪を見せて商品説明後に、写真スタジオをフランがサンプル写真を見せて説明しながら見学をする。
最後にマリーの所に戻ってきて契約する流れだ。
契約の間、他の客はマリーが説明し終わるのを待つ事になるが、飲み物や菓子を出してサンプル写真を幾つか見て貰いながら、待って貰う事になる。
最初は、マリー達も戸惑っていながら接客をしていたが、数組接客終わった頃には、スムーズな流れが出来ていた。
何組目かで、マリーが受付場所から立ち上がり裏に回った。
その直後にマリーから連絡が入る。
「どうした、トラブルか?」
「そうね、ドレスが着れない体型の人から、どうしても着て写真を撮りたいと聞かれて困ってね……」
ドレスのサイズはひとつしかないので、サイズから外れたら着れない。
その為、ドレスの着用はオプションとした。
「それなら、二週間後に合うサイズのドレスを用意するので、待ってもらえるか確認してくれ」
「分かったわ」
「それと承諾が取れたのなら、ふたりの名前と住所を聞いて、今日の日付と二週間後の日時を書いた引換券を渡してくれ」
「そうね、割印での確認もしておくわ。 料金は後払いで良い?」
「そうだな、半分だけ貰って引換券に書き足して、説明をしてから渡してくれ」
「えぇ、ありがとう」
咄嗟に割印が出てくる所は、流石は商人の娘という感じだ。
マリーに言われて、簡易の印鑑を作っておいて良かった。
こういうところは、魔法でないのも不思議な世界だ。
しかし、前世での記憶ではドレスのサイズって、確か事細かにあったんだよな……
SMLのサイズ分けした服しか着たことないもんな。
そもそも、オーダーメイドのこの世界で、汎用着衣の概念が無いから、シロやクロに聞いても分かんないだろうな……
指輪のように伸縮出来れば問題ないんだけどな……
そうだよな! この世界は魔法が使えるんだから、汎用であれば制作可能じゃないか!
なんで、誰も気が付かないんだ?
そもそも、衣類は対応出来ないという事なのか?
困った時の【全知全能】だ!
この世界で、伸縮可能な衣類製作は可能かと尋ねる。
答えは「可能」だが、指輪と違い各部分への伸縮する比率や、資料する糸も『魔繊維』と呼ばれるアラクネから取れる糸を紡がなければならない。
この技術は、エクシズでは広まっていない技術らしい。。
アラクネの糸か……
たしか、以前にカンナが最高級品と言っていたよな。
続けて、技術が広まっていない理由を聞く。
要因は、アラクネの糸の入手性や、アラクネによる紡ぎ作業であり、魔繊維を意識した裁縫スキルを持った者が居ない事、そして【魔法付与】をする工程になる。
【魔法付与】は【状態変化】という『錬金術師』のスキルが必要になる。
素材の入手性と、加工する者との関係性もあるな。
魔繊維が扱える裁縫スキルを習得する可能性はあるのか。
答えは、裁縫スキルを持っているのであれば、魔繊維の特徴を意識すれば、【魔裁縫】というスキルを自動的に獲得可能だった。
そうであれば、裁縫スキルがあれば誰でも作れるという事か……
この技術は確立させて、商品として売りたいな。
俺の【魔法付与】と、シロやクロ達に【魔裁縫】を習得させれば、問題は素材の入手だけだ。
カンナの件もあるので、早めにアラクネの生息地域を探すか。