134話 母の恩人!
「大丈夫か?」
多重人格者との接触は経験が無いのでこういう場合、なんて声をかけていいのか分からない。
「もう、大丈夫なの~! ローネが納得したので私も納得したの~!」
「そうか、ありがとう」
ネロの頭を撫でる。
これからリロイ達と会うが、ネロは母親キュロイの友人だったという事にする。
吸血鬼という事を伝えないと、見た目とのギャップがありすぎるので仕方ない。
ネロには、キュロイがサキュバスという事は絶対に言うな! と念をおす。
勿論、マイクの事も同様だ。
「わかったの~!」
ネロが返事をすると、扉の外にマイクが居た。
敢えて、会話の邪魔をしなかっただろう。
「お久しぶりです。 ネロ様」
「あ~、マイク! ひさしぶりなの~!」
懐かしの御対面というやつか。
魔族や人族も含めてだが、時間の価値観が異なる。
当然、人族の中でも人間族が一番寿命が短い。
力があるわけではないが、他の種族よりも魔法を習得する数が多く、知能が少しだけ高い。
だから、商人ギルドは人間族が比較的に多い。
反対に、冒険者ギルドには後衛職に少し居る位で、前衛職は殆どいない。
王族や貴族には、人間族が多い。
要は、人を欺いて富や名声を築いてきたのだろう。
まぁ、俺の勝手な推測だが、この世界で見聞きした内容だと大きくは外れていないと思う。
ネロとマイクの懐かしい話も一段落したようなので、リロイ達の待つ部屋に行くとする。
部屋に入ると、リロイが駆け寄ってきて両手を握られて、丁寧に礼を言われる。
リロイも、ニーナも疲れているだろうに……
「お前がキュロイの息子か?」
俺の足元からネロが顔を出した。
「こちらの御嬢様は、どなたですか?」
リロイが不思議そうに質問をする。
「こいつはネロと言って魔族だが、お前の母親の友人だ」
誤解を招かないように、慎重に言葉を選んで紹介する。
「ネロ様!」
リロイより先に、ニーナが声を上げた!
しまった! ニーナへの根回しはしていなかった。
ニーナの声に振り向いたリロイだが、落ち着いた口調で、
「ニーナ、驚かせて申し訳ない。 ネロ様は第二柱魔王で、母の恩人なのです」
俺とマイクは、驚いた。
リロイには、ネロが魔王である事は勿論だが、キュロイの恩人である話はしていない。
「ネロを知っていたのか?」
「はい、お名前だけですが。 母とよく二人っきりになる事がありましたが、その際時々ネロ様との話をして頂きました。 大変お世話になったとよく話していたので、覚えております」
キュロイも常にネロへの感謝を忘れていなかったのか……
リロイもその話を聞いていて、相手が魔王なので叶わない夢かも知れないが、いつかはネロに会いたいと思っていた。
「タクト殿、ネロ様と引合せて頂き本当にありがとうございます」
リロイは、先程以上に興奮気味で礼を言う。
足元のネロが照れているのが分かる。
リロイは膝を曲げて、ネロの目線まで自分の目線を下げて、
「初めまして、ネロ様。 キュロイの息子リロイと申します。 ネロ様の事は、常に母から感謝してもしきれない恩があると幼き頃より聞いております」
「リロイは、キュロイに似てるの~! なにかあれば助けるので必ず言うの~!」
口調こそ、いつも通りだがキュロイを助けられなかった悔しさが籠っていることは分かる。
キュロイの置き土産であるリロイは、何としても守りたいのだろう。
ネロは、リロイとニーナ、マイクとソファに腰かけて若き日のキュロイについて話していた。
サキュバスなのを隠しながらも違和感のない話は、ただの仲の良い者達の話だった。
リロイは、自分の知らなかった母親の話を幸せそうに聞いていた。