108話 物件探し!
昼食後、シロとクロを連れて物件探しの為に街に出る。
御嬢様姿の可愛らしいシロと長身でイケメンな執事風のクロに挟まれる、村人姿の俺。
分かってはいたが、周りの注目度抜群だ。
「ふたり共、希望はあるか?」
「私個人ではありませんが、商売という事を考えると上階に居住スペースがあった方が宿代も含めてお得かと思います」
「そうですね、防犯も含めて居住スペースはあった方が良いと思います」
「なるほどね。 ん?」
前から、シキブとムラサキが歩いてきた。
ムラサキが気付き、
「なんだ、買い物か?」
「あぁ、家探しだ」
「……相変わらず、凄い事をさらっと言うわね」
「事実だから仕方ないだろ」
「そうだけど、まぁ私達も同じようなものだけどね」
「愛の巣を買うのか」
「もう愛の巣だなんて!」
俺の肩を凄い勢いで叩く。
周囲の通行人が、何事かと皆見ている。
当然だが、ダメージは無い。
「それなら、一緒に行っていいか?」
「あぁ、構わんぞ」
ふたりと一緒に不動産屋らしき店に入る。
陽気な店主がいつも通りの営業な挨拶をして、物件の要望を聞く。
金額や間取りや、立地条件に築年数。
ふたりで色々と相談していたが、俺が調べた相場よりも二割~三割高い。
物件を決めようとしていたが、
「店主、これ全体的に高いよな? この店は、高い理由が何かあるのか?」
「何を言われますか、この街の平均で御座います」
「あ、そう平均ね。 シキブにムラサキ他の店に行った方がいいぞ、この店は高い設定での販売らしい」
「御冗談を! 適正価格での販売しかしていませんよ」
クロが後ろで嘘だと呟いたが、クロに言われるまでもなく嘘なのは分かる。
「俺は他の店で、家買う事にするわ。 こんな所では買えん」
「ちょっと、タクト!」
「御客様! 言いがかりは止めて頂けますか、商人ギルドでもランクBの私に向かって失礼ですぞ」
「俺、ランクSだぞ」
ギルドカードを見せる。
店主は、本物を見た事が無いのか驚いている。
「ランクを交渉に出すって事はそれなりの覚悟があるんだよな」
「あぁ、いえ」
「ランクSは街の監査も兼ねているから、報告しておくわ」
「それは、ちょっと困ります」
「適正価格で販売しているなら、困ることないだろうが!」
「そうですが……」
「そういうことなんで!」
帰ろうとすると、店主が扉の前まで走って来て
「申し訳御座いません。 どうか報告だけは……」
俺の腕を握り、必死に願い出る。
「そんなことは知らん」
「御願いします」
「ダメだ」
離そうとしない。
本気になればすぐ解けるが、
「じゃあ、俺達に好条件の物件を、適正価格より少し安く売ってくれ!」
「えっ!」
「嘘を付いても分かるから、チャンスは一回だからな」
「それじゃ、店の儲けが……」
「今迄、嘘をついて必要以上に儲けがあったんだろう」
「……はい、分かりました」
店主は観念していた。
「ムラサキ、今より高条件な家を少し安く買えるぞ!」
俺の声に反応してムラサキ達は、妥協して諦めた物件を見直し始めた。
「店主、俺達にも物件を見せてくれ」
「はい、かしこまりました」
この世界は、交渉せずに言われたまま物をそのまま購入するのだろうか?
宣伝らしきものも無いし、人通りの多い場所に店を構えた方が有利という事だな。
それに、ある程度高い値段を提示して、その後割り引けばお得と勘違いしてしまうのか?
商人次第で、どうとでもなるということか?
「御主人様、これはどうですか?」
四階建で一階は商業スペースで二階は商業スペースとキッチンとで半分、少し小さな部屋が、一つある。
三階と四階は居住スペースで、屋上はフリースペースになっている。
場所はギルド会館のほぼ前だ。
多分、ひと際高いあの建物なのは想像出来た。
しかも築二年程なのに、価格が他の物件に比べて明らかに安い。
同条件の物件に対して六割程度の価格だ。
「店主、この物件だが何故こんなに安いんだ?」
この家は中規模都市の商人が貴族も泊まれるような高級宿屋を目的として建てたが、工事中に怪我人が多数出たり、商人と従業員がオープン前に試しで住むと、幽霊か魔物が出るとかで、すぐに売却したそうだ。
その後、すぐに売れて購入者が引っ越してきたが、同じような理由で数日後には出ていき、すぐ売りに出された。
なるほどね。訳あり物件てことか!
「持主も被害を恐れて、早く手放したいらしいのですが値段が下がっても、なかなか買い手が付かない状態なんです」
これは、その幽霊か魔物を問題を解決すれば、物件としては最高じゃないか?