18話
視界が無い。
真っ暗だ。
体は動かない。
俺は今どうなってるんだ?
息が、苦しい。
意識が…飛びそう、になる。
頭が、体が熱い……いや、寒い…
体の、感覚は、もう無いに等しい。
俺は、死ぬのか?
まだ……死ぬわけにはいかない。
シル、フィ。
せめて君に告白させてくれ!
神よ、いるのなら俺を助けろ!
シルフィに告白しないと俺は死に切れない!
シルフィのことを考えていたら少し楽になったかもしれない……
「……ぁ!…………ぁ!」
「…そぃ!……ぅ!」
「…………ぉ………………わ!」
なにやら声が聞こえる……どうやらまだ耳は使えるらしい。
この匂いは……精神を癒す香……か?宮廷医が好んで使っているやつだな…
鼻もまだ使えるらしい。
案外まだ俺は大丈夫なのかもな。
意識もだんだんはっきりしてきた気がする。
必死に身体強化してこれか……いや、これならまだ……
少しだけ目を開ける。
少しぼやけてはいるがそこにはシルフィと宮廷医と御者のラナンらしき人影を見た。
宮廷医はどうやら診察してくれているらしい。
大丈夫だ。どうせ過労で倒れただけだから。
シルフィのスケジュール通りに動いていればギリギリ耐えれたんだろうけど最近スケジュール無視してたからなぁ…
「…結核……と…」
……え?今なんて言った?
「おい!宮廷医だろうが!………………殿下を直せよ!」
「無理だ……」
「なんて言った!」
結核……嘘だろ……
そんな……不治の病だなんて……
「儂は……戻るよ」
「諦めるのかよ!」
「もし…………しれん。…………様…な薬……試す。………………しか無い」
宮廷医……くそっ、なに言ってるんだ……
どうにか手をつき立とうと思ったが手は動かず椅子の冷たくも暖かくもない感触が手から伝わって来た。
うっ……意識がまた……魔力は後……ほとんど残って無い…嘘だろ……
ガタンっ!
馬車が揺れる。
おそらく私から皆隔離されたのだろう。
ここまで進行してはもう…手遅れだから……
「……ぁ。…………ぃ」
これは?シルフィの声か?
あぁとうとうお迎えが来たか……天使か死神か知らないがシルフィの声を出すなんて許せないな。
と思っていたら口になにか硬質なものをあてがわれている。
そしてそこからなにやら一気に液体が流れ込んでくる。
飲み込もうにも俺にそんな体力はもうない…
どうにか窒息ギリギリのところで液体の追加が止まり硬質な何かは俺の口を離れた。
少量づつゆっくりと飲み込む。
味はしない……味覚は壊れているのだろう
が体の底から活力が少し湧いたのを感じた。
この液体は何かわからないが俺を助けるものだと確信した。
きっと神は俺に天使をよこしてくれたのだろう。
死神だったなら液体は毒で硬質なものは鎌だっただろう。
そして俺は死んでいた。
神と天使に感謝だな……またシルフィに会える…
だんだんと五感が覚醒していく。
鼻をシルフィの香りが突き抜けた。
頭に柔らかな感触が伝わる。
ほおにも……これは手か?
そして唇に柔らかいものがつけられた。
柔らかいものからは先ほどよりも生命の力を感じる液体が口の中に入ってくる。
これが天使のキスか……
無意識に俺は液体を一滴でも多く得ようとした。
そして柔らかい感触が唇から離れる。
もう少し堪能したかったがシルフィ以外のものはお断りだからな。
それがたとえ天使でもだ。
まぁ今回は許してやらないこともないが。
……どうだろうか、シルフィにもっと大胆でいいと言われたからこんな不遜なことを言っているが似合っているだろうか。
シルフィから見た俺はどうなんだろうか。
魅力的なんだろうか。
ちゃんと異性として見てもらえているのだろうか
意識がはっきりして来た。
目を薄く開けると影が迫って来た。
そしてまた唇に柔らかな感覚を得た。
今度は一気に液体を流し込まれた。
まぁ今回は窒息しないからいいものの……天使よ殺すつもりか?
唇が離れるとだんだん近すぎて見えなかったその姿が見えるようになって来た。
出るところはしっかりでているが基本は引き締まった体がジャケットを脱ぐことによって強調されている。
そしてジャケットを俺にかけると彼女は倒れるようにベッドに伏した。
そこには二つの見覚えのある独特な形をした空のガラス瓶が転がっていた。
どうして君が俺と同じ部屋にいるんだ!
俺は隔離されたんじゃなかったのか!
なんで2本あるエリクサーを両方俺に使ったんだ!
口移しなんてしたら絶対に感染するのに……
どうしてっ!?
どうして俺じゃなくて君が倒れているんだ!
どうして俺の代わりに君が倒れるんだ!
なぁ、今すぐいつものようにできるメイドみたいな顔して俺の横についてくれよ!
シルフィ!
宮廷医は?……くそっなんで宮廷医と一緒に行かなかった!
シルフィ!
どうして残ったんだよ……俺はお前がいなかったらなにもできねぇよ……
なぁシルフィ……どうして……どうして……
あぁ、みっともない。好きな女の前で泣くなんてな。でもいいだろ?シルフィがいなくなるかも……いや、いなくなるんだろう。
「俺はこれからどうしたらいいんだよ」
俺はシルフィの手を握る
日は既に傾き満月が半分だけ地平線から姿を見せていた。
シルフィは眠っているように動かなかった。
だがその手はたしかに人の温もりがあった。
「なぁ、シルフィ」
小さな声で俺は呟いた。
ただただ自分が無力な存在に思えた。
その時馬車が揺れた。
「シュコー……できました!できましたぞ!シュコー……」
「シュコー……できましたよ殿下!…シュコー…」
全身を白い服で包み怪しいマスクをして馬車を開けたのは宮廷医と御者のラナンだった。
この時、俺には彼らが勇者か救世主に見えた。




