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天邪鬼な君に  作者: 森 彗子
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第2章 それは恋。きっと恋。

理屈じゃ説明できないことが起きている


それは頭の中で突然始まる


止まらない妄想と現実の狭間で


私は自分が別人に変わっていく恐怖と戦っていた





*



自分と同じ制服を着た彼女が、三つ年上の元カレとキスをしていた。


そこは彼の家の彼の部屋。

少し男臭い狭い空間に、二人きり。


ドアを閉めた瞬間から、彼の情熱に火が灯り、彼女の身体に熱が宿った。


ぶつかる視線に意趣を感じた二人は無言のまま隣り合い、顔を近付けていく。

目を閉じた直後に、まつ毛と吐息が顔に触れ、次の瞬間にはもう唇が重なっていた。


彼の手が彼女の肩を掴む。

彼女の手が彼の首を掴む。


互いに引き寄せ合って、初めてのキスが深くなる。


彼は彼女が初めてではなかったのだと、彼女はこの時気付いた。


見知らぬ誰かに嫉妬しながらも、徐々に傾く自分たちの身体はそのままベッドに転がり、埋もれていく。


覆いかぶさってきた彼が顔を離して、情熱的な視線を注いだ。

その目には普段の優しい彼とは違う、ギラギラとした欲望の炎が揺れていた。


彼の瞳に包み込まれた彼女は、覚悟を決めて強張る肩の力を抜いていく。

我が身も心も彼に差し出すことに、躊躇いはなかった。


恥じらいながらも彼女は大胆に……


「えりん!えりん!!」


洗面所で歯ブラシを咥えて妄想していた私に、ママが腕を引っ張って呼び覚ました。


呼ばれて飛び上がるとはまさにこのこと。

驚き過ぎた猫のように、私の身体はビクッと反応した。


顔を向けるとすぐ近くからママが私を見詰めていた。


あ、いや……!


覗かれちゃう!?


私は慌てて両手で頭を覆い隠した。

そんなことしても意味があるのかどうかわからないけど、しないよりはマシ。

 

「どうしたの?ボーっとして。何か考え事してた?」


のんびりとしたママの口調と、キョトンとした目つきから判断すると、ママは私が妄想していたことは視えていないようだ。


「別に…」


しどろもどろを隠すには便利な三語を使う。

ママだけはどういうわけか小さく納得したように頷いて微笑んでくれる。


「はい、これ。お気に入りのハンカチ、パパがアイロンかけてくれてたわよ」


ママから渡されたのは、私の一番のお気に入りの白と水色のストライプのハンカチだ。それを受け取って、私は制服のスカートのポケットに突っ込んだ。


ピンポーン、と玄関でチャイムが鳴った。

ちずがようまを迎えに来たんだ。


佐藤ちずは小学校時代に出来た唯一無二のトモダチだった。


彼女は平均的よりもかなり大柄な体をしていて、手足も長くスタイルが良い。陸上で鍛えられた肢体はしなやかな曲線美といったところだ。顔は、まぁ個人の好みにもよるけど、私の目から見ても可愛い方だとは思う。とびきりの美人ではなくても、彼女には他では見ないシリアスな影があって、わかる人にはきっとわかる魅力が備わっている。


ちずは中学の三年間は隣町で過ごした。

両親が再婚したのにまた離婚したせいだ。

子供にとってはかなり迷惑な話だとは思うけど、うちのように両親が仲良過ぎるのもかえって珍しいみたいで、ちずと私の間で「足して二で割りたいよね」って言ってる。

そんなこんなで、ちずは高校をわざわざ田舎の過疎化進行中の公立高校に選んで通ってくることにしたというかなりの変わり者だ。

その理由は明白で、彼女はずっと昔から燿馬に片思いしている。


彼女の一途な片思いは8年目になる。


それはまるで、ママとパパの10年越しの初恋を実らせた伝説とリンクしている気がする。

だけど、燿馬はちずに一ミリも特別な感情は持っていない。それが私には手に取るようにわかってしまうから、話を聞いていてとても辛い気分になってくる。


燿馬は鈍すぎる。

女心なんて微塵も考えられない。


その上、顔だけはイケメンなパパに似てしまって「一目惚れられ率」が異常に高い。

その目立つ容姿とは裏腹に、あいつの性格はとてもじゃないけど一般的な感覚がまったく通用しないから、ちょっと会話すれば大抵の女子は目が覚める。


覚めないのも稀にいるけど。

ちずはその代表みたいな例だ。


取り敢えず離れていた3年間の空白を埋めたくて、とちずから相談された私が提案したのは朝一緒に学校まで歩くこと。自然な会話ができるようになるまで、リハビリのつもりでがんばるようにとアドバイスをしてみた。


その自然な会話というものが燿馬に出来るのかは、私は保証できない。

あいつは基本、他人に興味がないからだ。


相手にも感情があることをまるで知らないかのような自由過ぎる発言と態度。

いつまで幼稚園児みたいな兄を、私はとても情けないと思ってしまう。


堂々と無視するのは生まれた時からあいつの常套手段だけど、もう高校生なんだから本音と建て前の区別ぐらいして、ちゃんとした対応を心がけて欲しいものである。


周りが戸惑っていて、自分が相手を困らせていることを肝に銘じるべきだ。


あいつの考える平和主義の世界には自分しか存在していない。


それが問題だ、と私は考える。



あんないい加減なヤツがどうしてちずみたいなしっかり者に8年も好かれているのか、意味がわからない。


ちずの片思いを応援したい気持ちはすごくあるのに、同時に燿馬となんて絶対にやめておけという強い気持ちも出てきてしまう。あいつに女の子を楽しませたり幸せにできるような甲斐性なんか期待するだけ無駄だからだ。


トイレから出てきてまだズボンのファスナーを上げているだらしなさ。


そして、ベルトをガチャガチャと弄る音を聞かされると、私の脳内でまた止まらない妄想劇が動き始めてしまう。


その妄想のきっかけはちずが貸してくれた恋愛小説だった。


目を背けたくなるほどにリアルに描写された恋愛模様に、私の心臓は何十回とクラッシュした。


好きと告白するまでが10代の恋愛クライマックスだと思っていたのに、そうじゃなかった。


キスがゴールではなかったのだ。


しかも、元カレは今カノとも同時進行形で二股をかけ、ヒロインは自分の愛情を彼の性欲に応えることで証明している。


痛すぎる!


これはれっきとした詐欺事件だ!!



保健体育や家庭科で散々、家族計画とは何か、性病の感染予防や避妊の知識等の授業は受けたけど、恋愛感情を伴う性行為によって望まない妊娠や重度の性感染症に感染するリスクうんたらかんたら以上に、どうして学校は生徒に健全な恋愛関係の結び方、営み方を教えていないのか甚だ疑問に感じた。


健全な付き合い方がわからない世界に放り出され、時が来れば恋愛適齢期に突入して流されるままに恋愛関係を結ぶって、とっても危険なことのはずなのに。どうして大人は子供にちゃんと教えないんだろう。身体の知識だけじゃなく、心を弄ぶ罪深さに警鐘を鳴らしてくれないなんて、犯罪に目をつぶっているようなものじゃないのか。


『男の「好き」はあてにならないから、女は賢く見極め期間を設けましょう。』

そんな風に教科書に書いてくれていたら、いわゆる「ヤリ逃げ」被害はもっと未然に防げると思う。


よって、高校生の恋愛は不純だと確信した。


私は断固として不純異性交遊は認めない。



高校生男子の恋愛とは、セックスをするための便宜であるという事実を意識すべきなのだ。

好奇心故のセックスに対する過剰な期待が恋愛感情だと勘違いしているに過ぎない。

面倒な女は嫌うくせに、自分がやりたくなったら好きな方の女を呼び出してやりたい放題。


燿馬が性行為の快楽を覚えたらとても悲惨だ。


あいつが猿山のボス猿のようにハーレムを形成なんかしはじめた日には、うちに身体目的の女の子たちが押し寄せてきて、毎日隣の部屋でいかがわしい行為をされるのだと想像するだけで、


もう無理!


最低!!


アイツのやつをちょん切って

ミンチにしたあげく生ごみとして捨ててやる!!




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