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約束の地  作者: 黒瀬新吉
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89.第一のアクシデント

第一のアクシデント


「さあ、これからの俺の仕事は無事地球に帰るだけだ。ところでサクヤ、カプセルのなっぴの様子はどう?」

「ご安心ください、脈拍、血圧も共に正常に戻りました。マナを急に消費したために一時的な貧血になったようです。地球に着くまでには元通りになると思われます」

「そうでなければ彼女らの助けにならないからな。そうだ僕なりに石化を解く方法の研究でもしておこうか、新しい発見があるかもしれないし……」


駿河哲生が「スリー・A」のデータバンクを開き「アマネ・ゼロ」について照会した際、耐圧殻についての論文が「宇宙空間」から更新されていたのは、アマネの協力によるものだったのだ。その事にタイスケは謝意を表し、アマネの名を「アマネ・ゼロ」として併記しておいたのだ。地球についたアマネはその論文の内容まで読んではいなかったため、ジーザス・コア計画の第一人者「橘雄馬」を利用しようとしたのだった。井上教授の下、海底探査用耐圧殻の研究に埋没していたタイスケは橘雄馬と面識はなかった。またその娘亜矢達とは世代も違っていた。しかし、現在の地球の未来を背負っているのは、紛れもなく亜矢達だったのである。アマネの送った念波は祖母「ラナ・ポポローナ」と同じくオロシアーナとして覚醒した「ミーシャ」こと「井上美沙」が受け取ることになるのだが、それは随分後のことになる。


そしてアマトはジガと別れ、外宇宙をを進む。地球を目指すタイスケたちは冥王星を過ぎ、着実に地球への帰還を続けていた。


「流星群到着まであと5分」

サクヤがタイスケに告げた。何度か遭遇したような多少の流星なら、サクヤのオートクルーズでしのげる、しかし太陽系に近づくにつれ、アマトに向かってくる流星の数が次第に増え始めていた。

「冥王星を過ぎた頃から、やけに流星が増えた。しかも『カロン』(※冥王星の衛星)ほどの流星まで混じっている、いくらコーティングされたアマトとはいえ直撃されればただでは済まない」

右に左に旋回し、タイスケは流星の進行方向を予測するサクヤの指示に従い次々と流星を回避し続けた。その時アクシデントが発生した。巨大な流星同士が衝突し、アマトの直前で数個に砕けたのだ。

「まずい、衝突するぞ!」

直前で軌道の変わった流星の直撃を受け、アマトは「ビーン・ボール」のように弾かれた。その衝撃でタイスケは床に飛ばされ、艦内の電源が一瞬で落ちた。


マイはアマトに最初のアクシデントが起きた時、ルノクスの通信室にいた。流星群がアマトに衝突したため一時的に航行不能になったことを彼女はその部屋で知っていた。なっぴに贈った「ハニカム・モニター」はアマトが外宇宙航法に移った際、その衝撃で砕け散り、すでに役に立たない、だがマイには「味方」が付いていた。


「非常事態だわ。なっぴは今は治療カプセルの中、タイスケがもしあのまま気付かなければ外宇宙の時間の流れに包まれ、生身の身体がきっと持たないわ……」


その音声は、聞き覚えのある少女の声だ。通信室の次元レーダーとスピーカーからの音声が響く中、来訪者があった。

「マイ、入るわよ」

「テンテン、あなたどうしてここに?」

「知ってるでしょう、マイ。私となっぴのシンクロ率、99.9%よ」

「だってカプセルの中でなっぴは眠っているはずでしょう?」

「ナナイロテントウを通じてなっぴの異変が伝わったの、それより一刻も早くサクヤを再起動させて。でなきゃあタイスケが危ないわ」

「わかった、でも動けるものが誰もいないアマトでどうやってタイスケをカプセルに運ぶつもり?」

「そっか……」


再起動の電子音がアマトの鑑内に響き、サクヤのオペレーションが稼働し始めた。と、そのコマンドに反応して艦内にゆらめく影がひとつあった。それを見てテンテンは微笑んだ。

「マイ、さすがにこうなることも想定していたのね」

「まあね、あなたにも内緒にしていてゴメンなさい」

「ううん、あの娘の姿が見えなくなったから、実は私も薄々気付いていたんだけれど」

「ナナ、お願いね」


『ナナ』とはヒドラの精だ。マイがヒドランジアとして覚醒した際も、ナナの力を借りた。『ナナイロテントウ』としてなっぴを助けたこともある。そのナナがアマトに乗り込んでいたのだ。流星の直撃でもアマトが無傷だった分、耐圧殻に織り込まれた『原始生命体』はかなりのダメージを受けた。それはナナもまた同じだった、アマトにコーティングされた原始生命体の細胞組織を操り、ナナはなんとか頑丈な骨格を作流。それがインセクトロイド・ノアだ。骨組みだけの『骸骨』がタイスケを抱えてなんとかカプセルに移した。アマトに不可避な危険が迫った時、一旦アマトは停止し、サクヤが自動的に再起動するようにマイはプログラミングしていたのだった。


「そう、もともとアマトの耐圧穀にコーティングされた「ゴラゾーム」はヒドラから取り出したものなの。あのヒドラの持つ形状が変わる「変異細胞」はまさしくルノクスのイブが生命を生むために使った原始生命体「ノア」と同じだわ」


タイスケの一命を取り留めたのはナナの力のおかげだった。サリナが見た光景、二人がカプセルに入ったままで宇宙を航行していたのはつまりこういう訳だった。


「おばちゃん、ママが迎えに行ってこいって」

「あら、テンリン。どうしてここに?」

「あなたとリンリンは双子でしょう。ここに来てることくらい分かったんでしょう」

「そうね、誰かうちに来たの?」

「うん、パピリノーラ様」

「パピリノーラ様、何かしらね」

実はそう、うそぶく二人ともにまだ隠し事がある、でもそれは知られてはいないだろうとも思うのだった。

「ひとまずこのことは内緒よ、テンテン」

「オッケイ」


だがパピリノーラは何もかもお見通しで、前述した通り、マイたちに甘くはなかったのである。

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