7.ライフ・カプセル
ライフ・カプセル
「カザト様、やはり彼らが申した通りでした。ゴリアンクスもルノクスにも虫人の反応はございません、いやそれどころか両星は既に消滅しております。次元レーダーの時間を進め、この星の時間とシンクロさせてみたところ、既にその空間には母星の影すらございません」
「……そうか、ならばやはりベガの行く先は再び外宇宙、太陽系第三番惑星だな」
「その通りでございます。ルノクスの『レムリア』を追うべきかと」
「エンジンの換装は済んだのか、オグマ」
「出力はベガのものより45%は上がりました。それにこのシリウス型エンジンならルノチウムの消費が少なく、航続距離も格段に伸びました。おっしゃる通り、ルノチウムの補給をしながらの航行が可能です」
「ルノチウムの空間転移の状況はどうだ?」
「おそらくは後数回あれば、この星から外宇宙に向けて飛び出せます」
しばらく思案し、カザトは決断した。
「次のルノチウムの空間転移が済み次第、ベガは第三番惑星に向けて発進する。収容した虫人の回復状況を報告しろ」
「はっ、収容した13名のうち重傷者5名を除き8名は任務に支障なし。5名は引き続き『ライフ・カプセル』にて治療続行中、回復の見込みは30%程度と見られます」
「そうか、その8名を古参に加えてもベガには30名の兵士が残っているだけか……」
「しかし、最強の兵士たちです」
「わかっている、引き続き艦内の整備を怠るな。そう言えば収容した虫人の中に『ザルバ』がいたが」
「既にタキオン粒子砲を磨いております、血は争えませんな」
「ザーラー殿の息子だからな、頼もしいことだ……」
「これで『アマネ』様が加わればどんなにか心強いでしょうに」
カザトの顔が一瞬こわばった。
「言うな、アマネは最後まで二号艦『ジガ』の艦長だった。きっとどこかで生きている」
「……そうですね、漂流者の中でジガの姿を見たというものもおりましたし、重傷者が回復すればきっと何かの新しい手がかりがございましょう」
「アマネはきっと生きているに違いない、私にはわかる。オグマよザルバと交代し、そろそろ休眠カプセルに入れ。古参のものにも伝令しろ」
「承知いたしました、ライフカプセルのチェックが済み次第そういたしましょう」
彼はそう言うとカザトに背を向けて館長室を出て行った。
「オグマ、出発までゆっくり休め。ジガの航跡はもう既に途絶えているのを知っているくせに、私に嘘をつくなど……」
カザトはアマネのことを忘れたことはなかった、しかしそれはサリナの懐かしい思い出としてだ。もはやベガの艦長としてあの頃に後戻りはできない。
「カザト艦長、ザルバ入ります!」
「よし」
認証を終えたドアが開いた。
その頃、オグマは船倉の一角にある『ライフ・カプセル』をひとつずつチェックしていた。5つのカプセルは回復液に満たされ、5体の虫人が収容されていた。その回復液が少しずつ虫人の体内に入っていく、その減り具合が虫人の回復状況を教えてくれた。回復液の量に全く変化のないものはカプセル内の虫人が回復していない、つまり休眠中か残念ながら石化寸前ということになる。オグマはカプセル内の液のゲージと虫人の様子を入念にチェックしていった。しかし彼は険しい顔をして、こう独り言を吐いた。
「ダメだ、回復のペースが遅くなっている。予想以上に石化が進んでいたのか……」
回復の兆しがあるのは最後の1体だけだった。しかしそれはほんのわずかな数値だった。
「もう、彼らが回復する可能性はほとんどない……」
データファイルをデスクの上に置き、オグマは休眠カプセルに入った。
「ザルバが副館長を務める間、何もなければいいが……」
誘眠用の窒素ガスが噴出する前に、オグマは何気なく5体目の虫人の顔を眺めていた。
「おや、気のせいか……」
意識が薄れていく彼の目には、その虫人の顔が少し笑ったように映った。




