表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
約束の地  作者: 黒瀬新吉
6/328

6.腫瘍(しゅよう)

腫瘍(しゅよう)


艦長、カザトは『ベガ家』の王女として生まれた。ゴリアンクス星の三王族『キャステリア家』『アグル家』そして『ベガ家』はルノクス星の巫女と深い縁で結ばれていた。ルノクスのリカーナは『リリナ・スカーレット』と言う名の『イブ』が持つ『再誕の力』を受け継ぎ誕生した。一方ゴリアンクスの王子ゴラゾムは、弟王子ビートラとともにキャステリアに乗り込み、母星を離れる決断をする。星の寿命が近いことを『アグル家』のサクヤに進言されたためである。サクヤは『インセクトロイド・シュラ』を使い、虫人たちの移住先を探査させた。当初のシュラのAI(人工知能)のコマンドにはこう打ち込まれていた。


「……探査先に先住民族がいる場合は、それを殲滅(せんめつ)せよ」


それを良しとしないリカーナに諭され、ゴラゾムは『インセクトロイド・シュラ』の回収をサクヤに命じた。その後のゴリアンクスでは、移住先を探す為に新たに決死隊が編成されたのである。王族の『ベガ家』を中心とした彼らの帰還は『キャステリア』の出航にはついに間に合わなかった……。(なっぴの昆虫王国 シュラ編より)


カザトは館長室に戻ると鈍い銀色のヘルメットを外した。それはとてつもなく頑丈なものだったが、特別に軽い素材でできていた。ヘルメットに押し込まれていた『腫瘍(しゅよう)』が次第に広がり、彼女の左目を覆い尽くした。それにはゴラゾムならすぐに気付くほどのヨミの模様がはっきりと現れていた。彼女は左の脇にまで腫瘍が現れ始めた体を部屋の姿見で確認すると深くため息をついた。


「……この腫瘍が私の運命を変えた……」


彼女はベガの王女であった、決して表には現れない王族として『ベガ家』は『キャステリア家』を支える役目だった。のぞまれたのは『王女』ではない、武王たるべき『王子』だった。ベガ王は彼女の『女』をこのヘルメットに『封印』したのであった。腫瘍に閉じ込められた彼女の『女』を押さえ込める時間は長くて半日程度しかない、しかもそれは外宇宙を航海していたうちに、次第に短くなっていった。ヘルメットを外すことによって猛烈な倦怠感とともに強烈な睡魔が彼女を一度に襲う。そしてこれから半日の間、ベガの王女『カザト・ベガ・サリナ』に戻るのだ。


「オグマはこれを病気と言うけれど、サクヤは心配いらないって言っていた。それにゴラゾム、ビートラ、リカーナも気にするなって。何より私はこの私が好き」

彼女はヘルメットと艦長服を片付けると平服に着替えた。なるほどその華奢(きゃしゃ)な体には腫瘍をのぞくと傷ひとつない。まさしく虫人の王女の容姿だった。カグマ・アグル・サクヤはこの腫瘍の正体を突き止めていた。しかしそれについては後段に繋ごう。


挿絵(By みてみん)


「オグマにも伝えたけれど、胸騒ぎがしてしょうがない。もし彼らが言ったことが本当なら、ベガの行き先を外宇宙に再び変更しなければならない……」

彼らとは流星群に巻き込まれた宇宙船の乗組員、瀕死の状態で収容した漂流者たちのことだった。彼らは『キャステリア』に乗っていたと聞いた。彼らが言い残したのが、すでにゴリアンクスにもルノクスにも虫人は誰一人いないということと、ゴラゾムたちは外宇宙に向かっていったということだった。そして彼女が最も危惧することは、彼らが石化の前に言い残した『インセクトロイド・ゼロ』のことだった。

「……流星群に遭遇し艦外に放り出された我々は、宇宙を漂流中に拿捕(だほ)され、すべての細胞をスキャンされた。そして我ら虫人に特有の『変異細胞』の塩基配列をコピーされた。それを行なったのは、小型の『インセクトロイド』だった。それは自らをこう名乗った『ゼロ』と……」

サリナの胸騒ぎの原因はこれだった。


「サクヤが作ったインセクトロイドとは違うインセクトロイド・ゼロ……」

「ゴツン……」

衝撃がベガを振るわせた。タキオン粒子砲がキャステリアから外され、ようやくベガの甲板に降ろされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ