54.二人の推理
二人の推理
「セイレが僕に言ったゼロが『アマネ・ゼロ』と同一人物だとしたら、以前からアマネは地球に来ていた。そして海底の大陸アガルタに一度侵入しているはずだ。彼はAIとは無関係の艦を操り外宇宙から飛来したのかもしれない。もしそうだとしたら、アマネはドクター・的場たちと外宇宙で出会ったんだろう。セイレはカプセルロケットが地球に戻る事を信じている、二人はまだ宇宙にいるんだ……」
「ケイジ、見直したわ。私も同じこと考えてる」
「コレッタ、ソムテルに返信しておいてくれ。日高所長が人魚の話を信じてくれるかはわからないが、少しは役に立つだろう」
「オッケイ」
早速それはソムテルに届いた。日高は送信内容を確認すると更に不思議がった。
「だが妙だな、ドクター・的場の『新耐圧殻の論文』に協力者として名を連ねているのに、アマネはそのファイルに目を通していないのではないだろうか。もし内容を知っていたら、パラボラの設計の大部分をわざわざ雄馬に委ねる必要はなかったはずだ」
「つまり、論文の存在は知っていたが、アマネ自身はそれを見たことがないということですか」
趙が日高に聞き返した。
「そう、あるいはその時には全く興味がなかったかのどちらかだ。アカデミアのデータバンクへのアクセスコードはごく一部の者しか知らないし、アマネは外部の人間だから閲覧は許されない」
日高は趙にそう答えた。
「あとは、哲生からの連絡待ちだ。あいつなら何かをきっとつかんでいるはずだ。アマネ・ゼロ、彼のことがどうも気にかかる……」
「所長、お疲れではないですか。あとは私たちが待機していますのでご帰宅されてもよろしいですよ」
「趙、ありがとう。そうだな、そうさせてもらおうかな」
「確か明日でしょう、娘さんがこちらにいらっしゃるのは」
「ああ、もうあれから3年になるのか……、あっという間だったな」
「鈴ちゃん、どんな女の子になっているかしら?」
「少しは活発になっていればいいのだがね」
「アマゾンですからね、いやでもたくましくなりますよ」
「だといいんだが……」
日高の一人娘は亡き妻の「天童」姓を名乗っている。のちにアガルタに向かう「天童鈴」である。3年の約束で南米に渡り生き物の研究、中でも「突然変異」や「進化」等々を調べている。
月から地球に移送される「ヘリウム3」は「ルノチウム」の結晶から取り出される。「ニュートリノ」に似た、ごく微細の光粒子は宇宙空間を自由に浮遊する。その動きは一ヶ所にとどまる事をしない、その光粒子を一方向に発射し宇宙空間を移送する。光粒子は生細胞さえ突き抜けるのだが、それを多層コーティングした巨大な凹面鏡「パラボラ」が受け止め、太陽炉の燃料棒として再結晶させるのだ。ルノチウムへの不純物の混入を防ぎ、移送効率を高めるには月面基地周辺の調査を定期的に行う必要がある。そのデータを集め施設の保守、改良を行うのは「コスモアカデミア」の重要な任務だ。富士市にある「コスモアカデミア」に勤務する、コレッタとケイジに加え、「橘亜矢」が月面調査の主要メンバーだ。小型ロボット研究が進む「パリアカデミア」で彼女は地球で最初の「インセクトロイド」を作った。その名を「カグヤ」という。月の内部に発見された「ルナ国」に向かって、インセクトロイド「カグヤ」は太古のマンモス「ジグ」の背に乗り洞窟内を進んでいた。
「ケイジ、やっとカグヤのデータが人工衛星に届いた。地球には30分遅れだけれど音声も再生できる、地球からの送信はまだできないみたい」
カグヤからのデータが少しずつ、コレッタの「デスクトップモニター」で再生をはじめた。彼女は現実に太古のマンモスが月に存在していたことに驚くよりも、それを亜矢が知っていたことのほうが衝撃だった。しかしケイジからアガルタの人魚や、カプセルロケットのことを聞くにつれ、過去に人間たちの知らない出来事が確実に起こり、そしてそれが各地に残っていることに軽い興奮を覚えた。
「これからカグヤが『月の歴史』を私たちに伝えてくれる。それは実は『地球の歴史』なのよ」
「コレッタ、いいこと言うじゃあないか」
「これも亜矢からの受け売り。でもきっとそれはいいことばかりじゃあない、闇の歴史だってあるはず……」
「それは?」
「これは私のオリジナル」
「そうかもしれない、化石燃料を食い尽くしちまったものなあ、俺たち人間は」
「最初からもう一度データの再生をするから、ケイジもちゃんと見なさいよ」
「その前にカフェオレ持ってくる」
「私のも忘れないでね」
「承知致しました」




