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約束の地  作者: 黒瀬新吉
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52.中止された計画

中止された計画


研究所に一機のジェットヘリが戻ってきた、言わずと知れた日高の帰還だ。日高の記憶が戻っていれば心強いのだが、二人には確証がなかった。フクロウが言葉を話すことさえ、普通の人間なら到底信じないだろう、サラはノウルに釘を刺した。

「当分あなたは私のペットでいるのよ、言葉なんて話したら大騒ぎになるからね」

「そうしよう、人間の言葉は面倒くさいからな」


「認証されました。おかえりなさい、ミスター・日高」

認証コードを打ち込まれたドア・ロックが解除された。

「所長、お疲れ様でした。いかがでしたか」

「ああ、ただいま。おやサラ君も来ていたのか、ちょうどいい」

日高はコートを脱ぐと早速悠馬との話を二人にひと通り話した。

「おや、可愛い新人だね」

日高はサラの肩にとまった白フクロウに気付くと、そう言って手を伸ばした。驚いたノウルがその手の甲に爪を立てた。

()ッ」

「所長大丈夫ですか。こらっ、ノウルなんてことを」

驚いてノウルはロッカーの上に飛び上がった、日髙の甲は少し血がにじんだ。


「ありがとう、サラ君。少し大げさだが」

「後でよく叱っておきます。まだあまり慣れていないもので」

包帯を巻き終えてサラはロッカーの上から様子をうかがっているノウルを「キッ」と睨みつけた。

「それで一番の気がかりは、アマネがいつ、どこでドクター・的場と会ったのかということだ。哲生にスリー・Aのデータをもう一度調べてもらっているんだが……」

サラが聞き返した。

「ドクター・的場は確か、耐圧殻の研究者ですよね。日本アカデミアに飛び級で入った人。それならあの二人に聞いてみれば何か知っていると思います、日高所長」

「コスモアカデミアの二人、コレッタとケイジか……」

「連絡を取れるのか、サラ」

「通信回路を貸していただければ、すぐにでも」

日高がパスワードを打ち込み、アカデミアの専用回線をつないだ。


「確か、二人は今は亜矢と共同で月面探査を続けているはず。昨日の実験も注視しているはずだからきっとつながる」

彼女が言う通り二人は富士市にあるコスモアカデミアで電波望遠鏡を覗いていた。亜矢が開発した「カグヤ」は通信回路がまだ完全には復旧していないため、月からの画像が転送されるまで大幅に時間を要していた。それでもなんとか送られてきた画像を「コレッタ」と「ケイジ」は交代で修復しつつ分析を続けていた。サラが二人のことをよく知っているのは当然だった。二人ともソムテルの研究所員である。ケイジは「海洋センター」に派遣されていた。そこではイノウエ博士の開発した「耐圧殻(たいあつかく)」の改良を進め、地球内部(コア)のエネルギーを探査し、利用する「ジーザス・コア計画」のため海底での実験を日々続けていた。アマネの提案した「ジーザス・システム」が地球外からエネルギーを運び込むのとはちょうど逆だ。だが「ジーザス・コア計画」はやがて中止される。その探査技術はその後、方針転換とともに月に向けられた。元々は海底の探査用に亜矢が「インセクトロイド・カグヤ」を作り上げたのだ。


昨日コレッタとケイジは月面を注視していた。もちろん月面の「ルノチウム抽出装置」も「移送システム」にも異常はなかった。マイトの開発した「新AI」もコオの高精度の「掃射システム」もそしてドクター・的場の指摘した改善点に加え、ケイジが更なる改良を重ねた耐圧殻で重層コーティングされた「パラボラ」も完璧に作動したのだった。コレッタはサイバー攻撃に備えてアカデミアのコンピュータのすべてを管理、制御出来るスペシャリストだ。理由は不明だが彼女が唯一心を開いているのはパリアカデミアの亜矢だけだ。


「メッセージのスキャン完了。安全性95%」

コレッタがそのメッセージを開封しながらケイジを呼んだ。

「亜矢かしらね、違う、これはソムテルからの緊急回線だわ。ケイジちょっといい?」

「えーっ、交代の時間にはまだ早いんだけどなぁ……」

乱れた髪のまま、ケイジこと久我啓示(くがけいじ)が仮眠室のドアを足で器用に開けて出てくると、コレッタの隣に座った。モニターを覗き込んでそのメッセージを素早く一読して言った。

「アマネ・ゼロ、残念だがこの度初めて聞いた名前だ。ドクター・的場については多少知っている。彼は耐圧殻で覆われたカプセルロケット『アマト』で外宇宙を航海している。やがてこの地球に戻ってくるに違いない。それもそんなに先のことではないはずだ」

「なんでそう言い切れるの、ケイジ」

「この星のことが心配だからさ、それに約束を果たすためにね」

「いったいどんな約束よ?」

「この星に必ず戻ってくるという約束さ、君は信じないだろうけど」

「誰だって信じないわよ、今時人魚の話ってね」

「でも、亜矢は信じてくれたよ、君とは違って」

「亜矢は優しいからでしょ、私は海底に人魚の国があるなんて聞くと頭が沸騰しちゃうけどね……」


「イノウエ教授もドクター・的場もそして万寿女史も人魚と関わっている。俺を救ってくれた人魚がそう話した」

「それ、ケイジが深海探査艇の中で見た夢の話でしょ。何度も聞かされたわ、外宇宙の星に行く二人を人魚姫が見送ったって話し」

コレッタは彼が「ジーザス・コア計画」のために「海洋センター」にいた頃、深海探査艇に乗っていたことを思い出した。

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