5.ベガ
ベガ
「何っ、ルノチウムが外宇宙の星で本当に見つかったのか?」
「間違いありません、我が母星もこれで救われるかもしれませんぞ」
「そうか、ルノチウムがな……。ゴラゾムそしてビートラ、もう少し待っていてくれ。残念なことにひと足先に旅立っていった虫人たちは、結局第二の母星を見つけることはできなかった。しかし我が艦はその勇者、生き残りの虫人を数名収容している。ああ、もしあの流星群の直撃がなければ彼らとともにとっくに帰還できていたものを……」
『漂流』とも思われる速度で航海を続けていたのは、『ゴリアンクス』の調査船『べガ』だった。その艦長の名は『カザト』と言った。幾多の流星群に遭遇し、その船尾に致命的な損傷を受けていた『べガ』は『ルノチウム』の流出により外宇宙航法がとれなかった、それでも無人の探索用衛星を四方に放出しながら『ゴリアンクス』へ向かっての帰還途中だった。その探索用衛星のひとつが『ルノチウム』を発見したとの連絡を受け取ったのである。
「カザト様、目下の惑星にもわずかですがルノチウムの反応があります。おそらく我らの仲間の艦があの星に不時着しているのだと思われます」
「仲間の艦があの星にいるというのか、よし急ぎそこに迎え。探索用衛星は遠隔操作し、ルノチウムをべガに送るように指示しておくのだ」
「承知いたしました。補助エンジン全開、目標は前方の黒色惑星。続いて本艦は探索用衛星と『物質転移装置』のシンクロを開始する、ロック・オン!」
副官の『オグマ』が『カザト』の指示通りに手際良く『べガ』を操った。
「この艦はいったい……」
その艦は甚だしく損傷をしていた。生存者はいない、石化した虫人の遺体に彼は哀悼の意を表した。一人ずつ『メモリー・ライト』を照射しては、一瞬浮かび上がる勇者の姿を確認していった。その顔に二人は見おぼえがあった。
「ザーラー、ヘリメウス、ルーン殿まで……」
「オグマ、変だなこの艦はまるで放棄されたようだ」
「おっしゃられる通りでございます。それにこの艦はおそらく建造途中だった『キャステリア』、王家の新鋭艦でございましょう。しかし内部がかなり改造されています、何か大切なものを運ぶため艦内に巨大な空間と施設が設けられています……」
「おそらく『兄者』たちのこと、虫人たちをひとりも残さずこの艦に乗せ、ここまでたどり着いたに違いない。そして力つきたキャステリアはここに放棄された……」
「カザト様、少しの間でしたらモニターが再生できます」
「本当か、オグマ。何かわかるかも知れん、再生してみてくれ」
モニターに映し出されたのは、彼が兄と呼ぶ懐かしい従兄弟の姿だった。
「……ヨミ、約束通りこの体をお前にくれてやろう。リカーナ、そしてビートラよ虫人のことを頼むぞ。いつかカグマたちに会えたら、ともに生きよ。さあヨミ、大事に使えよこのゴラゾムの体を……」
そこでモニターは終わっていた。
「兄者はヨミに取り込まれてしまったというのか」
「これをご覧ください、もしやと思い航跡レーダをさかのぼってみると、キャステリアはすでにゴリアンクスを『外宇宙時間』で百年以上前に出発しています」
「なるほど、星の寿命に抗うことを断念し、虫人たちを移住させようとした訳か。しかしこのキャステリアに虫人たちすべてが乗り切れるはずはないと思うが」
「ええ、虫人の姿のままでは到底無理です……」
カザトは意味深なオグマの言葉から彼の意をくんだ。
「虫人たちを原始生命体にまで融合させたのか、リカーナの『あの力』を使って……」
しばらくカザトは考えると、指示を待つオグマにこう命じた。
「虫人の新たな艦の名はルノクスの『レムリア』に違いない。本艦はこの地に留まり、破損したエンジンをキャステリアのエンジンと換装する。その他の艤装はオグマに任せる。ルノチウムの補充が済み次第、レムリアを追う。もちろん衛星からの空間転移は最小限でいい。航海中に補充すればいいはずだ、時間は三日以内だ、できるか?」
オグマは手に持ったファイルを指し示した。
「既に、キャステリアの使える部品はこのリストにございます」
「タキオン粒子砲は三門使えるように、カートリッジ弾には充填を忘れずにな」
「カザト様、それは重装備ですな。やはり気になりますか?」
「……ああ少し、これも用心のためだ。少し疲れた、そろそろ私はベガに戻る……」
彼が見えなくなると、オグマはひとりごちした。
「さすがは『ベガ家』のカザト様、あのご病気さえなければ……」
やがて艤装が急ピッチで進む『ベガ』に向けて、少しずつ『月』の『ルノチウム』が転移されていった。




